一人親方が注文者の破産で工事を止めるとき|破産手続の開始決定のあとなら、請負人から契約を解除できます
たとえば、元請けの事務所に電話をしても誰も出ない。数日後、裁判所の名前が入った封筒が届き、元請けが破産手続開始の決定を受けたと書いてある。現場は半分まで進み、材料はもう仕入れてしまった。ここで手を止めてよいのか、続けて入れば代金は出るのか。一人親方が先に知っておきたいことをまとめます。
結論からお伝えすると、元請け(注文者)が破産手続開始の決定を受けたあとは、請負人である一人親方からも、破産管財人からも、契約を解除できます(民法642条1項)。ただし請負人が自分で解除できるのは、仕事を完成する前までです。また、解除で生じた損害の賠償を請求できるのは、破産管財人のほうが解除した場合に限られます(同条3項)。止めるか続けるかは、次の3つを見て決めます。
- 開始の決定が出ているか:噂や申立ての段階では、この条文は使えません
- 仕事を完成したか:完成後は、請負人からの解除はできません
- 管財人がどちらを選ぶか:解除なら損害賠償を破産債権として届け出られ、履行なら支払いが財団債権になります

「破産しそうだ」では、まだ解除できません
民法642条1項が使えるのは、注文者が「破産手続開始の決定を受けたとき」です。破産法30条2項は、この決定は決定の時から効力を生ずると定めています。申立てがされたと聞いただけ、支払いが遅れ始めただけの段階では、642条による解除はできません。
決定が出たかどうかは、裁判所が公告します。破産法32条1項は、決定の主文、管財人の氏名、債権の届出をすべき期間などを公告するとしています。同条3項は、知れている破産債権者には、これらを通知しなければならないと定めています。通知の対象は「知れている」債権者なので、届かないこともあります。不安なときは、裁判所に決定の有無を問い合わせます。
倒産の兆しの見つけ方と、着工前にしか使えない担保の話は、一人親方が元請けの倒産を疑ったときにまとめました。その記事は主に破産法53条の、管財人が選ぶ側の話です。この記事は、請負契約に加わる民法642条を読みます。
止めるか続けるか|請負人には3つの道があります
破産法53条1項は、双方がまだ履行を終えていない契約について、管財人が契約を解除するか、破産者の債務を履行して相手の債務の履行を請求するかを選べると定めています。請負でもこの仕組みは働きますが、642条があるため、請負人にも解除の道があります。
- 管財人に確答を求める:破産法53条3項は、2項の催告の仕組みを、642条1項前段の場合にも当てはめると定めています。2項は、相当の期間を定めて解除か履行かの確答を求められ、期間内に確答がなければ、解除したものとみなすという規定です。書面で期間を区切って出します
- 自分で解除する:642条1項前段で、完成前なら一人親方から解除できます。ただし、損害の賠償は請求できません(同条3項)
- 管財人が履行を選ぶのを待つ:管財人が履行を選んだ場合、相手方である請負人の請求権は財団債権になります(破産法148条1項7号)。財団債権は、破産手続によらずに、破産財団から随時弁済を受けられる債権です(同法2条7項)
どれが得かは、現場の進み具合と、管財人の方針で変わります。管財人がいつ答えるかは、条文からは分かりません。
これまでにした仕事の代金は、全額は戻りません
解除したときに、すでにした仕事の代金はどうなるのか。642条2項は、請負人は、既にした仕事の報酬と、その中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入できると定めています。つまり、請求書を出して払ってもらうのではなく、配当を受ける側に回ります。
破産法100条1項は、破産債権は、特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ行使できないと定めています。元請けに直接請求して回収する道は、原則として閉じています。
配当を受けるには、債権を届け出なければなりません。破産法111条1項は、債権届出期間内に、債権の額と原因などを裁判所に届け出るよう定めています。仮の数字で考えます。契約が240万円で、完成部分に当たる報酬が130万円、仕入れた材料費の未払いが20万円なら、届け出るのは「すでにした仕事の報酬と、その中に含まれない費用」です。そのうち配当で戻る割合は、手続が終わるまで分かりません。

自分で解除すると、損害賠償は取れないのか
取れません。642条3項は、解除によって生じた損害の賠償を請求できるのは、破産管財人が契約を解除した場合の請負人に限ると定めています。請負人が自分で解除したときは、請求できません。管財人が解除したときの賠償請求も、破産債権として配当に加わるだけです(同項後段、破産法54条1項)。
この違いが、確答を求める道を考える理由です。自分で解除すれば止められますが、賠償の道は閉じます。管財人に確答を求め、期間内に答えがなければ、解除したものとみなされます(破産法53条2項・3項)。ただしこの読み方が642条3項の賠償に結びつくかどうかは、事案で結論が変わるため、弁護士に確かめてください。
民事再生の場合は、同じではありません
642条が書いているのは、破産手続開始の決定を受けたときだけです。元請けが民事再生の手続を選んだ場合は、別の条文が働きます。民事再生法49条2項は、相手方が催告したのに再生債務者等が期間内に確答しないときは、解除権を放棄したものとみなすと定めています。破産の53条2項とは逆で、確答がなければ契約は続く側に傾きます。同条4項は、再生債務者が履行を選んだ場合の相手方の請求権を共益債権としています。どの手続が始まったのかを、最初に確かめてください。
都合の悪いことも書いておきます
- 配当は、割合が出るまで分かりません。裁判所が、破産財団で手続の費用を賄えないおそれがあると認めると、債権の届出期間を定めないことがあります(破産法31条2項)
- 弁護士に頼めば費用がかかります。数十万円の工事なら、費用のほうが大きくなることもあります
- 完成して引き渡したあとは、請負人からの解除はできません(民法642条1項ただし書)。報酬は配当に加わるだけです
- 現場に置いた材料や道具の扱いは、契約の中身と現場の状況で変わります。写真と納品書を先に押さえてください
止めた現場の出来高の残し方や、元請けを変えるときの請求の仕方は、一人親方が元請けを変えるときの引き継ぎにまとめています。前払いを受けていた場合の配慮の義務は、一人親方が前払金と出来高払いを交渉するときに書きました。
まとめ|注文者の破産を知った日に見る4つ
- 開始の決定:決定が出たか。公告と通知で確かめる
- 仕事の進み具合:完成前か後か。完成後は請負人から解除できない
- 手続の種類:破産か民事再生か。確答のない場合の扱いが逆になる
- 残す記録:出来高の写真、納品書、請求書、届出に使う金額の内訳
個別の債権の届出や、解除の可否は、事案ごとに結論が変わります。弁護士、法テラス、管轄の裁判所の窓口に確認してください。元請けの破産を経験した職人どうしの情報は、同じ立場の人の役に立ちます。相談・雑談の掲示板にどうぞ。
(出典:民法642条/破産法2条・30条・31条・32条・53条・54条・100条・111条・148条/民事再生法49条(いずれも e-Gov法令検索の現行条文))


