一人親方の労災は令和9年4月に変わる|団体が消える条件と、時効が5年になる病気
結論からお伝えすると、一人親方の労災は令和9年4月1日から仕組みが変わります。変わるのは大きく3つで、①自分が入っている特別加入団体に、守るべき要件が省令で決まる ②その団体が要件を外れると、業務改善命令のうえ保険関係を消される ③石綿や脳・心臓の病気について、請求できる期間が2年から5年に延びる——です。改正法そのものはすでに成立していて(令和8年法律第60号)、その中身を細かく決める政省令の案が、令和8年9月8日13時に開かれた第131回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会に示されました。

いま決まっていることと、これから決まること
ここを混ぜると誤解します。分けて書きます。
- 決まっていること=労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第60号)。施行日は令和9年4月1日です
- これから決まること=その法律を動かすための政省令の中身。9月8日の部会に「以下のとおり政省令の改正等を行うこととしてはどうか」という形で案が出た段階です
つまり枠は固まっていて、目盛りをこれから刻むところです。以下で「省令案」と書いたものは、この日に示された案を指します。確定した条文ではありません。(出典:厚生労働省「第131回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会」資料1/令和8年9月8日開催)
そもそも、なぜ団体の話が自分の労災に関わるのか
一人親方は、労災保険に個人では入れません。労働者災害補償保険法35条1項が、「団体が申請をし、政府の承認があったとき」に、その団体を事業主とみなし、構成員である一人親方を「その事業に使用される労働者とみなす」と定めているからです。
だから、加入の入口も出口も団体です。会費を払っている先が窓口という程度の話ではなく、労災の資格そのものが団体にぶら下がっています(一人親方が入る団体と組合の選び方|2つ入っても労災は二重には出ない)。
団体が消えることは、いまの条文でもできます
ここは通説がずれているところです。「令和9年から団体が消されるようになる」と読むのは正しくありません。現行の35条4項に、すでにこう書かれています。
「政府は、第一項の団体がこの法律若しくは徴収法又はこれらの法律に基づく厚生労働省令の規定に違反したときは、当該団体についての保険関係を消滅させることができる。」
いまでも消せます。新しくなるのは「何を守っていれば消されないのか」が省令に書かれることと、いきなり消すのではなく業務改善命令をはさむ段が入ることです。(出典:労働者災害補償保険法/e-Gov法令検索・2026年9月8日時点)
団体に課される要件は10項目(省令案)
案では、承認や消滅の要件として次の内容が並んでいます。長いので、一人親方の側から見て確かめやすいものを抜きます。
- 保険料の納付など、労災に関する業務を適切に実施していること
- 業務災害の防止に関する活動を、構成員の作業や属性に応じて実施していること
- 特別加入者を構成員とする単一の団体であること
- 目的・組織・運営・構成員の範囲・資格の得喪の手続などが明確であること
- 代表者の所在が明らかであること
- 加入・脱退・災害が起きたときの請求について支援と相談に応じること
- 加入希望者が特別加入の要件に該当するかを確認していること
- 広報や啓発の内容が虚偽または誇大でないこと
- 職権で保険関係を消された団体の代表者だった場合、その日から5年を経過していること
2番目と6番目は、会費を集めるだけの団体では通りません。災害防止の活動をしているか、事故のときに相談に乗る体制があるか——選ぶときの物差しが、条文の側から示された形です。
なお、特定フリーランス事業の団体には要件が上乗せされ、フリーランス全般の支援を1年以上、構成員100名以上、そして47都道府県すべてに常時訪問できる事務所か相談スペースを持つことが求められます。案には「予約が必要だったり、他の利用者がおらず空いていなければ使えなかったりといったような時間貸しの会議スペースなどは不可」とまで書かれています。
団体が消されたら、自分はどうやって知るのか?
ここが実務でいちばん効く追加です。案では、消滅のときに構成員が不利益を受けないよう、次の2つが省令に入ります。
- 団体は、特別加入者の氏名・生年月日・住所などを記載した名簿を作成すること
- 都道府県労働局長は、インターネット上などに、保険関係を消滅させる団体の名称・所在地・日付・理由を公表すること
つまり、団体名で検索すれば分かる状態になります。いま自分が入っている団体の正式名称を、通帳の引き落とし名ではなく加入証や規約に書かれた名前で控えておく——今日できるのはそれくらいですが、来年以降はここが効きます。

石綿と脳・心臓の病気は、時効が2年から5年になります
労災の請求権には期限があります。現行42条は、療養補償給付・休業補償給付・葬祭料・介護補償給付などは2年、障害補償給付・遺族補償給付などは5年で時効により消滅すると定めています。
改正では、その性質上、災害補償の事由に当たるかどうかを容易に判断できない疾病について、2年のほうを5年に延ばします。政令で定める疾病は3つです。
- 脳血管疾患または心臓疾患(労働基準法施行規則別表第1の2第8号)
- 精神疾患(同別表第9号)
- 石綿を吸入することにより発生する疾病=中皮腫、気管支または肺の悪性新生物、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、管理四に相当する石綿肺 ほか
解体や内装の改修で古い建材を触ってきた人にとって、3番目は他人事ではありません。石綿の病気は、吸ってから発症までが数十年です。気づいたときには2年が過ぎているという形が、いちばん起きやすかった。労働基準法上の災害補償請求権についても、これに準じた対応をするとされています(一人親方も対象の建設アスベスト給付金|請求できるのは診断から20年以内)。
遺族に出る年金も、金額と要件が変わります
2つあります。
- 夫にだけ課されていた要件が撤廃されます。これまで夫は、妻の死亡時に55歳以上または一定の障害の状態でなければ受給権が生じませんでした
- 遺族が1人の場合の年金額が、一律で給付基礎日額の175日分になります。現行は153日分(妻のみで55歳以上または一定の障害の状態にある場合だけ175日分)
153日分から175日分は、22日分の差です。給付基礎日額が1万円なら年22万円、20年受け取れば440万円の違いになります。
都合の悪いことも書いておきます
まず、時効が延びるのは3つの疾病だけです。現場で落ちた・切った・挟んだというケガは、いままでどおり2年です。ここは何も変わりません(一人親方がケガで休むときの備え|労災の休業補償は4日目からで、最初の3日は誰も払いません)。
次に、団体を移れば保険料が下がるという話ではありません。要件は団体の運営についてのもので、給付の中身や保険料率を変える改正ではないからです。
そして、農林水産業の小規模な個人経営を労災の適用事業にする部分(暫定任意適用事業の廃止)は、施行が令和13年4月1日と案で示されています。同じ改正法の中でも、走り出す時期が違います。
なお、この記事は制度の位置を整理したものです。自分の加入がどうなるかは、加入している団体と、所轄の労働基準監督署に確認してください。一般的な説明であって、個別の判断ではありません。
まとめ|今日やっておくことは1つだけ
加入証か規約を出して、団体の正式名称と、災害防止の活動を実際にやっているかを見る。それだけです。令和9年4月以降、要件を外れた団体は名前ごと公表されます。そのとき自分がどこに載るかを知っているかどうかで、対応の速さが変わります。
発注する側から見た記事もあります。現場の事故は、建物そのものに原因があることもあります(火災保険だけでは大家の賠償は埋まらない|民法717条に所有者の免責はありません)。


