一人親方が元請けの倒産を疑ったとき|いちばん強い担保は、工事を始める前にしか登記できません

結論からお伝えすると、元請けが飛んだあとに一人親方が打てる手は、ほとんど残っていません。条文の上でいちばん強い担保である「不動産工事の先取特権」は、工事を始める前に登記していなければ効力が残らないと民法338条1項に書いてあるからです。危ないと感じてから登記しても、もう間に合いません。だから勝負は「倒産の兆しを見つけた日」ではなく、受ける前と、着工する前に終わっています。

先月まで月末にきちんと振り込まれていた元請けから、9月に入って「今月だけ翌々月払いでいいか」と電話が来る。次の現場の注文書が出ないまま、口頭で「来週から入って」と言われる。材料屋が「その現場の分は現金でお願いします」と言い出す。この3つが同じ月に重なったら、資金繰りの話です。

元請けが危ないと感じた日に見る5つの記録を並べた図。完成工事高・廃業等の届出・支払条件の変更・注文書・置いてある物の記録

危ないと感じたときに、その日のうちに見る3つの記録

感じただけで動くと角が立ちますが、公開されている記録を見るのは相手に伝わりません。

  • 許可行政庁の閲覧所…直前3年の工事施工金額や財務諸表が誰でも読めます。前年と比べて完成工事高が急に落ちていないかを見ます
  • 廃業等の届出…建設業法12条は、許可を受けた建設業者が破産手続開始の決定により解散したときは破産管財人が30日以内に届け出なければならないと定めています(同条1項3号)。届出が出ていれば、もう手続きは始まっています
  • 支払条件の変更…現金から手形に変わった、締めが月末から20日に動いた、という変更は、契約の変更なので書面に残ります

閲覧所で何がどこまで読めるかは、一人親方が支払いの遅れる元請けを契約前に見抜くにまとめてあります。

なぜ「工事を始める前」でなければ担保が取れないのか

民法325条2号は、不動産の工事によって生じた債権を持つ者は、その不動産について先取特権を持つと定めています。工事をした職人が、その建物から優先して回収できるという意味です。しかも339条は、登記をした先取特権は抵当権に先立って行使することができると書いています。銀行の抵当権より前に立てる、条文上はかなり強い権利です。

ところが338条1項が、こう続きます。

不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。

つまり、①着工前に②予算額を③登記する、の3つが揃わないと使えません。さらに327条2項で、先取特権が及ぶのは工事によって増えた価格が現に残っている場合の、その増価額までです。原状回復のクロス張り替えで建物の評価がいくら上がったかを鑑定人が評価する(338条2項)ことになり、実務でこの登記を見ることはまずありません。

「使えない制度」と切り捨てる前に、意味は1つあります。この条文があるということは、職人の工事代金は、本来それだけ強く守られる想定だったということです。それを毎回捨てているのが今の商習慣です。金額の大きい元請け直の仕事を受けるときは、着工前に登記を打てないかを一度だけ弁護士に聞いてみる価値があります。

元請けが破産したら、工事は続けるのか、止めるのか?

ここは自分で決められません。破産法53条1項が、双方ともまだ履行が終わっていない契約について、解除するか、履行を請求するかを選ぶのは破産管財人だと定めているからです。

ただし2項に、こちらから動ける手が書かれています。相当の期間を定めて「解除するのか、履行を請求するのか」を確答するよう催告でき、その期間内に確答がなければ解除したものとみなされるという規定です。宙ぶらりんのまま人工を投じ続けないために、催告は書面で出します。

解除になった場合、こちらの損害賠償は破産債権として権利行使することになります(54条1項)。配当は何割かの世界です。一方、54条2項には渡した物が破産財団の中に現に残っているなら返還を請求でき、残っていないならその価額を財団債権として請求できると書かれています。財団債権は破産債権より先に支払われます。納めた材料や機器がまだ現場にあるかどうかで、立場が変わるということです。止まった現場に自分の材料が置いてあるなら、写真と納品書を先に押さえてください。

破産手続が始まったあとの進み方を左右で比べた図。左は破産管財人が解除か履行かを選ぶこと、右は損害賠償と返還請求の扱い

都合の悪いことも書いておきます

  • 着工前の登記は、注文者(不動産の所有者)の協力がなければ現実には進みません。元請け直の請負でも、建物の所有者は施主です
  • 登記費用と弁護士費用がかかります。数十万円の工事で採算は合いません
  • 兆しに気づいて途中で降りると、こちらが契約違反になることがあります。降り方は元請けを変えるときの引き継ぎを先に読んでください
  • すでに払われていない分の督促は、倒産の話とは別の手順です。支払いの遅い元請けに動く順番にまとめています

まとめ

今日できることは2つです。ひとつは、金額の大きい現場に入る前に閲覧所で相手の直前3年を見ること。もうひとつは、納めた材料と出来高を、月末ではなくその日のうちに写真と書面で残すことです。破産法54条2項が効くかどうかは、物が残っているかで決まります。

個別の債権回収や登記の可否は、事案ごとに結論が変わります。弁護士や司法書士、都道府県の建設業担当窓口へ確認してください。

同じ元請けで冷やりとした経験は、ほかの職人にも役立ちます。仕事を探している人の掲示板で聞いてみてください。

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