一人親方が工期の延びた分を請求するとき|民法が守るのは報酬で、待たされた日の費用は契約書で決まります

たとえば、4日の予定で受けた内装の仕事。前の工程が3日遅れて、現場に入れたのは予定の3日後だった。その3日はほかの現場を入れず、空けて待っていた。この3日分を元請けに請求できるのか。一人親方が先に知っておきたい条文をまとめます。

結論からお伝えすると、「工期が延びたら追加の費用がもらえる」と自動で決める条文は、民法にも建設業法にもありません。決めるのは契約書です。民法536条2項が守っているのは、注文者のせいで工事ができなくなったときの「報酬」で、待たされた日の費用ではありません。見るのは次の4点です。

  • 止まった理由:自分の遅れか、元請けや前工程の都合か、天候などか
  • 契約書の6号・7号:延期・中止があったときの工期、代金、損害の負担が書いてあるか
  • 通知した日:延びると分かった時点で、書面かメールで協議を申し出たか
  • 変更の書面:合意した内容を、書面にして交わしたか
延びた分を請求する前に見る4点:止まった理由、契約書の6号・7号、協議を申し出た日、変更の書面

民法536条2項は、何を守っているのか

請負で読むと、債務者は請負人(一人親方)、債権者は注文者(元請け)です。536条2項は、注文者の責めに帰すべき事由で債務を履行できなくなったとき、注文者は反対給付(報酬)の履行を拒めない、と定めています。請負人が仕事をしないで済んだ分の利益を得たときは、それを注文者に返します。

2020年3月31日の条文は「債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」でした。2020年4月1日からは「債権者は、反対給付の履行を拒むことができない」と書き方が変わっています(e-Govで日付を指定して比較)。どちらも報酬の側の話です。

読み違えやすいのは、条文が書いているのが「債務を履行することができなくなったとき」だという点です。数日待たされただけの遅れに、そのまま当てはまるとは断定できません。待たされた3日分の人工や、別の現場を断った差額を請求できるかは、契約書の定めと事情で決まります。

遅れた責任は、誰が負うのか?

逆向きは民法415条1項です。債務の本旨に従った履行をしないとき、注文者は損害賠償を請求できます。ただし、その不履行が契約と取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるときは、賠償しなくて済みます。

前工程の遅れや、注文者の指示待ちで入れなかった遅れは、一人親方の責めに帰せない事由として主張する余地があります。その前提になるのが、止まった理由の記録です。

契約書のどこに、延びたときの扱いが書いてあるか

建設業法19条1項は、契約のときに書面へ書く事項を16個挙げています。延びたときに関わるのは3つです。

  • 3号:工事着手の時期と完成の時期
  • 6号:設計変更、着手の延期、工事の中止の申出があったときの、工期の変更・請負代金の変更・損害の負担と、その額の算定方法
  • 7号:天災その他不可抗力による、工期の変更や損害の負担と、その額の算定方法

6号と7号に何も書いていない契約書は、延びたときの負担が決まっていません。後から協議することになり、決まった内容は書面にします。19条2項は、1項に挙げた事項を変えるときは、変更の内容を書面に記載し、署名か記名押印をして相互に交付すると定めています。6号の読み方は元請けを変えるときの引き継ぎに、変更の書面は値引きを求められたときの3つの返し方に書きました。

資材の値上がりなど、契約前に伝えていた事象については、建設業法20条の2が協議の申出と、注文者が誠実に応じる努力義務を定めています。こちらは見積書に有効期限を書くで扱っています。

工期が延びたときの思い込みと、条文と契約書の読み方の比較

延びたと分かったら、その日のうちに何を残すか

  1. 止まった日と時間、理由、誰の指示・誰の都合かを、メッセージか写真で残す
  2. 工期が動きそうだと分かった時点で、「工期の延長と、その分の費用について協議したい」とメールで送る。口頭だけで済ませない
  3. 契約書の「工期の変更」「損害の負担」の欄を探す(6号・7号に当たる箇所)
  4. 合意できたら、延長後の工期と金額を変更の書面にして、双方で交わす
  5. 請求書では、当初の請負代金と延長分を別の行にする

いくらになるのか|計算の例

たとえば1人工を2万5千円で組んでいる人が、3日空けて待ったなら、2万5千円×3日で7万5千円です。これは請求を整理するための計算で、条文が認める額ではありません。説得力を分けるのは次の3つです。

  • 空けた日の記録:その日にほかの現場を断った日付とメッセージが残っているか
  • 再手配の費用:材料の再手配や再搬入で増えた運搬費の領収書があるか
  • 相手に伝えた日:待たされた日のうちに、延びる見込みを書面で知らせているか

都合の悪いことも書いておきます

  • 契約書に定めがなければ、待たされた日の費用が満額で通るとは限りません。民法が守るのは報酬で、待機の費用とは書いていません
  • 口頭の了解は、あとで「聞いていない」で終わります。協議は必ず文字にします
  • 請求しないと決めるのも、一つの判断です。続けて仕事をもらいたい元請けには、請求の代わりに、次の仕事で日程を優先してもらう約束を取る人もいます
  • 話がまとまらないときは、建設業法25条で中央建設工事紛争審査会が国土交通省に、都道府県審査会が各都道府県に置かれ、あっせん・調停・仲裁を行います。弁護士や法テラスにも相談できます

請求できる期間は請負代金はいつまで請求できるかに、追加の工事が出たときの伝え方は追加工事が出たときの伝え方と請求にあります。

まとめ|延びた分を請求する前の4つ

  • 理由を残す:止まった日、時間、誰の都合かを、その日のうちに
  • 契約書の6号・7号を読む:書いてあればそれに従い、無ければ協議する
  • 協議はメールで申し出る:延びると分かった時点で。口頭で済ませない
  • 合意は変更の書面に:19条2項。請求書では延長分を別の行にする

個別の契約の読み方や、請求が通るかどうかは、事案ごとに結論が変わります。弁護士、法テラス、建設業の相談窓口に確認してください。工期をめぐる経験は、同じ立場の人の役に立ちます。相談・雑談の掲示板にどうぞ。

(出典:民法415条・536条(2020年3月31日と4月1日の条文を日付指定で比較)/建設業法19条・20条の2・25条(いずれも e-Gov法令検索))

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