見習いが入社日に出す書類|身元保証書は上限の金額が無いと効力がない

入社日の朝、事務所の机にクリアファイルが1つ置いてある。中身は申告書が2枚、身元保証書が1枚、口座の届が1枚、それに「マイナンバーの写しを明日までに」と書いた付箋。見習いの多くは、何のための紙か分からないまま名前を書いて返します。

結論からお伝えすると、入社日に出す書類は「会社が期限つきで役所に出すための材料」と「会社と自分のあいだの約束」の2種類に分かれます。前者(扶養控除等申告書・マイナンバー・基礎年金番号・雇用保険の番号)は、出さないと会社の手続きが止まり、自分の手取りにも響きます。後者(身元保証書・誓約書)は、書いてある中身を読んでから署名してかまいません。とくに身元保証書は、2020年4月から上限の金額(極度額)が書かれていないと効力が生じないものに変わっています。

見習いが入社日に出す紙の中身(扶養控除等申告書、マイナンバーの確認、社会保険は5日以内、雇用保険は翌月10日まで、身元保証書と誓約書)

会社には「日数の決まった」手続きがある

入社した日から、会社には期限つきの届出がいくつも走り出します。見習いに急いで番号を聞くのは、このためです。

  • 健康保険・厚生年金の資格取得届:入社した日から5日以内(健康保険法施行規則24条1項・厚生年金保険法施行規則15条1項)
  • 雇用保険の資格取得届:入社した月の翌月10日まで(雇用保険法施行規則6条1項)
  • 扶養控除等申告書:最初の給料を受け取る日の前日まで(所得税法194条1項。出すのは働く側で、会社を経由して税務署へ)

雇用保険の届には、個人番号と、前に雇用保険に入っていた人は被保険者番号を書く欄があります(同規則6条1項)。前の会社で雇用保険に入っていたなら、被保険者証か離職票に番号が載っています。持っていれば初日に出すと手続きが一度で済みます。

扶養控除等申告書を出さないと、何が変わるのか?

「家族もいないし、出さなくていいだろう」と机に置きっぱなしにする人がいます。ここは損をしやすいところです。

毎月の給料から引かれる所得税は、所得税法185条1項で2つの表に分かれています。1号(いわゆる甲欄)は「給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者」に払う給料、2号(乙欄)はそれ以外です。扶養する家族がいなくても、申告書を出せば甲欄で計算されます。出さなければ乙欄になり、同じ給料でも引かれる額が大きくなります。

引かれすぎた分は、年末調整か確定申告で戻る余地はあります。ただ、乙欄のままだと年末調整の対象から外れるのが一般的な扱いで、自分で確定申告をすることになります。家族の有無に関係なく、申告書は1枚出しておくのが手間のかからない選び方です。副業などで給料の出どころが2か所あるときは、申告書を出せるのは「主たる給与等の支払者」1か所だけです(194条1項)。

マイナンバーは、見せ方にも決まりがある

会社が番号を集めてよいのは、社会保険・雇用保険・税の手続きに使うときだけです(番号法14条1項・15条)。それ以外の目的で集めることも、手元に置いておくことも、20条で禁じられています。

そして番号を受け取る側には、本人確認が義務づけられています(番号法16条)。いちばん簡単なのはマイナンバーカードを見せることで、カードが無ければ、番号が分かる書類(番号が載った住民票の写しなど)と、運転免許証など本人であることが分かる書類の2つを見せる形になります。付箋に「写しを明日まで」と書かれていたら、カードの表と裏を1回見せれば足りるのか、写しが要るのかを先に聞いておくと、コンビニに走らずに済みます。

年金手帳が見つからないとき

「年金手帳を持ってきて」と言われても、若い見習いは持っていないことがあります。日本年金機構によると、令和4年4月以降に初めて年金制度に入った人には、年金手帳ではなく「基礎年金番号通知書」が発行されています。会社が知りたいのは手帳そのものではなく基礎年金番号です。通知書でも、マイナンバーを伝える形でも手続きは進みます。どれも見つからないときは、会社か年金事務所に「番号が分からない」と伝えれば、探し方を教えてもらえます。

身元保証書は、署名する前に3か所を読む

ここからは会社と自分(と保証人)のあいだの約束です。身元保証書は、見習いが会社に損害を与えたときに、親や親戚が代わりに賠償すると約束する書面です。

  1. 上限の金額が数字で書いてあるか。民法465条の2第2項は、個人が保証人になる根保証契約について「極度額を定めなければ、その効力を生じない」と定めています。身元保証は、いくらになるか分からない将来の損害をまとめて保証するものなので、一般的にはこの個人根保証契約に当たると解されています。「賃金の◯か月分」のような決め方ではなく、「金◯◯万円」と書かれているかを見てください
  2. 期間が何年になっているか。身元保証ニ関スル法律1条は、期間を決めない身元保証を成立の日から3年としつつ、ただし書きで「商工業見習者」は5年としています。見習いの身元保証は、世の中の一般の身元保証より長く効く書き方が条文に最初から入っているわけです。期間を決める場合も5年が上限です(同法2条)
  3. 保証人に不利な特約が入っていないか。同法6条は、この法律の規定に反して保証人に不利な特約を「総テ之ヲ無効トス」としています。また会社には、見習いの仕事や勤務地が変わって保証人の責任が重くなるときなどに、保証人へ通知する義務があります(同法3条)

あわせて誓約書に「道具を壊したら◯万円払う」のような一文があったら、それは労働基準法16条(賠償予定の禁止)に触れる書き方です。実際に壊したときに話し合う余地は残りますが、先に金額を決めて約束させることはできません。

身元保証書で署名の前に読む3か所(上限の金額、見習いは最長5年、保証人に不利な特約)

給料の振込口座は、同意して初めて振込になる

賃金は現金で直接払うのが原則で(労働基準法24条1項)、口座振込にできるのは「労働者の同意を得た場合」です(労働基準法施行規則7条の2第1項1号)。口座の届は、その同意の書面を兼ねていることが多いのです。自分の名義の口座を書くこと、屋号や家族名義の口座にしないことだけ気をつけてください。

都合の悪いことも書いておきます

  • 身元保証書に極度額が書かれていなくても、会社がそれを理由に入社を取り消せるわけではありません。書面の効力の話と、入社できるかどうかの話は別です。気になるなら、署名の前に「上限はいくらですか」と聞くのがいちばん角が立ちません
  • 会社によっては、書類を集めるのが入社日ではなく内定の段階だったり、アプリで提出させたりします。紙の枚数は会社ごとに違います
  • 税・社会保険の扱いは家族構成や前職の有無で変わります。迷ったら、会社の担当者か、税務署・年金事務所・ハローワークに確認してください

まとめ

  • 入社日の書類は「会社が役所に出す材料」と「会社との約束」の2種類
  • 社会保険は5日以内、雇用保険は翌月10日まで。番号を急いで聞かれるのはこのため
  • 扶養控除等申告書は家族がいなくても出す。出さないと乙欄で引かれる
  • 身元保証書は「極度額」「期間(見習いは最長5年)」「不利な特約」の3か所を読む

入社して最初の1週間に起きることは未経験で職人の会社に入った最初の1週間|初日から5日目に起きることと、見られていることに、初めての給料明細の見方は未経験が初めてもらう職人の給料明細の見方|社会保険料が引かれるのは2か月目からにまとめています。

「この書類、本当に出さないといけないのか」と迷ったら、同じ立場の人がいる職人になりたい人の掲示板で聞いてみてください。

※ 本文の条文は2026年9月25日時点の e-Gov 法令検索で確認しています。年金手帳と基礎年金番号通知書の扱いは日本年金機構「基礎年金番号・基礎年金番号通知書・年金手帳について」(2024年2月2日更新)によります。

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