一人親方も対象の建設アスベスト給付金|請求できるのは診断から20年以内
2026年8月19日、厚生労働省が第55回 特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会の開催案内を出しました。開催は8月26日、議題は「請求事案の審査」です。制度が始まって4年半、審査は55回目に入っています。すでに体調を崩された方やご遺族がおられる話ですので、事実と手続きだけを、できるだけ正確に書きます。
結論からお伝えすると、建設アスベスト給付金は「雇われていた人」だけの制度ではありません。一人親方も、中小事業主も、その事業に従事していた家族も、法律の条文にはっきり書かれています。ただし対象になる作業の期間は昭和47年10月1日から平成16年9月30日までに限られ、請求できる期限も決まっています。
どういう制度か
根拠は特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(令和3年法律第74号)です。令和3年6月9日に議員立法で成立し、令和4年1月19日に完全施行されました。
法律の1条は、最高裁判所の令和3年5月17日の2つの判決などで国の責任が認められたことを挙げ、同じ苦痛を受けている人に「損害の迅速な賠償を図るため」の制度だと書いています。裁判をやり直さなくても、請求と審査で受け取れるようにした、という位置づけです。

誰が対象になるのか(一人親方も条文に入っている)
法2条3項が、対象者を5つに分けて並べています。
- 労働基準法9条に規定する労働者
- 厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業の事業主
- 2の事業主が行う事業に従事する者(労働者を除く)=家族従事者など
- 労働者を使用しないで事業を行うことを常態とする者(=一人親方)
- 4の者が行う事業に従事する者(労働者を除く)
2の人数は、施行規則2条が労災保険法施行規則46条の16を引いていて、建設業なら常時300人以下です。中小の工務店や内装会社の社長も、そのまま入ります。
そして本人が亡くなっている場合は、配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の順で、最も順位の高い遺族が自分の名前で請求できます(法3条2項〜4項)。内縁・事実婚の配偶者も条文に含まれています。
期間と「屋内」の線引き
ここがいちばん誤解されるところです。対象になる作業は、法2条1項でこの2つだけに絞られています。
- 昭和47年10月1日〜昭和50年9月30日の、石綿の吹付けの作業に係る業務
- 昭和50年10月1日〜平成16年9月30日の、屋内作業場で行われた作業に係る業務
その「屋内作業場」の定義が、施行規則1条にあります。
屋根を有し、側面の面積の半分以上が外壁その他の遮蔽物に囲まれ、外気の流入が妨げられることにより、石綿の粉じんが滞留するおそれがあるもの
建物の内か外かではなく、粉じんが溜まる状態だったかで線を引いています。厚生労働省のパンフレット「建設アスベスト給付金制度の概要」には、一般的に屋内作業があるとされる職種として、大工(墨出し・型枠を含む)、左官、軽天工、内装工、塗装工、はつり、解体工、配管設備工、ダクト工、電工、保温工、サッシ工、建具工、清掃・ハウスクリーニング、現場監督など29の職種が例示されています。内装まわりはほぼ並んでいます。
対象となる病気は、中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺(じん肺管理区分が管理2〜4のもの)、良性石綿胸水の5つです(法2条2項)。同じパンフレットは、石綿による病気は吸ってから発症までの潜伏期間が長い(中皮腫で20〜50年、肺がんで15〜40年)と説明しています。平成16年までの作業がいまの話として審査されているのは、そのためです。

いくら支払われるのか
法4条1項の区分がそのまま金額になります。
- 石綿肺(管理2・合併症なし)… 550万円
- 石綿肺(管理2・合併症あり)… 700万円
- 石綿肺(管理3・合併症なし)… 800万円
- 石綿肺(管理3・合併症あり)… 950万円
- 中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺(管理4)、良性石綿胸水 … 1,150万円
- 上記のうち石綿肺(管理2・3で合併症なし)により死亡 … 1,200万円
- それ以外で死亡 … 1,300万円
減額の規定もあります。従事期間が短い場合(肺がん・石綿肺は10年未満、びまん性胸膜肥厚は3年未満、中皮腫・良性石綿胸水は1年未満)で1割、肺がんで喫煙の習慣があった場合にさらに1割、両方に当たると合計19%の減額です(法4条2項・3項)。
一方で、この給付金に税金はかかりません(法15条)。譲渡・担保・差押えも禁じられています(法14条)。支給を受けたあとに区分が変わるほど症状が重くなった場合は、差額の追加給付金を請求できます(法9条・10条)。
いつまでに請求すればよいのか?
法5条2項が期限を定めています。次の日から数えて20年です。
- 石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断があった日
- 石綿肺についてじん肺管理区分の決定(管理2〜4)があった日
- その病気で亡くなったときは死亡した日
この法律が施行される前の日であっても、そこから20年を過ぎていれば請求できません。診断を受けたのが昔であるほど、残り時間が短いということです。
請求は郵送で、宛先は〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎第5号館 厚生労働省労働基準局労災管理課 建設アスベスト給付金担当。簡易書留やレターパックなど、到着が確認できる方法が案内されています。すでに労災保険や石綿救済法の特別遺族給付金の支給決定を受けている場合は、労災支給決定等情報提供サービス(無料)を使うと、請求書への記載や添付書類の一部を省略できます。
労災保険や救済制度とは別の制度
混同しやすいので分けて書きます。
- 労災保険…療養・休業・障害・遺族の給付。労働基準監督署長の認定が必要。一人親方は特別加入していることが前提になります(労災保険の特別加入)
- 石綿健康被害救済制度…労災補償等の対象にならない方向け。窓口は独立行政法人環境再生保全機構
- 特別遺族給付金…時効で労災の遺族補償給付を受ける権利がなくなった遺族向け。請求期限は令和14年3月27日
建設アスベスト給付金は、これらと別枠です。ただし国から同じ事由で損害の塡補を受けている場合などは調整されます(法12条)。
なお、いま現場に立っている職人にとっては、石綿は過去の話ではありません。改修や解体で古い建材を触る作業は、石綿障害予防規則の対象になります。2026年4月から元請けの措置の対象に一人親方が入った件は元請けから求められる書類一式にまとめました。
まとめ
- 対象は労働者だけでなく、一人親方・中小事業主(建設業は常時300人以下)・家族従事者・遺族
- 対象作業は昭和47年10月1日〜昭和50年9月30日の吹付けと、昭和50年10月1日〜平成16年9月30日の屋内作業
- 「屋内」は建物の内外ではなく、粉じんが滞留するおそれで判断される(施行規則1条)
- 金額は550万円〜1,300万円。非課税・差押え禁止
- 請求期限は診断日・管理区分決定日・死亡日から20年
該当するかどうかの判断や、病気の診断そのものは、この記事では扱えません。制度の相談は労災保険相談ダイヤル(0570-006031)、所轄の労働基準監督署、都道府県労働局へ。石綿健康被害救済制度は環境再生保全機構の石綿救済相談ダイヤル(0120-389-931)が窓口です。記載内容は2026年8月21日時点のものです。
昔の現場のことを思い出せる人は、そう多くありません。どの現場で何を扱ったかは、同じ時期に働いていた人の記憶が手がかりになることがあります。相談・雑談の掲示板もお使いください。
出典:特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(令和3年法律第74号)1条〜5条・9条・12条・14条・15条、同法施行規則(令和3年厚生労働省令第187号)1条・2条、労働者災害補償保険法施行規則46条の16(いずれもe-Gov法令検索の現行条文・2026年8月21日確認)/厚生労働省「建設アスベスト給付金制度の概要」(パンフレット)/厚生労働省「建設アスベスト給付金制度について」/厚生労働省「第55回特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会 開催案内」(2026年8月19日公表)


