一人親方が仕事の車で人身事故を起こしたとき|自賠責が払うのは相手の体の損害だけで、傷害は1人120万円までです

朝7時半、現場へ向かう軽バンの荷台には石膏ボードと脚立。住宅街の細い交差点で、右から自転車が出てきた。ブレーキは間に合わず、相手は転んで膝を押さえている。頭に浮かぶのは「今日の現場どうしよう」と「保険って何が出るんだっけ」の2つです。

結論からお伝えすると、仕事の車で人をけがさせたとき、車を自分のために使っている一人親方は、自動車損害賠償保障法(自賠法)3条の「運行供用者」として、ほぼ過失の有無を問わず賠償の責任を負います。自賠責保険が払うのは相手の体のけがと死亡だけで、傷害は1人120万円までです(自賠法施行令2条)。相手の自転車や塀の修理、自分のけがは自賠責からは出ません。そして何より先に、車を止めて負傷者を救護し、警察に報告する義務があります(道路交通法72条1項)。

人身事故の直後にやる5つの手順。止まってけが人を助ける、警察へ報告する、相手と現場を写真に残す、保険会社へ連絡する、元請けへの連絡は最後。

事故の直後にやることは、法律で決まっている

道路交通法72条1項は、交通事故があったとき、運転者は「直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない」と書いています。そのうえで、現場の警察官か最寄りの警察署に、日時・場所・死傷者の数・けがの程度・壊れた物などを報告しなければなりません。

  1. 車を止め、ハザードを出す
  2. 相手のけがを確かめ、必要なら119番
  3. 後続車にはねられないよう、安全な場所へ移る
  4. 110番して事故を報告する(相手が「大丈夫」と言っても報告する)
  5. 相手の氏名・連絡先、車のナンバー、現場の写真を残す
  6. 保険会社と、その日の元請けへ連絡する

現場に遅れる連絡は、救護と報告が終わってからです。順番を逆にすると、救護義務を果たしていないと見られかねません。

「運行供用者」とは誰のことか?

自賠法3条は、責任を負う人を「自己のために自動車を運行の用に供する者」と書いています。自分の名義の軽バンで、自分の仕事のために走っている一人親方は、まさにこれに当たります。

この責任が重いのは、ただし書の免責の条件が3つそろわないと逃れられない点です。

  • 自分と運転者が、運行に関して注意を怠らなかったこと
  • 被害者か第三者に故意または過失があったこと
  • 車に構造上の欠陥や機能の障害がなかったこと

この3つを、責任を負う側が証明しなければなりません。実際には、ぶつけた側がこれを全部証明するのはかなり難しく、「相手が飛び出してきたから払わなくていい」とはなりません。過失の割合で金額が調整されることはありますが、それは賠償の額の話です。

自賠責から出るのは、いくらまでか

保険金額は政令で決まっています(自賠法13条1項、施行令2条・別表)。被害者1人につき、次のとおりです。

  • 傷害:120万円
  • 死亡:3,000万円
  • 常に介護が要る後遺障害(別表第一の第1級):4,000万円
  • それ以外の後遺障害(別表第二):第1級で3,000万円、等級が下がるほど少なくなる

治療が長引けば、120万円は通院と休業の補償であっという間に使い切ります。超えた分は自分で払うことになり、それを埋めるのが任意保険の対人賠償です。そして自賠責は「生命又は身体」の損害だけが対象なので、相手の自転車、ぶつけた電柱やブロック塀は、任意保険の対物賠償がなければ自腹です。

自分のけがと、仕事を休んだ分はどうなるのか

自賠責は「他人」のための保険です。自分の治療費は出ません。一般的には、労災保険の特別加入をしていれば、仕事中や現場への移動中の事故として労災の対象になることがあります。ただし、自宅から現場への移動が「通勤」か「業務」か、そもそも特別加入の範囲に入るかは個別の事情で変わります。加入している団体と労働基準監督署に確かめてください。休業補償の仕組みは一人親方がケガで休むときの備えにまとめています。

相手との話がまとまらないときは

被害者は、保険会社に直接、損害賠償額の支払いを請求できます(自賠法16条1項。被害者請求)。この請求権は、損害と保有者を知った時から3年で時効になります(19条)。加害者の側が先に払った分を保険会社に請求することもできます(15条)。示談の金額に納得できないときは、自分だけで決めず、保険会社や弁護士に相談してください。

自賠責から出るものと出ないものの比較。相手のけがは120万円まで、死亡は3,000万円まで、常に介護が要る後遺障害は4,000万円。相手の物の修理、自分のけが、120万円を超えた分、刑事と行政の責任は出ない。

都合の悪いことも書いておきます

  • 自賠責が切れた車で走ると、それだけで犯罪です。1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(自賠法5条・86条の3)
  • 車検と自賠責の期限は別のことがある。車検証だけでなく、自賠責の証明書の期間も見る
  • 任意保険の「業務使用」。家庭用の契約のまま毎日仕事で使っていると、契約の条件と合わないことがある。加入時の使用目的を保険会社に確かめる
  • 行政処分や刑事の責任は、保険では消えない

まとめ

仕事の車で人をけがさせたら、まず止まって救護し、警察へ報告します(道路交通法72条1項)。自分の仕事のために車を使っている一人親方は、自賠法3条の運行供用者として、ほぼ逃れられない責任を負います。自賠責から出るのは相手の体の損害だけで、傷害は120万円まで。物の損害と自分のけがは、任意保険と労災の特別加入で備えるしかありません。条文と保険金額は2026年10月11日にe-Gov法令検索で確認しました。個別の事故の扱いは、保険会社・警察・弁護士にご相談ください。

(出典:自動車損害賠償保障法2・3・5・13・15・16・19・86条の3、同法施行令2条・別表第一・別表第二、道路交通法72条(e-Gov法令検索の現行条文))

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