現場で職人がケガをしたときの手続き|保険証は使わず、元請けの労災で扱います

午後2時、脚立から降りた若い職人が「足首をひねった」と座り込む。腫れてきたので近くの整形外科へ車で運び、受付で保険証を出そうとしたところで、連れてきた一人親方の手が止まる。「これ、仕事中のケガだよな。保険証でいいのか」。

結論からお伝えすると、仕事中のケガに健康保険は使いません。病院の受付で「仕事中のケガです」と伝え、労災保険で治療を受けます。そして建設の現場では、下請けの職人のケガも元請けの労災保険で扱うのが原則です。ケガをした人の雇い主は、休みが4日以上なら遅滞なく、1〜3日なら四半期ごとに、労働基準監督署へ報告を出さなければなりません。一方で、雇われていない一人親方本人は、特別加入をしていなければこの仕組みの外にいます。

最初の30分でやること

  1. 手当てと救急車:頭を打った、意識がおかしい、出血が止まらない。迷ったら119番です。手続きは後から追いつきます
  2. 元請けの担当者へ電話:その場で、いつ・どこで・何をしていて・どこをケガしたかを伝えます。報告にも請求書にも、現場の名前と元請けの情報が要るからです
  3. 写真と時刻を残す:脚立の位置、床の状態、使っていた道具。片付ける前に撮ります
  4. 病院で「仕事中」と言う:受付でいちばん最初に伝えます
現場でケガが出た日の動き(手当てと救急車、元請けの担当者へ電話、片付ける前に写真、病院で仕事中と伝える)

なぜ保険証を出してはいけないのか?

健康保険法1条は、この法律が給付を行うのは「業務災害」以外の病気やケガだと書いています。仕事中のケガは、最初から健康保険の対象ではありません。

仕事中のケガは労働者災害補償保険(労災保険)の療養補償給付で治療を受けます。労災の指定病院なら、窓口での支払いなしで治療を受けられる「療養の給付」になります。請求書は病院を経由して労働基準監督署へ出す形で(労災保険法施行規則12条1項)、そこに書く「負傷の年月日」と「災害の原因及び発生状況」は、事業主の証明を受けなければなりません(同規則12条2項)。

うっかり保険証で受診してしまったら、病院と加入している健康保険の窓口に早めに連絡して、労災に切り替えられるかを相談してください。日がたつほど、払い戻しと請求のやり直しが面倒になります。

下請けの職人のケガは、誰の労災で扱うのか

ここが現場で取り違えやすいところです。労働保険の保険料の徴収等に関する法律(徴収法)8条1項は、厚生労働省令で定める事業が数次の請負で行われるときは、その事業を1つの事業とみなし、元請負人だけを事業主とすると定めています。省令で定める事業は「建設の事業」です(徴収法施行規則7条)。

つまり、二次・三次の下請けに雇われている職人がケガをしても、使うのは現場の元請けが成立させている労災保険です。「うちの会社は小さいから労災に入っていない」という下請けの職人でも、元請けの現場で雇われて働いているなら対象になる、というのが条文の組み立てです。請求書の事業の名称や労働保険番号を元請けに聞くのは、このためです。

一人親方本人は、この仕組みの外にいる

元請けの労災が守るのは「労働者」です。雇われずに自分で請けている一人親方は、労働者ではないので、元請けの労災では治療を受けられません。一人親方が労災保険で守られるのは、特別加入をしている場合だけです。加入していなければ、自分の健康保険で治療を受けることになります。

監督署への報告は、休みの日数で期限が変わる

ケガをした人を雇っている事業者(下請けの会社や、人を雇っている親方)には、労働安全衛生規則97条の労働者死傷病報告が義務づけられています。

  • 死亡、または休業4日以上:遅滞なく報告(97条1項)
  • 休業1〜3日:1〜3月、4〜6月、7〜9月、10〜12月の区切りで、それぞれ最後の月の翌月末日までにまとめて報告(97条2項)

どちらも条文に「電子情報処理組織を使用して」と書かれており、今はオンラインで出すのが原則です。そして建設工事で下請けの労働者がケガをした場合は、報告に書く労働保険番号は元方事業者(元請け)の番号です(97条1項1号)。ここでも元請けとの連絡が欠かせません。

9月に起きた休業2日のケガなら、7〜9月分として10月31日までに出すことになります。

休業の日数で変わる労働者死傷病報告(4日以上は遅滞なく、1〜3日は3か月ごとに翌月末日まで)

「労災を使わないでくれ」と言われたら

現場では「元請けに迷惑がかかるから、健康保険で済ませてくれ」と頼まれることがあります。いわゆる労災隠しです。

死傷病報告は、労働安全衛生法100条1項にもとづく報告です。報告をしなかったり、うその報告をしたりすると、同法120条5号で50万円以下の罰金の対象になります。頼まれたとおりにすると、ケガをした人は治療費の自己負担と休業の補償を失い、雇い主は罰則の側に立つことになります。誰も得をしません。

もしこう言われたら、「病院でもう仕事中と伝えてしまったので」と事実だけを返し、判断に迷うときは現場を管轄する労働基準監督署に相談してください。

都合の悪いことも書いておきます

  • 労災の休業補償は4日目からで、最初の3日は雇い主が労働基準法76条の休業補償(平均賃金の60%)を払う形になります。日雇いや応援の人は、誰が雇い主かがあいまいだと、この3日が宙に浮きがちです
  • 一人親方が「応援」として人を呼んでいても、実態が雇用なら、呼んだ側が雇い主として報告や補償の責任を負うことがあります。契約の形と実態は一致させておくのが安全です
  • 労災になるかどうかの最終判断は労働基準監督署がします。この記事の内容は一般的な流れで、個別の事情によって変わります

まとめ

  • 仕事中のケガに保険証は使わない。病院で最初に「仕事中です」と伝える
  • 建設の現場では、下請けの職人のケガも元請けの労災で扱う(徴収法8条1項)
  • 雇い主の報告は、休業4日以上なら遅滞なく、1〜3日なら四半期ごと。番号は元請けのもの
  • 一人親方本人は特別加入をしていなければ労災の外にいる

休業補償の4日目と最初の3日の話は一人親方がケガで休むときの備え|労災の休業補償は4日目からで、最初の3日は誰も払いませんに、応援を呼ぶ日の準備は一人親方が応援を呼ぶ日の段取り|駐車場所を当日に探すと、切符を切られるのは来た人ですにまとめています。

現場でケガが出たとき、実際にどう連絡が回ったか。仕事を頼みたい人の掲示板に書き残してもらえると、人を呼ぶ側の材料になります。

※ 本文の条文は2026年9月25日時点の e-Gov 法令検索で確認しています。

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