見習いが別の会社へ転籍してほしいと言われたとき|承諾しなければ移らず、会社分割と合併だけは別の決まりです
結論からお伝えすると、見習いが「別の会社に転籍してほしい」と言われても、本人が承諾しなければ転籍は成り立ちません。民法625条1項が「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない」と定めているからです。ただし、会社分割と合併のときは別の決まりで契約が移ることがあり、会社分割では書面で異議を出す期限が設けられます。
事務所で書類を渡され、「来月1日から関連の会社の所属になる。ここにサインだけしてくれ」と言われた。書いてあるのは新しい会社の名前と日付だけで、給料も休みも前と同じかどうか分からない。サインをする前に、何が移って何が移らないのかを、条文と国の通知から確かめておきます。

転籍と出向はどう違うのか
出向は、元の会社に籍を残したまま別の会社で働く形で、元の会社との労働契約は続きます。転籍は、元の会社との契約を終え、移る先の会社と新しく契約を結ぶ形です。籍が移る以上、元の会社には戻らないのが前提になります。
民法625条1項の「権利」は、会社が労働者に働いてもらう権利のことです。それを別の会社へ渡すには本人の承諾が要る、というのがこの条文の意味です。サインを求められているなら、それがこの承諾に当たります。
承諾しないと移らないのに、例外はあるのか
あります。会社のかたちそのものが変わる場合です。
- 合併:会社法750条1項は、吸収合併で残る会社が、効力発生日に、消える会社の権利義務を承継すると定めています。勤め先そのものが相手の会社に吸収されるので、個別の承諾で動く話ではありません
- 会社分割:会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(以下、承継法)に特別の決まりがあります。対象は株式会社と合同会社の分割です
承継法では、移される事業に「主として従事する」人かどうかで扱いが分かれます。主として従事する人で、分割契約に「承継する」と定めがあれば、分割の効力が生じた日に契約が移ります(3条)。主として従事する人なのに定めがなければ、書面で異議を出せます(4条)。主として従事していない人が承継の対象にされたときは、書面で異議を出せば移りません(5条)。会社は対象の労働者に書面で通知し(2条)、通知の日から異議の期限までは少なくとも13日を空けなければなりません(4条2項)。
「関連会社に移ってくれ」という話が、ただの転籍なのか、会社分割の一部なのか。まずそれを聞いてください。後者なら書面の通知が来るはずです。

サインする前に確かめる4つのこと
- 新しい会社の労働条件:転籍は新しい契約なので、労働基準法15条1項により、移る先の会社が賃金や労働時間などを明示する必要があります。口頭ではなく書面で受け取ります
- 前の会社の精算:最後の給料の締め日、未払いの残業代、有給休暇の残りがどう扱われるか。条文では決まらないので、書面で聞きます
- 保険と年金の手続き:どちらの会社がいつ手続きをするか
- 断った場合の扱い:今の会社に残れるのか
資格を取ったあとの転籍で気をつけること
主任技術者や監理技術者は、所属する建設業者と「直接的かつ恒常的な雇用関係」にあることが求められます。国土交通省の通知「監理技術者制度の運用等について」(平成16年7月15日、最終改正令和5年3月30日)は、元請の専任の技術者について、入札の申込みの日以前に3か月以上の雇用関係があることを求めています。
同じ通知は、合併・営業譲渡・会社分割に伴って所属が変わった場合は、変わったあとの会社とも恒常的な雇用関係にあるものとみなす、としています。言い換えると、それ以外のふつうの転籍では、移った先での期間を数え直すことになります。資格を持つようになってからの転籍は、この点も聞いておくと、移った直後に現場を任されない理由が分かります。
まとめ
転籍は、元の会社との契約を終えて新しい会社と契約し直すことです。民法625条1項により、承諾しなければ移りません。合併と会社分割は別の決まりで、会社分割では書面の通知と異議の期限があります。サインの前に、新しい会社の労働条件を書面で受け取り、前の会社の精算を確かめてください。条文は2026年10月8日にe-Gov法令検索で確認しました。個別の判断は、労働基準監督署の総合労働相談コーナー、社会保険労務士、弁護士にご確認ください。
辞め方そのものの決まりは一人親方になる職人が元の会社と揉めない辞め方に、入社前の約束の考え方は見習いが入社前に内定を取り消されたときにまとめています。
働き方の相談をしたい方は、これから職人になりたい人向けの掲示板もあります。


