一人親方が現場で他人の物を壊したとき|元請は払わないのが原則で、原因不明なら全員が全額を求められます

隣の部屋の床を濡らした、階下の天井にシミを作った、よその車に材料を当てた。契約のない相手の物を壊したとき、「元請が払ってくれる」と思っている一人親方は少なくありません。条文を読むと、そうは書かれていません。

結論からお伝えすると、契約のない第三者への賠償で、注文者(元請や施主)は原則として払いません。民法716条がそう定めています。例外は、元請の注文や指図に過失があったときだけです。さらに複数の業者が入る現場で原因が分からないときは、民法719条により各自が連帯して賠償する責任を負います。順に確かめます。

元請は、壊した相手に払ってくれるのか?

民法716条(注文者の責任)はこうです。「注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。」

  • 注文者:仕事を頼んだ側。一人親方から見れば元請、元請から見れば施主です
  • 請負人:仕事を引き受けた側。手間請けで入る一人親方も含めて考えるのが一般的です
  • 第三者:契約のない相手。隣家、通行人、階下の入居者、よその車の持ち主

つまり、被害者への賠償は、壊した本人の分です。現場で起きたことでも、条文が最初に見るのは壊した側です。契約の相手の物を壊した場合は別の条文(民法415条)になります。違いは現場で傷をつけたときの対応|壊した相手が誰かで、説明する側が入れ替わりますにまとめました。

元請は払うのかを、原則は元請は払わない・例外は元請の指図に過失があったときの2つで比べた図

元請に責任が出るのは、どんなときか?

716条のただし書です。「注文又は指図についてその注文者に過失があったとき」は、注文者も責任を負います。

たとえば、元請が「この壁の中は空だから、そのまま切ってくれ」と指示し、実際には配管が通っていて水が出た、という場面です。指示そのものが不注意だったなら、元請の責任が問われうる形です。ここで押さえておくことが2つあります。

  1. 口頭の指示は、残っていないと争えません。だれが、いつ、何を指示したか。メッセージのやりとりや現場写真が材料になります
  2. 指図があっても、自分の責任がなくなるわけではありません。この条文は、元請の責任が「あるか、ないか」を決めるものです。壊した本人の709条の責任は、別に判断されます

指図に従った結果の不具合が、依頼主との契約でどう扱われるかは、民法636条の話になります。これは一人親方の賠償の備え|労災保険の特別加入では、壊した物の賠償は1円も出ないで触れています。

複数の業者が入る現場で、原因が分からないときは?

民法719条1項は、複数の人がかかわる損害の扱いを定めています。「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。」

たとえば、同じ日に給排水の職人と内装の職人が入り、翌朝、階下の天井から水が落ちたとします。どちらの作業が原因か、あとから見ても分からない。条文が想定しているのは、こうした場面です。

  • 連帯して:被害者は、1人に全額を求めることも、全員に求めることもできます(民法436条)
  • 原因が分からなくても:「自分ではない」と言い切れる証拠がなければ、全員が対象になりえます

ここは注意が必要です。719条が当てはまるかどうかは、作業が共同といえるか、被害との関連の程度はどうか、などで分かれます。現場にいた全員が必ず全額を払う、と読むのは行き過ぎです。個別の事案は、保険会社か弁護士に確認してください。

全額を請求されたら、割り勘はできるのか?

被害者に対しては全額でも、自分が払いすぎた分を、ほかの業者へ求める道は残ります。これを求償といいます。ただ、割合は作業の内容や過失の程度で決まるため、この記事で数字を出すことはできません。

時効にも気をつけてください。不法行為の賠償請求は、民法724条1号で「損害及び加害者を知った時から3年」です。人の生命や身体を害した場合は、724条の2で5年になります。

現場でやる3つのこと。作業を日ごとに記録する、元請の指示は文字で残す、金額を認める前に保険会社へ連絡するの手順の図

今日から現場でやる3つのこと

  1. 作業の記録を日ごとに残す。「何時から何時まで、どこで、何をしたか」を写真つきで。複数の業者が入る現場では、これが「自分ではない」を言う唯一の材料になります
  2. 元請の指示は、文字で残す。電話で言われたなら、その日のうちに「〇〇と承りました」と送っておく。716条のただし書を使うときも、ここが分かれ目になります
  3. 金額を認める前に、保険会社へ連絡する。先に払ったり「私が弁償します」と言ってしまったりすると、保険の対象かどうかを確認できなくなることがあります。どこまで出るかは約款で決まります

元請が払うかどうかは、「元請の指示に過失があったか」にかかっています。複数の業者が入る現場では、「自分のせいではない」を示す材料が自分の手元にあるかどうかで結果が変わります。個別の判断は、保険会社や弁護士にご確認ください。実際にどう収まったかという話は相談・雑談の掲示板にも出ています。

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