未経験が最初に持つ道具袋の中身|自分持ちになる物は就業規則に書いてあります
初日の朝、親方から「明日までに腰袋そろえてきて」と言われる会社があります。反対に、使い込まれた腰袋を一式そのまま渡されて「これ使って」で終わる会社もあります。どちらも建設の現場では普通に起きていて、どちらが正しいという決まりはありません。
結論からお伝えすると、道具袋の中身は職種で決まりますが、その代金を誰が持つかは法律で決まっていません。ただし「本人に買わせる」ほうを選んだ会社は、そのことを就業規則に書いておかなければならない、という条文があります(労働基準法第89条第5号)。入る前に確かめられる場所が、ちゃんとあるということです。

最初の道具袋に入るのは、だいたい6つ
職種が違っても、1年目の腰袋に最初から入っているものはほとんど同じです。
- コンベックス(メジャー)…5.5メートル前後。現場では「スケール」と呼ばれます
- カッター…内装は大型、電工は小型。替刃も一緒に
- ペン類…鉛筆・シャープペン・細書きのマーカー。下地に書く色は現場で指定されることがあります
- プラスドライバー2番とマイナス…電動ではなく手回しのほう
- ペンチかニッパー…職種によってはラジオペンチ
- 腰袋本体とベルト…最初は2段か3段で足ります
この6つで、おおむね5,000円から15,000円の幅に収まります。ここから先、職種ごとの道具(内装ならローラーやジョイントローラー、電工なら圧着工具、大工なら墨つぼと差し金)が足されていきます。どの順番で買い足すかは、見習いのうちに揃える道具に分けて書いています。
その代金は、誰が持つのか?
ここが、入る前にいちばん揉めやすいところです。
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使う会社に就業規則を作って届け出る義務を課しています。その第5号が、こう書いています。
労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項(労働基準法第89条第5号)
「作業用品」に道具や作業服が入ります。つまり本人に買わせるのなら、その旨を就業規則に書いておかなければならないということです。逆に言えば、就業規則を見せてもらえば「自分持ちなのか会社持ちなのか」は文字で確かめられます。
ただし、注意点が2つあります。
- 働く人が10人未満の会社には、就業規則そのものを作る義務がありません。職人の会社は小規模なところが多いので、「規則がない」という答えが返ってくることは珍しくありません
- 就業規則がない場合は、雇用契約書か労働条件通知書で確かめます。書いていなければ、面接の場で口に出して聞くしかありません
聞き方は難しく考えなくて大丈夫です。「最初に自分で買う道具はどこまでですか」「消耗品の替刃やビスは会社持ちですか」の2つで、ほぼ答えが出ます。求人票のどこを見るかは、求人票の日給月給と月給の違いもあわせて読んでみてください。

「壊したら弁償な」と言われたら
会社の電動工具を落として壊した、という話は1年目に必ず出ます。ここで先に知っておいてほしいのが、労働基準法第16条です。
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない(労働基準法第16条)
「工具を壊したら1台につき3万円」のようにあらかじめ金額を決めておく約束は、この条文に触れます。入社時の誓約書に書いてあっても同じです。
ただし、これは「実際に壊したときの弁償を一切しなくていい」という意味ではありません。現実に生じた損害をどう分担するかは別の話で、そこは事情によって変わります。金額を求められて納得できないときは、一般的には、お住まいの地域の労働基準監督署や総合労働相談コーナーに聞くのが早いです。無料で、電話でも受けてくれます。
道具は、落とすと道具ではなくなる
腰袋の話でいちばん抜けやすいのが、落下です。工具が落ちれば、下にいる人にとっては飛んでくる物と同じになります。労働安全衛生規則には、この状況に3つの条文が並んでいます。
- 第537条…物体が落ちて危ないときは、防網を設ける、立入区域を設定するなどの措置をとる
- 第538条…物体が飛んできて危ないときは、飛来防止の設備を設け、労働者に保護具を使わせる
- 第539条…上で他の人が作業しているところで作業するときは、保護帽を着用させる。そして第2項で、作業する本人にも着用の義務がかかっている
第539条の第2項は「事業者が着けさせる」ではなく「労働者は着用しなければならない」という書き方です。ヘルメットは会社のためではなく、自分に直接かかっている義務だと思っておくと間違えません。関連して、法律上の「高所」がどこから始まるかは高所が苦手な人に向く職種で2メートルの線を扱っています。
なお、工具に落下防止のコードを付けることは、法令で一律に義務づけられてはいません。それでも足場や脚立の上で使う工具には付けておいたほうが、結果として安く済みます。
都合の悪いことも書いておきます
最初の道具袋は、安く見積もっても5,000円では終わりません。職種の道具まで含めると、1年目のうちに3万円から10万円は出ていきます。会社が立て替えて給料から天引きする形をとるところもありますが、その天引きにも労使協定などの手続きが要ります。金額と控除の仕方は、初月の給料明細で必ず確認してください。
そしてもう1つ。自分で買った道具は自分の物ですが、会社から借りた道具は会社の物です。やめるときに持ち出すと話がこじれます。最初に「これは自分のもの」「これは借り物」を分けて、袋の中でも置き場所を変えておくと後で困りません。
まとめ
- 最初の腰袋はコンベックス・カッター・ペン類・ドライバー・ペンチ・袋本体の6つで足りる
- 代金を誰が持つかは法律で決まっていない。本人負担にするなら就業規則に書く義務がある(労基法89条5号)
- 10人未満の会社は就業規則の義務がないので、雇用契約書か口頭で確かめる
- 「壊したら○万円」と金額を先に決める約束は労基法16条に触れる
- 工具の落下は安衛則537条・538条・539条の話。保護帽は本人にも義務がかかっている
買う前に聞けば済む話が、買ってから揉めます。面接のときに道具の話を1つ挟んでおくと、あとが静かです。
同じところでつまずいた人の話は、掲示板にも並んでいます。これから職人になる人の板はこちらです。職人になりたい人の掲示板。書き込まずに読むだけでも構いません。
(出典:労働基準法・労働安全衛生規則/e-Gov法令検索・2026年9月23日時点)


