見習いが親方から前借りや積立を持ちかけられたとき|貸した金との相殺は17条で、貯金の約束は18条1項で禁じられています

結論からお伝えすると、親方が「金に困ってるなら貸してやる。給料から引くから」と言ったとき、法律が止めているのは「前借金その他、働くことを条件にした貸し付けの返済を、賃金と差し引くこと」です(労働基準法17条)。給料から積み立てる約束をさせることも、18条1項が禁じています。借りた事実や預けた事実が消えるわけではありませんが、その場で署名や口約束をする前に、ひとこと確かめる価値があります。

前借りと積立の決まりを5つにまとめた図解

17条が止めているのは「働くことを条件にした貸し付け」の相殺

労働基準法17条は、使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならないと定めています。前借りで首が回らなくなった人が、返し終わるまで会社を辞められなくなる、という昔の弊害を止めるための条文です。違反した使用者には、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金があります(119条1号)。

たとえば「3万円貸すから、毎月の給料から1万円ずつ引く」と決めて、働くことを続ける限り引かれていく形は、この条文に近い場面です。ただし、どこまでが17条に当たるかは、貸し付けの趣旨や返し方で判断が分かれることがあります。個別のケースは、労働基準監督署で確かめてください。

「積み立てておけ」も、させられません

18条1項は、使用者は労働契約に付随して貯蓄の契約をさせ、または貯蓄金を管理する契約をしてはならないと定めています。「給料から毎月5,000円ずつ、俺が預かっておく」を雇う条件にすることは、この条文の対象です。違反は17条と同じく、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(119条1号)。

例外として、労働者の貯蓄金を、本人の委託を受けて管理することは、次の形なら認められています(18条2項から5項)。

  • 労働者の過半数を代表する者などとの書面の協定を結び、行政官庁に届け出ている
  • 貯蓄金の管理に関する規程を定め、作業場に備え付けるなどして労働者に周知している
  • 預金として受け入れるなら、利子をつける
  • 本人が返還を請求したら、遅滞なく返す

「預かっておく」と言われたら、この4つが揃っているかが確かめどころです。返してほしいと言ったときに返さないなら、18条5項に反します。

すでに働いた分を、早く欲しいときはどうするのか?

前借りと混同されやすいのが、働いた分の賃金を支払日より前にもらう話です。25条は、労働者が出産、疾病、災害その他の非常の場合の費用に充てるために請求するときは、支払期日前でも、既往の労働に対する賃金を払わなければならないと定めています。

この「非常の場合」は、労働基準法施行規則9条で、次の3つとされています。

  1. 収入で生計を維持する者が、出産し、病気にかかり、または災害にあった
  2. 本人または生計を維持する者が、結婚または死亡した
  3. やむを得ない事由で、1週間以上帰郷する

ここで受け取れるのは、すでに働いた分だけです。これから働く分を先に借りる前借りとは別の話なので、親方に頼むときは「働いた分の前払いを」と伝えると、話が通りやすくなります。

前借りと働いた分の前払い(非常時払い)の違いを比べた図解

迷ったら、会社に何を聞くのか?

  1. 貸してもらう金は、いつ、いくらを、どう返すのか。書面で残るか
  2. 返済のために、給料から引かれる決まりか。引くなら、協定があるか(引ける場合は見習いの給料から勝手に引かれるとき|引けるのは法令で決まったものと、労使協定があるものだけですに書いています)
  3. 返し終わるまで辞められない、という約束になっていないか
  4. 積立や預かりなら、規程と協定はあるか。返してと言えば返ってくるか

給料の支払い方そのものの決まりは、職人の給料はなぜ翌月払いなのか|締め日と支払日は入社前に書面でもらえるに整理しています。

一人親方なら、17条の話ではない

これは雇われて働く人の話です。一人親方が元請けや職人仲間と金をやりとりするのは、労働基準法の賃金ではなく、請負代金や貸し借りの契約の話になります。

まとめ

前借りは、17条で賃金との相殺が禁じられ、貯蓄の約束も18条1項で禁じられています。急ぎで金が要るなら、働いた分を前倒しでもらう25条の請求があります。条文は2026年10月6日にe-Gov法令検索で確認しました。個別のケースは、労働基準監督署や社会保険労務士にご確認ください。

同じことで迷っている人は多いはずです。これから職人になりたい人向けの掲示板もご活用ください。

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