未経験が初めてもらう職人の給料明細の見方|社会保険料が引かれるのは2か月目から

結論からお伝えすると、初めての給料明細で「思ったより少ない」と感じる原因は、ほとんどが控除欄の4行です。しかもその4行は、入社した月と2か月目と、翌年の6月で中身が変わります。総支給26万円の人でも、税金を計算する前の段階で約3万8千円が引かれます。この記事では、その内訳を条文と料率で1行ずつ確かめていきます。

現場から戻って、事務所で封筒を渡される。作業着のポケットに入れたまま家まで持って帰って、封を切る。「支給合計 260,000」の下に、見たことのない名前が並んでいて、いちばん下の数字が21万円台になっている——最初の1枚は、たいていこの順番で読むことになります。

様式は会社ごとに違いますが、中身は勤怠・支給・控除の3つです。総支給額から控除合計を引いた額が「差引支給額」で、これが口座に入ります。求人票に書いてあったのは、ほぼ確実に総支給額のほうです。日給月給と月給の違いで支給額そのものが動く話は、未経験が職人の求人票で見る日給月給と月給の違いに分けて書いています。

明細を渡すのは、会社の義務です

「うちは明細を出していない」という話が現場で出ることがありますが、これは法律に反しています。

所得税法231条1項は、給与を支払う者は「その給与等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない」と定めています(出典:e-Gov法令検索・所得税法/2026年8月31日時点の現行条文)。「交付しなければならない」であって、請求されたら渡す、ではありません。

社会保険料を引いたときは、さらに別の義務が乗ります。健康保険法167条3項と厚生年金保険法84条3項は、どちらも同じ文で「保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない」と定めています。引いた側が、いくら引いたかを知らせる義務を負うという構造です。

紙でなくても構いません。所得税法231条2項で、本人の承諾があれば電磁的方法での提供も認められています。ただし同項ただし書に「支払を受ける者の請求があるときは、支払明細書を交付しなければならない」とあるので、紙で欲しいと言えば紙で出させることができます。

給料明細の控除欄に並ぶ5つ。健康保険料は埼玉支部9.67%を労使折半、厚生年金は18.3%を折半、雇用保険料は建設の事業で6/1000、所得税は申告書の有無で変わり、住民税は2年目の6月から。

引かれるものは5つ。うち4つは法律で決まっている

金額は埼玉県で協会けんぽに入っている場合の令和8年度の率で置いています。標準報酬月額26万円(報酬月額25万〜27万円)の人が、実際に引かれる額です。

1. 健康保険料|12,571円

埼玉支部の令和8年度の健康保険料率は9.67%で、会社と本人で半分ずつ持ちます。標準報酬月額26万円なら折半額は12,571円です(出典:全国健康保険協会「令和8年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(埼玉支部)」)。料率は都道府県ごとに違うので、埼玉以外の現場に通っていても、会社の所在地ではなく加入している支部の率で決まります。

ここに、令和8年4月分から子ども・子育て支援金率0.23%が加わりました。26万円で折半額299円です。去年の明細と見比べた先輩が「なんか増えてる」と言っていたら、たいていこれです。

2. 介護保険料|40歳になるまでは0円

40歳から64歳までの方は、健康保険料率に介護保険料率1.62%が乗って11.29%になります。39歳までは1円も引かれません。 逆に、40歳になった月から急に増えます。

3. 厚生年金保険料|23,790円

厚生年金保険法81条4項は、平成29年9月以後の月分の保険料率を「千分の百八十三・〇〇」と書いています。18.3%で法律に固定されていて、都道府県でも会社でも変わりません。 折半して本人負担は9.15%、標準報酬月額26万円で23,790円です。

4. 雇用保険料|1,560円(建設の事業)

ここが、ほかの業種と違うところです。令和8年度の雇用保険料率は、一般の事業が労働者負担5/1,000なのに対して、建設の事業は6/1,000です(出典:厚生労働省「令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内」)。総支給26万円なら1,560円で、一般の事業の1,300円より260円多く引かれます。

社会保険料と違って、雇用保険料はその月の総支給額に率を掛けます。残業が多かった月は雇用保険料も増える、という動き方をします。なお令和7年度は6.5/1,000だったので、今年度は1人あたり月に130円ほど下がっています。

5. 所得税|扶養の申告書を出したかで変わる

源泉徴収税額表に当てはめて計算します。ここで効くのが、入社時に書かされる「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」です。これを出していないと甲欄ではなく乙欄が使われ、同じ給料でも所得税が数倍になります。 心当たりがあれば、事務の人に「甲欄で計算されていますか」と1回聞いてください。

なぜ初月の明細に社会保険料が載っていないのか?

入社した最初の月の明細を見て、健康保険料と厚生年金保険料の欄が空欄か0円になっていることがあります。これは払い忘れでも、未加入でもありません。

健康保険法167条1項と厚生年金保険法84条1項は、どちらも「被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料」を報酬から控除することができる、と書いています。その月の分ではなく、前の月の分を引くのが原則です。入社した月には「前月分」が存在しないので、引きようがありません。

したがって、こうなります。

  1. 入社月の給料……社会保険料は引かれない(所得税と雇用保険料だけ)
  2. 2か月目の給料……入社月分の社会保険料が引かれ、ここで手取りがはっきり下がる

「初月がいちばん多かった」と感じるのはこのためです。生活の計画は、初月ではなく2か月目の明細で立ててください。 なお、締め日と支払日の関係でそもそも入社月に給料日が来ないこともあります。その仕組みは職人の給料はなぜ翌月払いなのかで扱っています。「支払う期日」と「実際に着金する日」が別の日になる構造は、貸す側の入金でも同じです(家賃はいつ大家の口座に入るのか)。

翌年の6月に、もう一度下がる

住民税は、前の年の所得に対してかかります。学校を出てすぐ入った人は前年の所得がないので、1年目の明細には住民税の行がありません。

その代わり、翌年の6月分の給料から特別徴収が始まります。1年目の年収が300万円だったなら、単身で他に控除がない場合、住民税は年間で10万円台、月にならして1万円弱。昇給していないのに手取りが1万円近く減る月が、2年目の6月に来ます。ここで「給料が下がった」と勘違いして辞める人が毎年います。

職人が入社してから手取りが動く順番。入社した月は社会保険料が引かれず、翌月に前月分が乗り、翌年6月に住民税が始まり、毎年9月に標準報酬月額が決まり直す。

寮費や親睦会費を引くには、書面がいる

控除欄に、社会保険料でも税金でもない行があることがあります。寮費、作業着代、親睦会費、旅行積立、道具の立替分などです。

労働基準法24条1項は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めたうえで、ただし書で例外を2つだけ挙げています。①法令に別段の定めがある場合(=税金と社会保険料)と、②その事業場の労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合です。

つまり、寮費や親睦会費を給料から引くには、労使協定という書面がなければならないということです。「うちはずっとこうしてるから」は根拠になりません。控除欄に見慣れない行があったら、「これは何の控除ですか」と聞いてよい話です。

2026年10月1日から、引かれる人の範囲が変わる

ここまでは「社会保険に入っている人」の話でした。その入口の条件が、来月から動きます。

いま短時間で働く人が健康保険・厚生年金に入る条件は、週の所定労働時間20時間以上、学生でないこと、そして所定内賃金が月額8.8万円以上の3つです。このうち賃金の条件が、令和8年10月に撤廃予定とされています(出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」/2026年4月17日更新)。

ここで、通説と実際がずれています。これは「対象を広げるための改正」ではありません。 同じページには、撤廃の理由がこう書かれています——「最低賃金以上で週20時間以上働く場合は、所定内賃金が月額8.8万円以上となるため」。最低賃金が上がったせいで、8.8万円という線が事実上どこにも引けなくなったので、条件から外す、という整理です。埼玉県の最低賃金は2026年10月1日から1,196円になるので、週20時間なら月に約10万3千円。もう届いています。

あわせて企業の規模の条件も動きます。いまは厚生年金の被保険者が51人以上の会社が対象ですが、令和9年10月からは36人以上に下がります。10人規模の工務店に短時間で入っている人には、まだ届きません。会社の形で社会保険の有無が決まる仕組みそのものは、社会保険がない会社は、法律で入らなくてよい形があるにまとめています。

都合の悪いことも書いておきます

  • 手取りを増やす近道はありません。 社会保険料は標準報酬月額で決まるので、残業を増やして総支給を上げると、翌年の等級が上がって保険料も上がります
  • 金額はこの記事のとおりにはなりません。 健康保険料率は都道府県で違い、標準報酬月額は入社時の見込み額と毎年9月の定時決定で変わります。自分の額は、明細の標準報酬月額を保険料額表に当てはめて確認してください
  • 税金と社会保険の個別の判断は、税務署・年金事務所・お住まいの市区町村の窓口で確認してください。ここに書いたのは条文と公表されている料率までです

まとめ|最初の3か月で確認すること

  1. 入社月の明細……甲欄で計算されているかを確認する
  2. 2か月目の明細……社会保険料が引かれ始める。ここの手取りが「普段の手取り」
  3. 控除欄に社会保険料と税金以外の行がないか……あれば、労使協定の有無を聞く

明細は毎月残してください。標準報酬月額の等級が正しいか、残業手当が単価どおり乗っているかは、並べて比べたときにしか見つかりません。

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