見習いが別の会社へ出向を命じられたとき|法律に「命じてよい」とは書いておらず、根拠は就業規則か入社時の約束です

結論からお伝えすると、見習いが別の会社への出向を命じられたとき、最初に確かめるのは「会社が何を根拠に命じているのか」です。労働契約法14条は出向について定めた唯一の条文ですが、そこに「会社は出向を命じてよい」とは書いてありません。書いてあるのは、命じることができる場合でも、必要性や人選の事情に照らして権利の濫用なら無効、ということだけです。

朝礼のあと、親方から「来月から、うちの籍のまま取引先の現場に行ってくれ。期間はまだ決めていない」と言われた。給料はどちらが払うのか、いつ戻れるのか、誰の指示で動くのか。何も書面がないまま月末が近づいていく。見習いのうちは、こういう話が口頭だけで進むことがよくあります。この記事では、条文と国の通知を開いて、何を聞けばいいかを順番に整理します。

出向を言われたときに聞く4つのことの図解

出向と転籍は何が違うのか

出向は、元の会社に籍を置いたまま、別の会社の現場で、その会社の指示を受けて働く形です。元の会社との労働契約は残ります。これに対して転籍は、元の会社との契約を終えて、移る先の会社と新しく契約を結ぶ形です。

転籍のほうは、民法625条1項が「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない」と定めていて、本人の承諾がないと進みません。出向にはこれと同じ文言の条文がなく、労働契約法14条が濫用のときに無効とする、という形で歯止めをかけています。言われた話がどちらなのかで、聞くべきことが変わります。「籍はどうなるのか」を最初に確かめてください。

出向と転籍のちがいを比べた図解

労働契約法14条には何が書いてあるのか

条文はこうです。「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。」

読むところは2つあります。

  • 「命ずることができる場合において」:命じることができる場合があることを前提にした書き方です。どんなときに命じられるのかは、この条文には書かれていません。会社側に、就業規則の条文や入社時の書面など、命じる根拠があるかどうかが別に問われます
  • 「必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情」:濫用かどうかを見る物差しです。なぜ出向が必要なのか、なぜ自分が選ばれたのか、その他の事情(期間、通勤、給料の変化など)を見ます

就業規則を作って届け出る義務は、労働基準法89条で「常時十人以上の労働者を使用する使用者」に課されています。少人数の会社では就業規則がないこともあります。その場合は、入社時にもらった書面に出向の定めがあるかを見てください。

出向を言われたら、何を聞けばいいのか

聞くことは4つです。メモを取り、できれば書面でもらいます。

  1. 根拠:就業規則の何条か、入社時の書面のどこか
  2. 理由と人選:なぜ出向が必要で、なぜ自分なのか
  3. 期間と戻り方:いつまでか、戻るときはどうなるのか
  4. 給料と保険:給料はどちらの会社が払うのか、社会保険や労働時間はどちらの決まりに従うのか

給料や保険の扱いは、出向元と出向先の取り決めで決まる部分が大きく、条文だけでは答えが出ません。だからこそ、本人が書面で受け取っておくことに意味があります。

現場の技術者として名前を置く話が出たら

建設の現場ならではの注意があります。主任技術者や監理技術者は、所属する建設業者と「直接的かつ恒常的な雇用関係」にあることが求められています。国土交通省の通知「監理技術者制度の運用等について」(平成16年7月15日、最終改正令和5年3月30日)は、在籍出向者を技術者として置こうとする場合の確認手続を、営業譲渡や会社分割に伴う出向(譲渡の日や分割の登記の日から3年以内)、官公需適格組合の組合員からの出向といった、限られた形について定めています。

見習いのうちに技術者として名前を置くことはまずありませんが、資格を取ったあとに出向の話が出たら、出向先の現場で技術者として扱われるのかどうかを、先に確かめてください。

断ったらどうなるのか

根拠のある命令を理由なく拒むと、懲戒の話になることがあります。ただし懲戒にも労働契約法15条の歯止めがあり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒は無効です。まずは上の4つを聞き、家庭の事情や通勤の事情があるならその場で伝えてください。言いにくいことほど、記録に残る形で伝えておくほうが、あとで自分を守ります。

入社前の約束が守られなかったときの考え方は見習いが入社前に内定を取り消されたときに、就業規則と入社時の明示の見方は見習いが「賞与も退職金も出ない」と言われたときにまとめています。

まとめ

出向は、籍を残したまま働く先が変わる仕組みです。法律に「命じてよい」とは書いておらず、根拠は就業規則や入社時の書面にあります。そのうえで、必要性や人選の事情から見て濫用なら無効です。根拠・理由と人選・期間・給料と保険の4つを聞き、書面で残してください。条文は2026年10月8日にe-Gov法令検索で確認しました。個別の判断は、労働基準監督署の総合労働相談コーナー、社会保険労務士、弁護士にご確認ください。

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