一人親方が契約書の違約金の条項を読むとき|違約金を払っても、仕事を降りられるわけではありません
たとえば、請負代金80万円の工事で、元請けから渡された契約書の最後に「工期に遅れたときは違約金を支払う」「契約を途中でやめるときは、請負代金の20%を違約金とする」と書いてある。20%は16万円。判を押す前に、この一行を読み飛ばしてよいのか、払えば降りられるという意味なのか。一人親方が先に知っておきたいことをまとめます。
結論からお伝えすると、契約書に書く「違約金」は、民法420条の「賠償額の予定」と推定されます(同条3項)。約束の額を、実際の損害を証明しなくても請求できる形にしておく条項です。ただし、払えば仕事を降りられる料金ではありません。賠償額を予定しても、相手が履行を求めることも、解除することもできます(同条2項)。契約書では、次の4点を見ます。
- 誰が誰に払うか:一人親方の側だけに書いてあるのか、元請けの遅れにも書いてあるのか
- 何をしたら払うか:遅れたとき、途中でやめたとき、手直しに応じないときなど、場面ごとに書いてあるか
- いくらか:定額か、1日ごとか、上限があるか
- 言葉は何か:「違約金」か、「損害賠償額の予定」か、「違約罰」か

違約金は、そもそも何のための約束か
民法420条1項は、当事者は債務の不履行について損害賠償の額を予定することができると定めています。契約のときに額を決めておけば、あとで損害がいくらだったかを争わずに済みます。
決めていなければ、民法415条により、損害が生じたことと、その額を請求する側が示さなければなりません。違約金の条項があるのは、この立証の手間を省くためです。逆に言えば、実際の損害が小さくても、決めた額が基準になります。
金銭の支払いが遅れた場合は別です。民法419条2項により、債権者は損害の証明をしなくても、法定利率か約束した利率で請求できます。この話は一人親方が遅れた代金に遅延損害金を付けるときに書きました。この記事は、遅延損害金とは別に書かれる「違約金」の側を読みます。
違約金を払えば、仕事を降りられるのか?
降りられません。民法420条2項は、賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げないと定めています。たとえば「中途でやめるときは請負代金の20%を支払う」と書いてあっても、これは16万円を払えば契約から抜けられるという料金表ではありません。相手は16万円を請求したうえで、続きの工事を求めることも、契約を解除することもできます。
契約書に「違約金を払えば解約できる」と明確に書いてあれば別です。その場合は、払って抜ける約束として読まれる余地があります。ただし、条文だけでは結論が決まりません。書き方があいまいなときは、払う前に弁護士に確かめてください。
反対向きでも同じです。元請けが一方的に契約を打ち切ったとき、契約書に元請け側の違約金が書いてなければ、一人親方は民法の原則で、実際にいくら損をしたかを示して請求することになります。

「違約金」と書くと、損害賠償の代わりになるのか
民法420条3項は、違約金は賠償額の予定と推定すると定めています。推定なので、契約書に別の意味で書いてあれば、そちらが優先されます。
- 「違約金」とだけ書いてある:賠償額の予定と推定されます。決めた額を超える損害が出ても、上乗せして請求できるとは限りません
- 「違約金のほかに、損害の賠償を請求できる」と書いてある:違約金とは別に、実損の請求を残した書き方です。読む側は、違約金が罰として上乗せされる形になっていないか確認します
- 「違約罰」と書いてある:条文には出てこない言葉です。賠償額の予定ではなく、罰として別に取る意図で書かれている可能性があります
どの書き方でも、書いた側の意図と、契約全体の読み方で結論が変わります。条文から断定できるのは、「違約金」とだけ書けば賠償額の予定と推定されるところまでです。
額が高すぎたら、減らしてもらえるのか
ここは古い解説とずれやすいところです。令和2年(2020年)3月31日までの民法420条1項には「この場合において、裁判所は、その額を増減することができない」という一文がありました。e-Govの条文を日付を指定して並べると、2020年4月1日の時点では、この一文が消えています。
だからといって、高すぎる違約金を裁判所が減らしてくれると条文が約束しているわけではありません。民法90条は、公序良俗に反する法律行為を無効としています。極端な額が90条で無効になるかどうかは、契約の内容、双方の立場、実際の損害との差などで変わります。減額や無効の主張は、弁護士に相談する話です。
消費者契約法の上限は、一人親方の契約には使えない
ネットでは「違約金が高すぎれば、消費者契約法で無効になる」という説明を見かけます。消費者契約法9条1号は、解除に伴う違約金が、同種の契約の解除で事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効としています。2号は、支払いが遅れたときの違約金について、年14.6%を超える部分を無効としています。
ただし、この法律が守るのは「消費者」です。同法2条1項は、消費者を「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」と定義しています。一人親方が元請けと結ぶ請負契約は、事業のための契約です。9条の上限は、元請けと一人親方の間の契約には使えません。
逆の場面もあります。一人親方が自分の自宅の工事を頼む施主になるときは、事業のための契約ではないので、消費者として9条が働きます。同じ人でも、立場で扱いが変わります。
建設業法は、違約金について何を決めているか
建設業法19条1項は、請負契約の当事者が契約のときに書面に記載する事項を並べています。その14号に「各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金」があります。条文が求めているのは、これを契約書に書いて、署名か記名押印をして、相互に交付することです。額や率の上限は、この条文には書かれていません。
国土交通省が公表している建設工事標準下請契約約款(令和元年12月13日改正の新旧対照表)には、履行が遅れた場合の損害金や遅延利息について、「遅延日数に応じ、年〇パーセントの割合」という書き方が出てきます。率は空欄で、当事者が決める形です。この約款は、使うかどうかが自由なひな形です。使われていない契約書では、書いてある率や額が、そのまま契約の中身になります。
見るのは、一人親方の工期遅れのときの損害金と、元請けの支払いが遅れたときの遅延利息が、同じ規則で書いてあるかどうかです。前者にだけ細かく書いてあり、元請けの代金の遅れに率が書かれていなければ、後者は民法419条の法定利率で請求することになります。
都合の悪いことも書いておきます
- 違約金の条項を削る交渉は、立場によっては通りません。削れなくても、日割りにする、上限を付ける、元請けの遅れにも同じ規則を書く、という形に変える余地はあります
- 「違約金を払えば降りられる」と思って判を押す人がいますが、条文はそう読んでいません。降りたいときは、契約書の解除の条項を先に読みます
- 高すぎる違約金が無効になるかは、事案ごとに結論が変わります。この記事は、請求を受けた場合の勝ち負けを判断するものではありません
- 契約書の文言は、1語の違いで読み方が変わります。判を押す前に、意味が取れない一文を写真に撮って、弁護士や法テラスに見せるほうが安く済みます
契約書を交わさずに受けた工事の扱いは、契約書を交わさずに受けた工事はどうなるかに書いています。手直しの期間をめぐる約款の数字は、一人親方が工事の保証を聞かれたときの答え方にまとめました。
まとめ|違約金の条項を読む4つ
- 双方向か:元請けの支払い遅れにも、同じ考え方で書いてあるか
- 場面ごとか:遅れたとき、途中でやめたとき、手直しのときで、額が分かれているか
- 額の出し方:定額か日割りか。上限があるか。80万円の工事なら、20%は16万円、1日0.1%なら800円と、計算して書き出す
- 降りる道:違約金とは別に、解除の条項があるか。違約金を払えば降りられるとは、条文からは読めない
個別の契約書の読み方や、請求を受けたときの対応は、事案ごとに結論が変わります。弁護士、法テラス、建設業の相談窓口に確認してください。契約書の条項で迷った経験は、同じ立場の人の役に立ちます。相談・雑談の掲示板にどうぞ。
(出典:民法90条・404条・415条・419条・420条(2020年3月31日と4月1日の条文を日付指定で比較)/消費者契約法2条・9条/建設業法19条(いずれも e-Gov法令検索)/国土交通省「建設工事標準下請契約約款」令和元年12月13日改正の新旧対照表)


