一人親方が手形で払うと言われたとき|期間60日超は建設業法の「おそれ」、紙の手形は2027年3月に交換終了
元請けの経理から「今月分の支払いは、手形でお願いします。満期は120日先です」と言われた。現金が入るのは年明けになる。銀行で割り引いてもらえるのか、期日に落ちなかったらどうなるのか。返事をする前に、受け取る側の一人親方が押さえておきたい点をまとめます。
結論からお伝えすると、建設業法24条の6第3項は、元請けが特定建設業者のとき、一般の金融機関で割り引くのが困難な手形を渡すことを禁じています。国土交通省は、2024年11月1日以降に交付する手形は、手形期間が60日を超えるとこの項に違反するおそれがあるとしています。さらに2026年のいまは、紙の手形そのものが終わりに向かっています。手形を受けるなら、次の3つを先に確かめます。
- 手形期間は何日か:交付日から満期までが60日を超えていないか
- 元請けの許可の種類:特定建設業者でなければ、この条文では止められません
- 振出日と満期:金融機関の「最終振出期限」より前に振り出された手形か。満期が2027年4月以降ではないか

手形期間は、何日から何日までを数えるのか
手形期間とは、手形を交付した日から満期までの期間です(国土交通省「手形期間の短縮について」国不建推第10号)。たとえば2026年10月20日に交付された手形なら、60日後の12月19日が満期でも60日以内、12月20日以降の満期だと60日超です。
満期の日に現金が入るわけではありません。手形を持つ人は、満期の日かその次の2取引日以内に、銀行を通じて支払を求める手続き(呈示)をします(手形法38条・77条1項3号)。満期が休日なら、次の取引日までは請求できません(同法72条)。
建設業法が止めるのは、特定建設業者の「割引困難な手形」です
建設業法24条の6第3項は、特定建設業者が注文者となった下請契約で、支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難と認められる手形を交付してはならない、と定めています。国土交通省の2024年4月30日の通知は、2024年11月1日以降に交付する手形で期間が60日を超えるものを、この「割引困難な手形」に当たるとして、違反のおそれがあるとしました。建設業法令遵守ガイドライン(第12版)の11も同じ内容です。
ただし、条文には外れる場合があります。
- 元請けが一般建設業者:24条の6は「特定建設業者が注文者」の話です。手形期間が長くても、この項では止められません
- 受け取る側が特定建設業者、または資本金4,000万円以上の法人:除かれます(ガイドライン11)。一人親方は通常この除外に当たりません
気をつけたいのは、許可を持たない一人親方の扱いです。条文は、除く相手を「特定建設業者または資本金が政令で定める金額以上の法人」と書いていて、許可の有無は条件にしていません。一方、国土交通省の通知は、対象を「資本金4千万円未満の一般建設業の許可業者」と書いています。私が読んだ範囲では、許可のない一人親方が通知の対象に入るのかどうかは、この文面からは読み取れません。60日を超える手形を渡されたら、許可行政庁(県の建設業課)に確認するのが確実です。元請けの許可の種類は、国土交通大臣許可・都道府県知事許可の別と一緒に、許可業者の検索で調べられます。
60日以内なら、銀行は割り引いてくれるのか?
くれるとは限りません。「60日」は違反のおそれが出る線で、割引を約束する線ではないからです。
公正取引委員会の認定基準(ガイドラインに収録)の留意点は、割引を受けられるかどうかを、振出人の信用、割引を頼む人の信用、手形期間、割引依頼人の割引枠などで判断するとしています。認定基準の5は、手形を交付するなら、工事目的物の引渡しを申し出た日から50日以内に割引を受けられる手形でなければならない、という考え方です。
割引は、銀行に手形を買い取ってもらい、満期までの利息を引かれる仕組みです。仮に年3%で割り引くとすると、100万円の手形は、期間60日で約4,900円、120日で約9,900円が引かれます(計算例です。実際の料率は銀行と本人の信用で決まります)。この負担を誰が持つかは、契約の前に決めておく点です。ガイドライン10-2は、手形で払うなら割引料などの現金化のコストと手形のサイトに配慮が必要だとし、全額を手形で払うこと、労務費に満たない額だけ現金にして残りを手形にすることを「望ましくない」例に挙げています(建設業法24条の3第2項は、労務費に相当する部分は現金で払うよう適切な配慮を求めています)。
2026年の秋、紙の手形で一番気をつけることは何か
全国銀行協会は、2026年6月18日に、電子交換所での手形・小切手の交換廃止時期を2027年3月31日と明確にしました。同協会は、2027年4月1日から手形が使えなくなるわけではないとしたうえで、電子交換所を通らない決済になるため、金融機関の判断で手形の取扱いが変わる可能性があるとしています。
さらに近い話があります。同協会のサイトは、金融機関によっては手形・小切手の最終振出期限を設けていて、10月1日以降は原則として手形・小切手を使った当座勘定からの支払いができなくなる、と注意しています。その期限より後に振り出された手形を受け取ると、資金化できないことがあります。また、手形帳の発行終了や、2027年4月以降を期日とする手形の代金取立受付の終了に動く金融機関も出ています。
- 受け取った手形の振出日を見る。元請けの取引銀行が設けた最終振出期限より前か
- 満期が2027年4月以降なら、自分の銀行が取立や割引を受け付けるかを、受け取る前に聞く
- 元請けに、でんさいや振込への切り替えを頼めないか聞く(仕組みは、一人親方が電子記録債権(でんさい)で払うと言われたときにまとめています)

期日に払われなかったら、どうなるのか
約束手形の振出人は、手形上の支払いの義務を負う人です(手形法78条1項)。期日に払えなければ「不渡り」になります。振出人に対して手形で請求できる期間は、満期から3年です(同法70条・77条1項8号)。
手形交換所の制度では、不渡りを出した振出人は、最初の不渡りの交換日から6か月以内に2回目を出すと、銀行取引停止処分になります。処分を受けると、交換所に参加する金融機関との当座取引と貸出取引が、処分の日から2年間できなくなります(総務省統計局「統計FAQ」が全国銀行協会の説明を引いたもの)。処分が出るのは2回目のあとなので、1回目の不渡りの時点で、その元請けの資金繰りが危ないと分かります。そうなったときの動きは、一人親方が元請けの倒産を疑ったときに書いています。
もう一つ。受け取った手形を、材料屋への支払いに裏書して回した場合、裏書をした人は、反対の文言がなければ、手形の支払いを担保します(手形法15条1項)。期日に落ちなかったとき、材料屋から請求を受ける側に回ることがあります。手形の裏書は、自分の資金繰りの責任に直結します。
まとめ|手形で払うと言われたときに確かめる5つ
- 手形期間:交付日から満期まで。60日を超えるなら、理由を元請けに聞く
- 元請けの許可:特定建設業者かどうか。許可行政庁と検索で調べる
- 割引:自分の銀行が、その元請けの手形を、その満期で割り引くか
- 手数料:割引料を元請けで持ってもらえるか。契約書に書けるか
- 紙の手形の期限:振出日と最終振出期限、満期が2027年4月以降でないか
金額の大きい工事ほど、受け取る前の確認が効きます。請求の遅れそのものに備えるなら、一人親方が遅れた代金に遅延損害金を付けるとき、日々の資金繰りは一人親方が独立1年目に作る資金繰り表に書いています。判断に迷うときは、許可行政庁の窓口、取引銀行、弁護士に確認してください。
元請けから手形の話が出たときの対応を、同じ立場の職人どうしで話したいときは、相談・雑談の掲示板にどうぞ。
(出典:建設業法24条の3・24条の6、手形法15・38・70・72・77・78条(e-Gov法令検索の現行条文)/国土交通省「手形期間の短縮について」国不建推第10号(令和6年4月30日)/国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン(第12版)」10-2・11・「建設業の下請取引に関する不公正な取引方法の認定基準」/全国銀行協会「電子交換所の交換廃止時期の決定および手形・小切手交換廃止時期の明確化について」(2026年6月18日)・「紙の手形・小切手利用廃止へ」/総務省統計局「統計FAQ 06B-Q18 銀行取引停止処分件数」)


