一人親方が養生費を別項目にする理由|国の積算では養生は独立した1つの費目です

6畳の空室、床と巾木の張り替え。見積の明細は「クロス張替」「床張替」「諸経費」の3行だった。当日、玄関からユニットバスの前まで廊下に養生シートを敷き、エレベーターの壁にキルティングを回し、共用廊下にも1枚。終わってから剥がして畳むのに、朝の30分と夕方の20分を使った。この50分は、どの行に入っているのだろうか。

結論からお伝えすると、国が使っている積算のやり方では、養生は「諸経費」に溶かさず、独立した1項目として数えます。しかも設計図書に条件が明示されていなければ計上されない、複数回になるなら回数分を計上する、という書き方まで決まっています。この構造を知っていると、養生費を別項目にする理由を相手に説明できます。

養生費を見積で別の行に分ける理由の図。国の積算では独立の費目、回数が増えれば回数分、図面の特記がないと乗らない、小さい部屋ほど比率が上がるの4点を並べた図解

国の積算では、養生はどこに入っているか

国土交通省大臣官房官庁営繕部の「公共建築工事積算基準等資料(令和8年改定)」を開くと、直接仮設という区分が出てきます。ここに並んでいるのは、遣方、墨出し、養生・整理清掃後片付け、足場です。養生は掃除や片付けと同じ列に置かれた、名前のある費目なのです。

しかもこの資料は、建物の条件で単価を補正する表まで持っています。たとえば墨出しと養生・整理清掃後片付けは、鉄骨造の地上階で80%、地下階で110%、バルコニーや外部廊下で50%といった具合です。養生の手間は条件で増えたり減ったりするもの、という前提で作られています。

「1回分しか見ていない」と言われたら

同じ資料の改修工事の項に、こういう1行があります。直接仮設の墨出し、養生、整理清掃後片付け、足場等が、設計図書に条件明示された施工区分や施工手順などの現場状況により複数回生じる場合は、適切に計上する

先に床を張り、後日クロスを張りに戻る。設備屋が入る日に一度剥がして、また敷く。こうした段取りで養生が2回3回になるのは、国の基準でも「そのぶん計上するもの」として扱われています。値引きの話ではなく、数量の話として持ち出せます。

書いていなければ、乗らないのはなぜか?

同じ資料の電気設備の改修の項には、もっと直接的な書き方があります。高所作業の足場、仮設間仕切り、養生及び清掃が図面特記されている場合は、その費用を計上する。裏返すと、特記が無ければ最初から入っていないということです。

民間の原状回復でも同じことが起きます。管理会社の依頼書に養生の指示が書いていないとき、それは「やらなくていい」ではなく「見ていない」であることが多い。だから見積の段階で、養生の範囲(室内だけか、共用部を含むか)を先に確かめて書きます。範囲を先に割る手順は一人親方が見積もりを出す前に決める4つ|手間請けか材工か・めくり・下地処理・ゴミ処理と同じ形です。

小さい部屋ほど、養生の比率は上がる

同じ資料には、工事量が僅少の場合、施工場所が点在する場合、工程上連続作業が困難な場合等の単価及び価格は、施工に最低限必要な単位の材料、労務、機械器具等の費用を実状に応じて算定するという取扱いもあります。

養生はまさにこれです。6畳1部屋でも20畳でも、エレベーターと共用廊下の養生にかかる時間はほとんど変わりません。平米単価に薄く溶かすと、小さい現場ほど持ち出しになります。面積に比例しない作業は、面積に比例しない書き方にする。それが別項目にする理由です。

養生費を一式に入れる場合と行を分ける場合を比べた図。左は範囲が見えず削られても中身が分からない、右は室内と共用部や回数を数量で書けることを並べた図解

見積にどう書くか

  • 室内養生:床・建具・窓枠。一式ではなく「6畳+廊下」のように範囲を書く
  • 共用部養生:エレベーター、共用廊下、エントランス。管理規約で指定がある場合はその旨も
  • 回数:工程が分かれて複数回になるなら、その回数を書く
  • 撤去・整理清掃後片付け:敷く手間と剥がす手間は別。国の資料も「養生・整理清掃後片付け」で一組にしています

「一式」を材料費・労務費・必要経費に割る手順は一人親方の見積書の書き方|「一式」を材料費・労務費・必要経費に分ける手順にまとめてあります。養生はそのうちの労務費と材料費にまたがる費目です。

都合の悪いことも書いておきます

  • ここで引いた基準は公共建築工事のものです。民間工事の相手に「これが決まりです」とは言えません。使えるのは「国はこう数えている」という材料としてです
  • 別項目にすると、その行だけを狙って削られることがあります。削られたときに何が起きるか(共用部を養生できない、傷のリスクを誰が持つか)まで書いておくほうが通ります
  • 単価補正の数字は公共建築の建物条件に紐づいたもので、賃貸の原状回復にそのまま当てはまるものではありません

相手先ごとの書き方で迷ったら、相談・雑談の掲示板で聞いてみてください。

(出典:国土交通省大臣官房官庁営繕部「公共建築工事積算基準等資料(令和8年改定)」平成26年3月31日国営計第148号・最終改定 令和8年3月11日国営積第16号)

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