一人親方が値引きを求められたときの3つの返し方|下げるなら変更の書面が要ります

工事が始まって3日目、元請けの担当者が現場に来て言います。「今回だけ、5万円下げてもらえない? 施主さんの予算が足りなくて」。見積は出して、注文書ももらっている。断れば次の仕事が来ないかもしれない——値引きの相談は、たいてい着工したあとに来ます。

結論からお伝えすると、下げるかどうかは自由ですが、下げるなら書面を作り直す義務が相手にあります。建設業法第19条第2項が、契約の内容を変えるときは変更の内容を書面にして、署名または記名押印をして相互に交付しなければならない、と書いています。金額は第1項第2号に挙がっている事項なので、値引きはまさにその「変更」に当たります。

値引きを求められたときの3つの返し方。変更の書面を求める、原価を割ると伝える、範囲か工期を動かすの順に並べた図

返し方1|「では、変更契約書をください」

いちばん角が立たず、いちばん効きます。断ってもいないし、受けてもいない。手続きの話に置き換えているだけだからです。

第19条第1項は、書面に書く事項を16号まで並べています。そのうち第2号が「請負代金の額」です。そして第2項が、第1項に挙がっている事項を変更するときは、その変更の内容を書面にして相互に交付すると定めています。電子でのやりとりも、相手の承諾を得たうえで第3項の方法によれば認められます。

この一言を挟むと、話が2つに割れます。

  • 本当に予算が足りない場合…変更契約書が出てきます。金額と一緒に、工事の範囲や工期も書き直せます
  • 口頭で済ませたかっただけの場合…その場で引っ込みます

後者がかなりあります。請求のときに勝手に引かれる赤伝処理も同じ形で、合意のない差し引きは請求額から引かれる4つに整理しています。

返し方2|「この金額だと原価を割ります」

金額そのものを動かせないときの返し方です。根拠は建設業法第19条の3です。

注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない(建設業法第19条の3)

読むときのポイントは3つです。

  1. 禁じられているのは注文者側の行為です。安く受けた側が罰せられる条文ではありません
  2. 要件は「地位を不当に利用して」と「通常必要と認められる原価に満たない」の2つ。単に安いだけでは当たりません
  3. 令和6年法律第49号(第三次・担い手3法)で第2項が加わり、2025年12月12日から施行されています。受ける側の建設業者も、正当な理由なく原価に満たない金額で契約してはならない、という内容です

だから「原価を割ります」は、感情ではなく条文の言葉です。そのときに手元に出せるのが、材料費・労務費・必要経費に分けた見積の内訳です。書き方は見積書で「一式」を分ける手順にあります。分けてあると、「下げられるのはこの経費の行まで、ここから先は材料の実費です」と線が引けます。

返し方3|金額ではなく、範囲か工期を動かす

3つ目は、金額を守って別のところを渡す方法です。

  • 範囲を減らす…「5万円分なら、この部屋の巾木は別途にさせてください」
  • 工期をもらう…「同じ金額のままなら、あと2日ください。応援を1人減らして回します」
  • 材料の支給に変える…「材料をそちらで手配していただけるなら、その分は落とせます」

どれも、結果として1日あたりの手取りを守る形です。ただし、どれも契約の内容を変えているので、やはり変更契約書が要ります。返し方1に戻ってくる、ということです。

建設業法とフリーランス法の効き方の比較図。相手が従業員を使う会社で1か月以上の取引のときにフリーランス法が働くことを示している

相手が会社なら、フリーランス法は使えるのか?

2024年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、いわゆるフリーランス法です。従業員を使わない一人親方は、この法律の「特定受託事業者」に当たります。

第5条第1項が、特定業務委託事業者(従業員を使っている会社や個人)に対して、次の行為を禁じています。

  • 第2号…受けた側に責任がないのに、報酬の額を減らすこと
  • 第4号…同じような仕事に通常支払われる対価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めること

ここで条件が1つ付きます。第5条が働くのは、政令で定める期間以上の業務委託に限られ、その期間は施行令第1条で「一月」と決められています。1か月以上の工事や、更新で1か月以上続く取引であれば対象に入る、ということです。

逆に言うと、相手が従業員を使っていない一人親方どうしの取引には、第5条は働きません。ここは誤解が多いところです。継続して1社に入っている人は、6か月で相手に予告の義務が付く話も関わってくるので、元請けを1社に絞るか増やすかもあわせて読んでみてください。

都合の悪いことも書いておきます

条文があっても、その場で言えば角は立ちます。実際に多いのは、断ったその現場ではなく次の発注が来なくなる形です。だから3つの返し方は、強い順ではなく「相手が引きやすい順」に並べてあります。1つ目の変更契約書から出すのが、いちばん関係を壊しません。

それでも下げると決めたのなら、それは経営の判断です。ただし1回下げた金額は、次の見積の基準になります。「今回だけ」は、相手の帳簿には残りません。残るのは金額のほうです。

まとめ

  • 値引きは契約の変更。下げるなら変更の書面を相互に交付する義務がある(建設業法19条2項)
  • 原価を割る金額の押しつけは、注文者の側が禁じられている(同19条の3第1項)。受ける側も正当な理由なく原価割れで契約しない(同第2項)
  • 金額を守るなら、範囲・工期・材料支給のどれかを動かす。それも変更契約書が要る
  • 相手が従業員を使う会社で、1か月以上の取引なら、責任がないのに報酬を減らすことはフリーランス法5条1項2号で禁じられている

単価の話は、他の人がどう返しているかを知っておくと踏ん張りがききます。相談・雑談の掲示板にも実際のやりとりが並んでいます。

(出典:建設業法、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、同施行令/e-Gov法令検索・2026年9月23日時点)

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