一人親方の見積書に有効期限を書く|値上がりは契約前に伝えたかで扱いが変わります
結論からお伝えすると、見積書の有効期限に法律の決まりはありません。自分で書くしかない欄です。そのうえで、資材が上がりそうだと分かっているときは、契約を結ぶまでに相手へ伝えておくと、後から代金の協議を申し出る根拠になります。建設業法20条の2が2024年12月13日からそう定めています。
先週、8月の数字が出ました
日本銀行が2026年9月11日に公表した「企業物価指数(2026年8月速報)」によると、国内企業物価指数は前月比マイナス0.2%、前年比プラス7.6%でした。指数は136.1です(2020年平均を100とした値)。
職人が使う材料に近い類別だけ抜き出すと、こうなります(いずれも2020年平均=100、2026年8月速報)。
- プラスチック製品 130.5(前月比プラス1.0%、前年比プラス11.2%)
- 木材・木製品 148.3(前月比マイナス0.1%、前年比プラス8.4%)
- 窯業・土石製品 146.4(前月比プラス0.2%、前年比プラス5.2%)
- 鉄鋼 146.6(前月比プラス0.2%、前年比プラス2.4%)
- 非鉄金属 261.1(前月比プラス1.9%、前年比プラス43.3%)
この指数が何の数字かを先に書いておきます。企業と企業の間で取引されるモノの価格を集めたもので、建材店の店頭でこちらが払う値段そのものではありません。工事費でもありません。「全体としてどちらへ、どのくらいの速さで動いているか」を見るための数字です。
そのうえで前年比プラス7.6%は、見積を出してから契約までが2か月、着工までさらに1か月空いたとき、その間にも同じ向きに動いているということです。手元の伝票で確かめる話は材料費の値上がり分を単価に乗せる伝え方に書きました。

見積の有効期限は、法律のどこにも書いていない
建設業法20条3項には期間の話が出てきますが、あれは注文者がこちらに与えなければならない「考える期間」です。19条1項各号(2号を除く)の内容をできる限り具体的に提示したうえで、見積りをするために必要な期間として政令で定める期間を設けなければならない、という条文です。
こちらが出した見積書が何日で切れるかは、別の話です。どこにも書いていないので、書いていなければ期限はありません。半年前の見積書を出されて「この金額でしたよね」と言われたときに、突き返す根拠が自分の側にない状態になります。
書き方は1行で足ります。
本見積書の有効期限は提出日から30日といたします。以降は材料価格を確認のうえ、あらためて提出いたします。
契約を結ぶ前に伝えたか、で分かれる
建設業法20条の2第2項は、建設業者は、主要な資材の供給の著しい減少、資材の価格の高騰その他の工期または請負代金の額に影響を及ぼすものとして国土交通省令で定める事象が発生するおそれがあると認めるときは、請負契約を締結するまでに、注文者に対してその旨を必要な情報と併せて通知しなければならない、と定めています。
そして3項です。
前項の規定による通知をした建設業者は、同項の請負契約の締結後、当該通知に係る同項に規定する事象が発生した場合には、注文者に対して、第十九条第一項第七号又は第八号の定めに従つた工期の変更、工事内容の変更又は請負代金の額の変更についての協議を申し出ることができる。
「前項の規定による通知をした建設業者は」で始まっています。先に伝えていない人は、ここに乗れません。4項では、申出を受けた注文者は、申出が根拠を欠く場合その他正当な理由がある場合を除き、誠実に協議に応ずるよう努めなければならない、とされています。
この2項から4項までの形になったのは2024年12月13日からです(e-Gov法令検索で施行日をまたいで条文を突き合わせました)。
契約書には、もともと書く欄がある
建設業法19条1項8号は、契約書面に記載する事項として価格等の変動または変更にもとづく工事内容の変更または請負代金の額の変更およびその額の算定方法に関する定めを挙げています。ここでいう価格等は、物価統制令2条に規定する価格等のことです。
13号(保証の定め)のように「定めをするときは、その内容」とは書かれていません。8号は無条件で並んでいます。価格が動いたときにどうするかを書かずに交わした契約書は、19条が求めている形になっていないことになります。
ひな形のほうも、去年の12月に変わっています
中央建設業審議会が決定している「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」は、令和7年12月2日に改正されました。個人住宅などの小規模工事向けの標準の契約書です。
改正後の22条(B)1項3号は、請負代金額の変更を求めることができる場合として「建設業法第二十条の二第二項に規定する資材の価格の高騰その他の請負代金の額に影響を及ぼす事象が発生したとき」を挙げています。同じ条の5項には、協議の申出を受けた者は、申出が根拠を欠く場合その他正当な理由がある場合を除き、誠実に協議に応ずるよう努める、とあります。
ただし注意書きがあり、22条は(A)と(B)を選択して使用することになっています。渡された契約書がどちらを採っているかは、読めば分かります。(A)には資材高騰の号がありません。
許可がないと、この条文の主体になれるのか?
20条の2第2項の主語は「建設業者」です。建設業法2条3項は、建設業者を3条1項の許可を受けて建設業を営む者と定義しています。許可を持っていない一人親方は、この通知義務の名宛人ではありません。3項の申出も、条文上は「通知をした建設業者」の権利として書かれています。
一方で、19条の書面義務は許可の有無に関係なく当事者にかかります(はじめての元請けと組む前に確認する5つ)。だから許可がない人ほど、19条1項8号の定めを契約書に入れておく意味が大きくなります。条文の権利に乗れない分を、契約の中身で埋める形です。

都合の悪いことも書いておきます
- 有効期限を書いても、相手が飲むとは限りません。「うちは期限なしでもらっている」と言われることもあります。そのときは、期限ではなく「材料価格の再確認」という言い方に置き換えます。
- どの事象が対象かは省令で決まります。20条の2は「国土交通省令で定める事象」と書いており、自分の現場のものが当たるかどうかは条文だけでは決まりません。行政の窓口や許可行政庁に確かめてください。
- 指数が上がっている=自分の仕入れが上がっている、ではありません。企業物価指数は全体の動きです。交渉に使うのは、自分の伝票の前と後ろです。
- 4項は努力義務です。協議に応じなくても直ちに違反になるわけではありません。ただし申し出た記録は残ります。
まとめ|見積書に今日から足す2行
- 有効期限。提出日から30日。過ぎたら材料価格を確認してから出し直す、と書く
- 価格が動いたときの扱い。契約書の19条1項8号の欄に、どう変更するかと算定方法を入れてもらう
内訳の並べ方は見積書の書き方にまとめました。期限を入れて相手にどう言われたかは、相談・雑談の掲示板で交換できます。
(出典:日本銀行「企業物価指数(2026年8月速報)」2026年9月11日公表/国土交通省・中央建設業審議会「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」令和7年12月2日改正/建設業法の条文はe-Gov法令検索の現行条文、2026年9月17日時点)


