一人親方の賠償の備え|労災保険の特別加入では、壊した物の賠償は1円も出ない

養生をめくったら、玄関の上がり框に工具箱の角が当たった跡が残っていた。深さは1ミリもない。それでも引き渡し前の検査で見つかれば、框の交換か補修の話になります。このとき、自分が入っている保険から何が出るのかを即答できるでしょうか。

結論からお伝えすると、一人親方が使う保険は役割が別々です。労災保険の特別加入は「自分のケガ」、賠償責任保険は「相手のケガと壊した物」。どちらか片方だけでは穴が空きます。

図解:労災保険の特別加入で出ないもの。相手にケガをさせたときの賠償、壊した物の賠償、やり直しの費用

労災保険の特別加入で出るもの、出ないもの

一人親方は労働者ではないので、本来は労災保険の対象外です。そのうえで法律が特別に道を開いており、対象となる事業の種類は「土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業」と書かれています(労働者災害補償保険法施行規則46条の17第2号)。条文に「原状回復」という言葉がそのまま入っているのは、知っておいて損のないところです。

手続きで押さえておきたいのは、個人で直接は入れないという点。加入は団体が申請し、政府の承認を得る形になります(同法35条1項)。だから一人親方は必ずどこかの団体を通すことになります。

もうひとつ。同法35条1項のかっこ書きは、一部の一人親方について給付を業務災害だけに限っています。限られるのは自動車などの運送業と漁船の自営業者で、建設の一人親方は通勤災害も対象です(同法施行規則46条の22の2)。

保険料は、申請した給付基礎日額に365を掛けた額へ料率を掛けて出します。給付基礎日額は3,500円から25,000円までの間で選び、建設の事業の第2種特別加入保険料率は1,000分の17。厚生労働省の一覧では、給付基礎日額3,500円で年21,709円、10,000円で年62,050円、20,000円で年124,100円です(出典:厚生労働省「特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)」)。

そして、ここから出ないものがあります。相手にケガをさせたときの賠償、壊した物の賠償、やり直しの費用。特別加入は自分の身体のための制度なので、これらは1円も出ません。

元請けの指示どおりにやって不具合が出たら、誰が責任を負う?

ここは誤解されやすいところです。民法636条は、注文者が供した材料の性質や注文者が与えた指図によって生じた不適合について、注文者は請負人へ追完・報酬の減額・損害賠償・契約の解除を請求できないと定めています。言われたとおりにやって出た不具合は、原則としてこちらの責任ではありません。

ただし、同条のただし書きが効きます。「その材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったとき」は、この限りではない。つまり、まずいと気づいていて黙っていたら責任を負います。逆に言えば、気づいたことを伝えて記録に残しておけば、それが自分を守る材料になります。写真1枚とメッセージ1通で足ります。

期間の話もあります。民法637条では、注文者が不適合を知った時から1年以内に通知しないと、追完・減額・賠償・解除を請求できません。ただし引き渡しの時点で請負人が不適合を知っていた、または重大な過失で知らなかった場合は、この制限は適用されません。

図解:壊した場合と仕上がりが契約と違う場合の比較。民法709条の不法行為と、民法636条・637条の請負人の担保責任

賠償は3つの層に分かれている

  • 相手のケガ・壊した物……民法709条の不法行為。賠償責任保険が主に受け持つ層
  • 仕上がりが契約と違う……民法636条・637条の請負人の担保責任。やり直しの費用が中心で、賠償責任保険では対象外とされていることが多い層
  • 自分のケガ……労災保険の特別加入が受け持つ層

元請けから「賠償責任保険の加入証明を出してほしい」と言われるのは、多くの場合ひとつ目の層の話です。一般的にはこの整理ですが、どこまで出るかは最終的に保険の約款で決まります。契約を決める前に、代理店や保険会社へ「請負作業中に壊した物」「引き渡し後に見つかった不具合のやり直し」の2つを名指しで確認してください。労災の特別加入の範囲は労働基準監督署が窓口です。

元請けから求められる書類の全体像は一人親方が元請けから求められる書類一式に、直請けを増やすときの相手の探し方は一人親方が管理会社・不動産会社と直接取引するにはにまとめています。

保険の入り方は人によって違います。相談・雑談の掲示板で、同じ職種の一人親方がどこまで備えているかを聞いてみるのが早いです。

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