一人親方が手直しを無償で頼まれたとき|費用を持つのは、契約書と違っていた場合だけです
結論からお伝えすると、やり直し工事の費用は、こちらの責めに帰すべき理由がある場合を除いて元請けが負担する、と国の文書に書かれています。そして「責めに帰すべき理由」は2つだけです。施工が契約書面に明示された内容と異なる場合か、施工に不具合がある場合。それ以外は、タダで直す話ではありません。

「直しといて」の一言に、国は条文を3つ当てている
貼り終えたクロスを見た元請けが「やっぱりこっちの柄で」と言う。翌日、半日つぶして貼り替える。請求には入れられないまま終わる。
国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン(第12版)」(令和8年1月)は、この場面に8番目の項目を立てています。見出しは「やり直し工事」で、かっこの中に建設業法18条、19条2項、19条の3第1項と3つの条文が並んでいます。
違反となるおそれがある行為事例として挙げられているのは、元請負人が、元請負人と下請負人の責任および費用負担を明確にしないままやり直し工事を行わせ、その費用を一方的に下請負人に負担させた場合です。19条2項と19条の3第1項に違反するおそれがあるほか、28条1項2号にも該当するおそれがある、と書かれています。
自腹になるのは、2つの場合だけ
ガイドラインは、元請負人が費用を全く負担することなくやり直しを求めることができる場合を、次の2つに限っています。
- 下請負人の施工が契約書面に明示された内容と異なる場合
- 下請負人の施工に瑕疵等がある場合
「契約書面に明示された内容」です。打合せで出た話や、現場で耳にした希望ではありません。書面に何が書かれていたか。そこが起点になります。
2つに当たっても、全額を持たなくてよい場合がある
ガイドラインには続きがあります。次の場合には、施工が契約書面と異なることや不具合があることを理由に、元請けが費用の全額を負担せずにやり直しを求めることは認められない、としています。
- ア 下請負人から施工内容等を明確にするよう求めがあったにもかかわらず、元請負人が正当な理由なく明確にせず、そのまま作業を続けさせ、後から契約内容と異なるとする場合
- イ 施工内容について下請負人が確認を求め、元請負人が了承した内容にもとづいて施工したにもかかわらず、後から契約内容と異なるとする場合
この2つは、現場でいちばん多い形です。「見切りはどっちで納めますか」と聞いて返事がないまま進めた。「この高さでいいですか」と写真を送って「それでいい」と返ってきた。聞いた記録が残っていれば、アかイに乗ります。やりとりをどこに残すかはLINEで受ける仕事にまとめました。
こちらの責任でないやり直しは、契約変更が要る
ガイドラインは、下請負人の責めに帰すべき理由がないのに施工後にやり直しを依頼する場合、元請負人は速やかに必要となる費用について十分に協議したうえで契約変更を行う必要がある、としています。契約変更をせずにやり直しを施工させた場合は、建設業法19条2項に違反する、と書かれています。
19条2項は、契約の内容で19条1項に掲げる事項に該当するものを変更するときは、その変更の内容を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付しなければならない、という条文です。「後で精算するから」で流すと、この書面が一生出てきません。
検査はいつまでに終わるのか?
やり直しを言われる時期にも、線があります。建設業法24条の4第1項は、元請負人は下請負人から工事が完成した旨の通知を受けたときは、その通知を受けた日から20日以内で、かつできる限り短い期間内に、完成を確認するための検査を完了しなければならない、と定めています。
2項では、検査で完成を確認した後、下請負人が申し出たときは直ちに目的物の引渡しを受けなければならない、としています(工事完成の時期から20日を経過した日以前の一定の日に引渡しを受ける特約があるときは、この限りではありません)。
つまり「完成しました」と通知した日が起点です。口頭で終わらせず、完成の連絡を文字で送っておくと、20日の数え始めがはっきりします。
言ったら切られる、のために置かれた条文
建設業法24条の5は、19条の3第1項、19条の4、24条の3第1項、24条の4などの規定に違反する行為があるとして下請負人が国土交通大臣等、公正取引委員会または中小企業庁長官にその事実を通報したことを理由として、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない、と定めています。
通報しろ、という話ではありません。そこまで想定して条文が置かれているくらい、起きてきたことだと知っておくだけで、交渉の場の立ち位置が変わります。

都合の悪いことも書いておきます
- 引き渡した後の不具合は、別の枠の話です。こちらは民法と約款の話になります(工事の保証を聞かれたときの答え方)。やり直し工事は、引渡し前の話として読んでください。
- 口頭のやりとりは、あとから形になりません。アもイも「求めた」「確認した」が前提です。聞いたことを残していなければ、水掛け論になります。
- 小さな手直しまで契約変更を求めるのは現実的ではありません。その場合は、やり直しの内容と時間を記録しておき、月末にまとめて精算の話をする形が現実的です。
- ガイドラインは法律そのものではありません。建設業法の運用を示した指針です。ただし違反のおそれがある行為として書かれている以上、行政の判断の材料になります。
まとめ|言われたその場で確かめる3つ
- 契約書面と違っているのか。違っていないなら、費用は元請け負担が原則です
- 聞いた記録はあるか。確認を求めて返事がなかった、了承をもらった。この2つはアとイに当たります
- 変更は書面にしてもらえるか。費用と工期を、その場で口に出す
前の元請けとの引き継ぎで同じ話になったときの整理は元請けを変えるときの引き継ぎに書きました。実際にどう切り出したかは相談・雑談の掲示板にも集まっています。
(出典:国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン(第12版)」令和8年1月/建設業法の条文はe-Gov法令検索の現行条文、2026年9月17日時点)


