一人親方が材料支給で損をしないために|差額は単価ではなく、契約書の10号で決まります
結論からお伝えすると、材料支給と材料込みの差額は「材料の仕入れ値を引く」では出ません。運搬・保管・ロス・返品・立替の5つが、どちらに乗るかで変わるからです。そしてそれを決めるのは口約束ではなく、建設業法19条1項10号の書面です。10号は、支給がある工事では必ず書かなければならない項目として並んでいます。
「材料はこっちで出すから、その分は引いといて」。電話で言われて、見積の材料費の行をそのまま消して出す。現場が始まると、余ったクロスの引き取りを断られ、翌週の別の現場まで自分の倉庫で預かることになる。1本だけ足りなくなって買いに走った分は、追加で請求しづらい。差額の話が金額だけで終わると、こうなります。
契約書の10号には、金額とは書いていない
建設業法19条1項は、請負契約で書面に記載しなければならない事項を並べています。その10号がこれです。
注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
「評価額」とは書かれていません。「内容及び方法」です。金額だけ合意しても、この条文が求めているものは埋まっていません。では何を書くのか。中央建設業審議会が決めた建設工事標準下請契約約款の14条1項が、そのまま項目表になっています。
- 品名/数量/品質/規格/性能
- 引渡し場所/引渡し時期
- 返還場所/返還時期
返しに行く場所と時期まで先に決めておく、という並びです。余った材料をどこへ、いつ持っていくのかを最初に書いておけば、倉庫で1か月預かる話はそもそも起きません。

差額を出すときに数える5つ
- 材料費そのもの…自分で仕入れるときの掛け値で見る。定価ではありません
- ロス…量産クロスなら割り付けで必ず端材が出ます。支給の場合、足りなくなった分を誰が買うのかを決める
- 運搬…資材置き場から現場までの片道が誰の負担か。支給でも「引渡し場所」が元請けの倉庫なら、運ぶのはこちらです
- 保管…約款14条5項は、下請負人は支給材料を善良な管理者の注意をもって使用・保管し、自分の故意過失で滅失き損させたら原状回復か代品か損害賠償と定めています。預かるだけで責任が発生します
- 立替の期間…材工で受けるなら、材料代を先に払って入金は翌々月です。運転資金を何日抱えるかは、単価に乗る話です
手間だけを請ける場合の単価の考え方は一人親方の見積書の書き方に、支給材があるときの請負金額の数え方は一人親方が受けられる工事の上限にまとめています。
有償支給の代金を先に引かれるのは、普通のことなのか?
普通ではありません。国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン(第12版・令和8年1月・国土交通省不動産・建設経済局建設業課)は、「早期決済」としてこう書いています。
元請負人が工事用資材を有償支給した場合に、当該資材の対価を、当該資材を用いる建設工事の下請代金の支払期日より以前に、支払うべき下請代金の額から控除し、または支払わせることは、下請負人の資金繰りないし経営を不当に圧迫するおそれがある
つまり材料代を引くのは、その材料を使った工事の代金の支払期日になってからです。今月の請求から先に材料代だけ引かれるのは、ここに当たるおそれがあります。ただし同じ箇所に、下請負人が支給された資材を他の工事に使ったり転売した場合は正当な理由があるとも書かれています。支給材は、その現場だけで使い切ってください。
同じガイドラインには「購入強制」の項もあり、取引上の地位を不当に利用して資材や購入先を指定して購入させてはならないとされています。指定材が品質上どうしても必要な場合は不当とはいえない、とも書かれています。指定に理由があるかどうかが分かれ目です。
2025年12月12日から、安すぎる契約は受ける側も結べません
建設業法19条の3は長く「注文者は、通常必要と認められる原価に満たない金額で契約してはならない」という1項だけの条文でした。2025年12月12日に、2項が加わっています(e-Gov法令検索で2025年12月11日時点と12日時点を突き合わせて確認)。
建設業者は、自らが保有する低廉な資材を建設工事に用いることができることその他の国土交通省令で定める正当な理由がある場合を除き、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。
名宛人がこちら側です。「安くても取りたいから」で原価割れを飲む行為そのものが、条文の上では禁止されました。もっとも、手元に安く仕入れた資材があるから安くできるという場合は正当な理由として書かれています。支給材と自前の在庫は、この2項の読み方に直結します。

都合の悪いことも書いておきます
- 支給のほうが有利な場面もあります。仕入れの与信枠を使わずに済み、在庫リスクも持ちません。材工にこだわるほど資金は先に出ていきます
- 支給材の品質が悪いときは、約款14条3項で立会いのうえ検査して引き渡すことになっており、使用に適さないと思ったら遅滞なく書面で通知する形になっています。黙って使うと、後の不具合がこちらの責任として扱われかねません
- 引渡しが遅れたときは、14条2項で工期または請負代金額を変更すると定められています。待たされた日数は、言わなければ消えます
- 請求から差し引かれるお金の扱いは請求額から引かれる4つも合わせて確認してください
まとめ
材料支給の話が出たら、金額を答える前に返還場所と返還時期、足りなくなったときの買い足しを誰が持つかの3つを聞きます。10号の「内容及び方法」はここのことです。決まっていないまま単価だけ下げると、差額は全部こちらの持ち出しになります。
支給で揉めた事例は、そのまま次の見積の材料になります。相談・雑談の掲示板で聞いてみてください。


