一人親方が前払金と出来高払いを交渉するとき|元請けが前払金を受けたら配慮の義務があります
工期2か月、材料を先に30万円分仕入れる現場。見積を出したあと、元請けの担当者から「支払いは完了の翌月末です」と返ってくる。よくある条件ですが、これだと材料代を3か月近く、自分の財布で立て替えることになります。
結論からお伝えすると、何も決めなければ、報酬は引き渡しと同時に払うのが民法の原則です(民法633条)。前払金や出来高払いは、契約で決めたときだけ発生します。そのかわり建設業法19条1項5号は、前金払や出来形部分の支払いを決めるなら、その「時期及び方法」を契約書に書くよう求めています。そして元請けが発注者から前払金を受け取っているなら、下請けにも前払金を回すよう「適切な配慮」をする義務があります(建設業法24条の3第3項)。交渉の材料は、この3つの条文です。

何も決めないと、支払いはいつになるのか
民法633条は「報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない」と定めています。請負は仕事を完成させて初めて報酬が発生する契約なので、法律の標準は「後払い」です。材料を先に買う一人親方ほど、この原則のままだと資金が先に出ていきます。
途中で契約が終わった場合に、できた分を請求できる仕組み(民法634条)は、一人親方が元請けを変えるときの引き継ぎ|途中で切られても、できた分は請求できますで扱っています。ここでは、最初から途中払いを決めておく話をします。
前払金と出来高払いは、何が違うのか
- 前払金:工事を始める前に、代金の一部を受け取る。材料の仕入れや人の手配に使うお金
- 出来高払い(出来形払い):工事の途中で、できあがった分に応じて受け取る。月末締めで「今月は全体の4割まで進んだ」と出来高を出して請求する形が一般的
建設業法19条1項は、請負契約の書面に書く事項を並べています。その5号が「請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法」です。「定めをするときは」なので、前払いを決めること自体は義務ではありません。ただ、口頭で「半分は先に出すよ」と言われただけでは、この号の書き方になっていません。いつ(着手前何日までか)、どうやって(振込か、何割か)まで書面に残して、初めて約束として効きます。
元請けが前払金をもらっているなら、配慮の義務がある
建設業法24条の3第3項は次のとおりです。
「元請負人は、前払金の支払を受けたときは、下請負人に対して、資材の購入、労働者の募集その他建設工事の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない。」
ポイントは2つあります。
- 前提は「元請けが前払金を受け取ったとき」。発注者が前払いをしていない現場では、この項は動きません
- 書き方は「配慮をしなければならない」。必ず払えという義務ではなく、配慮の義務です。ただし「資材の購入」と、まさに一人親方が困る費目を名指ししています
だから交渉では、「前払いしてください」より先に、「この現場、元請けさんは前払金を受けていますか」と聞くのが効きます。受けているなら、条文の側が配慮を求めています。
公共工事は、前払金がある前提で動いている
公共工事では、発注者が前払いをする仕組みが法律で用意されています。公共工事の前払金保証事業に関する法律2条2項は、発注者が前金払をする場合に、保証事業会社が保証を引き受ける仕組みを定めています。自治体については地方自治法施行令附則7条が、保証事業会社の保証がある公共工事について、経費の3割を基本に(総務省令で上下あり)前金払ができるとしています。実際の割合は発注者ごとの規則で決まります。
公共工事の下請けに入るなら、元請けが前払金を受けている可能性が高いということです。
出来高払いを決めたら、元請けは1か月以内に回す
建設業法24条の3第1項は、元請けが発注者から出来形部分の支払いを受けたときは、下請けが施工した出来形に相応する代金を、受け取った日から1か月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない、としています。同条2項は、そのうち労務費に当たる部分は現金で払うよう配慮せよ、としています。
さらに元請けが特定建設業者で、下請けが一人親方のような小さな事業者なら、24条の6で支払期日は引き渡しの申し出から50日以内と決まっています。支払いの遅れへの動き方は一人親方が支払いの遅い元請けに動く順番|監督署が動くのは雇われている人の賃金だけにまとめています。

交渉で使う順番
- 材料費がいくら先に出るかを数字で出す。「30万円を3か月近く立て替える」と具体的に言う
- 元請けが前払金を受けているかを聞く。受けているなら24条の3第3項の話ができる
- 前払いが無理なら、出来高払いを提案する。「月末締めで出来高の7割」など、割合と締め日まで出す
- 決まったら、時期と方法を注文書か請書に書いてもらう。19条1項5号の形にする
- それも無理なら、材料を元請けから支給してもらう形も検討する
よくある質問
前払金をもらったのに工事ができなくなったら
受け取った前払金のうち、できていない分は返すことになるのが一般的です。公共工事で保証事業会社が入っているのは、この返金を保証するためです。一人親方の側は、前払金を材料以外に回さないのが安全です。
小さな現場でも前払いを頼んでよいか
頼むこと自体に問題はありません。条文は金額で線を引いていません。断られても、出来高払いや材料支給という別の形に進めます。
まとめ
- 何も決めなければ、支払いは引き渡しと同時(民法633条)
- 前払い・出来高払いは、決めたら時期と方法を書面に書く(建設業法19条1項5号)
- 元請けが前払金を受けたら、下請けにも回す配慮の義務(24条の3第3項)
- 出来高を受けた元請けは、1か月以内に下請けへ(24条の3第1項)
契約書の読み方は一人親方がはじめての元請けと組む前に確認する5つ|建設業法19条は許可がなくても効くも参考にしてください。支払い条件の相場感を知りたいときは、仕事を探している人の掲示板でほかの職人に聞いてみてください。


