一人親方が電子記録債権(でんさい)で払うと言われたとき|建設業法が名指しするのは手形だけで、割引には遡求が付きます
元請けの経理から「来月分から、お支払いは電子記録債権(でんさい)にします」と連絡が来た。口座に入る日は変わるのか。急ぎで現金が要るときはどうするのか。手形なら建設業法に決まりがあると聞くが、でんさいにも同じ決まりがあるのか。受け取る側の一人親方が、返事をする前に押さえておきたい点をまとめます。
結論からお伝えすると、建設業法24条の6第3項が「割引を受けることが困難な手形」の交付を禁じているのは手形で、この条文にも国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン(第12版)の該当項目にも、電子記録債権は出てきません。でんさいを受けるなら、次の3つを先に決めます。
- 自分も利用契約が要る:取引先の銀行で申し込まないと、相手はでんさいで払えません
- 期日前に現金化するなら、譲渡して割引:このとき譲渡した側に、元請けが払えなかったときの請求が付きます
- 割引料と入金手数料を誰が持つか:国の基準は「受け取る側に負担させない」と書いています
でんさいは、紙ではなく「記録」でできている債権です
電子記録債権は、電子債権記録機関の帳簿(記録原簿)に記録して初めて生まれます。発生は発生記録(電子記録債権法15条)、譲渡は譲渡記録をしなければ効力が出ません(同法17条)。債権の中身は、その記録で決まります(9条1項)。手形のように、紙の証券を手渡す場面はありません。
- 支払期日は、確定日として記録されます(16条1項2号)。期日が土日祝日なら、入金は翌銀行営業日です(でんさいネットの説明資料)
- 支払いは、元請けの決済口座から自分の口座への送金で行われます(16条2項1号)。期日に口座を見れば、入ったかどうかが分かります
- 受け取る側にも利用契約が要ります。申込は取引先の金融機関で、でんさいネットの参加金融機関でなければ使えません
- 請求できる期間は3年です(23条)。期日を過ぎたまま放っておくと、時効で消えます

建設業法が名指ししているのは、手形だけです
建設業法24条の6第3項は、特定建設業者が注文者になった下請契約で、支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難な手形を交付してはならないと定めています。国土交通省は2024年4月30日の通知(国不建推第10号)で、2024年11月1日以降に交付する手形は、手形期間が60日を超えるとこの項に違反するおそれがあるとしました。ガイドライン第12版の11も同じ内容です。
ただし、この条文は「元請けが特定建設業者」で、受け取る側が特定建設業者でも資本金4,000万円以上の法人でもないときの話です。一人親方は通常この除外に当たりませんが、元請けの許可の種類は先に確かめてください。詳しくは一人親方が遅れた代金に遅延損害金を付けるときにまとめています。
私が読んだ範囲では、24条の6第3項の条文と、国土交通省の2024年の通知、ガイドライン第12版の11には、電子記録債権への言及がありません。この項がでんさいに及ぶのかどうかは、文面からは読み取れません。次の場面では、許可行政庁(県の建設業課)や弁護士に確認するのが確実です。
- 元請けから、支払期日が90日や120日先のでんさいを出された
- 期日前に割引を断られた、または割引料が高すぎて手元に残らない
代金を現金で払うことについては、建設業法24条の3第2項が「労務費に相当する部分は現金で支払うよう適切な配慮をしなければならない」と定めています。ガイドライン第12版の10-2は、全額を手形で払うことと、労務費に満たない額だけ現金にして残りを手形にすることを「望ましくない」例に挙げています。でんさいは例に出ていませんが、書かれている趣旨はできる限り現金です。
なお、取適法は手形払いを禁じていますが、建設工事の請負は取適法の対象になりません(ガイドライン14-5)。工事の請負で何が使えるかは建設業法の側で見ます。仕組みの全体は一人親方が支払いの遅れる元請けを契約前に見抜くでも書いています。
期日の前に現金化したら、遡求されることがあるのか?
あります。期日前に資金が要るときは、でんさいを金融機関に譲渡して割引を受けます。譲渡は、必要な金額だけ分けてできます。たとえば100万円のでんさいのうち40万円だけを譲渡し、残りは期日に口座へ入る形も取れます。
気をつけたいのは、でんさいネットが「譲渡記録には、譲渡人の保証がセットされる」と説明している点です。元請けが期日に払えなかったとき、譲渡した人は、割引を受けた金融機関から遡求を受けることがあります。割引で現金を受け取った時点で、元請けとの関係が終わるわけではありません。
- 割引できるかどうかは、金融機関ごとの判断です。自分の銀行で受けたでんさいだけを割引する銀行もあります
- 割引料の水準は、金融機関と本人の信用で決まります。仮に年3%で割り引くとすると、100万円・期日まで60日で約4,900円、90日で約7,400円です(計算例で、実際の料率は銀行に確かめてください)
- 譲渡を受けた金融機関に対し、元請けは「手直しが済んでいない」といった個別の事情を主張できません(電子記録債権法20条)。そのため、元請けと揉めている工事の代金は、割引に出す前に決着をつけておくほうが安全です

割引料と入金手数料は、誰が持つのか
ガイドライン第12版には、受託中小企業振興法の振興基準(2025年10月1日)が載っています。ここでは、ファクタリング等(一括決済方式と電子記録債権)で代金を払うとき、現金化の手数料などを受け取る側の負担にせず、受領日から60日以内の支払期日までに受け取る側が代金を満額取得できるようにする、とされています。電子記録債権を使うかどうかは、受け取る側の自主的な判断を尊重するとも書かれています。
建設工事の請負は取適法の対象ではありませんが、ガイドライン14-5は、建設工事の発注者・元請けも振興法の「委託事業者」に当たるとしています。振興基準は主務大臣が指導・助言・勧奨に使う基準で、罰則のある条文ではありません。それでも、契約の前に「割引料と入金手数料は元請けで持ってもらえるか」と聞く根拠になります。
元請けの支払い能力は、どこで見るのか
でんさいには、手形の取引停止処分に似た制度があります。債務者が6か月以内に2回以上、支払不能を出すと、でんさいネットの利用と参加金融機関との貸出取引が2年間禁止されます(でんさいネットのよくある質問・業務規程48条・49条)。処分が出るのは2回目の支払不能のあとなので、1回目の時点で、期日に払えない元請けだと分かります。支払いが遅れ始めたときの動き方は一人親方が支払いの遅い元請けに動く順番、倒産を疑ったときの担保は一人親方が元請けの倒産を疑ったときに書いています。
まとめ|でんさいで払うと言われたときに確かめる5つ
- 自分の利用契約:取引先の銀行がでんさいネットの参加金融機関か。申込から使えるまでの日数
- 支払期日:何日先か。60日を超えるなら、その理由を元請けに聞く
- 割引できるか:自分の銀行が割引に応じるか、受けたい金額に足りるか
- 手数料:割引料と入金手数料を元請けが持つのか、契約書に書けるか
- 遡求:割引したあとで元請けが払えなくなったとき、自分が請求を受けることを知っておく
建設業法がでんさいに及ぶかどうか、元請けの許可の種類で変わる点、割引の条件は、個別の契約で答えが変わります。判断に迷うときは、許可行政庁の窓口、取引銀行、弁護士や司法書士に確認してください。
元請けからでんさいの話が出たときの対応を、同じ立場の職人どうしで話したいときは、相談・雑談の掲示板にどうぞ。
(出典:電子記録債権法2・9・15〜17・20・23条、建設業法24条の3・24条の6(e-Gov法令検索の現行条文)/国土交通省「手形期間の短縮について」国不建推第10号(令和6年4月30日)/国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン(第12版)」/でんさいネット「よくあるご質問」「でんさい基礎編」「一問一答Q&A編」)


