独立する職人が家族に説明する材料|増えるのは自分の分ではなく、配偶者と子の保険料です

結論からお伝えすると、独立して家族に増えるのは自分の保険料ではありません。これまで1円もかからなかった配偶者の国民年金保険料と、家族の人数ぶんの国民健康保険税です。さいたま市に住む4人世帯なら、この2つだけで年66万円ほどが世帯から出ていきます。所得割は、ここに上乗せです。家族を説得しようとして「大丈夫だから」と繰り返すより、この2つの数字を先に出したほうが早く話が終わります。

独立で増える家族の分をまとめた図。配偶者の国民年金が発生する、国保の均等割は頭数ぶん、平等割は世帯にひとつ、連帯して納付する義務、専従者給与の届出期限、令和9年度の県内準統一。

会社をやめた日に、配偶者の「種別」が変わる

国民年金の被保険者は3つに分かれています。第3号被保険者の定義はこうです。

第二号被保険者の配偶者(略)であつて主として第二号被保険者の収入により生計を維持するもの(略)のうち二十歳以上六十歳未満のもの(国民年金法7条1項3号)

主語をよく見てください。「第二号被保険者の配偶者」です。第2号被保険者とは厚生年金保険の被保険者、つまり勤めている本人です。本人が会社をやめて第2号でなくなると、配偶者は「第2号被保険者の配偶者」に当てはまらなくなり、第3号ではいられません。第1号被保険者に切り替わり、その日から保険料が発生します。

令和8年度の国民年金保険料は1か月17,920円です(出典:日本年金機構「国民年金保険料」)。夫婦2人分で1か月35,840円、1年で430,080円になります。会社員のあいだ、配偶者の年金保険料は世帯として1円も払っていませんでした。ここが独立でいちばん大きく動く数字です。

国保は「人数」で数える。会社の健康保険とは数え方が違う

会社の健康保険は、扶養に入れる家族が3人でも5人でも保険料は同じでした。国民健康保険はここが違います。市町村の保険料の賦課基準は政令で決まっていて、内訳に「被保険者均等割額」「世帯別平等割額」が出てきます。

第三号の所得割額は(略)世帯主の世帯に属する被保険者につき算定した所得割額、資産割額若しくは被保険者均等割額の合算額の総額又は当該世帯につき算定した世帯別平等割額の合計額であること(国民健康保険法施行令29条の7第2項3号)

均等割は「世帯に属する被保険者につき算定」、平等割は「当該世帯につき算定」です。つまり均等割は頭数ぶん、平等割は世帯にひとつ。この1文の差が、家族が多い人ほど効いてきます。

さいたま市の令和8年度の均等割は1人あたり年額で、医療給付費分43,300円、後期高齢者支援金等分14,900円、介護納付金分(40歳から64歳)16,100円、子ども・子育て支援納付金分1,700円です(出典:さいたま市「国民健康保険税の計算」2026年7月14日更新)。高校生年代までの子は子ども・子育て支援納付金分の均等割が全額軽減され、未就学児は均等割額の2分の1が減額されます。

本人38歳・配偶者36歳・子2人(小学生と中学生)で置いてみます。

  • 大人1人あたり…43,300+14,900+1,700=59,900円
  • 子1人あたり…43,300+14,900=58,200円
  • 世帯合計(均等割だけ)…236,200円

先の年金430,080円と足すと666,280円です。ここに所得割(さいたま市の令和8年度は医療7.64%+後期支援2.73%+子育て0.26%で10.63%、40歳以上は介護2.37%を加えて13.00%)が、課税標準所得額に対してかかります。

同じ埼玉県で、なぜ市によって10万円ちがうのか?

埼玉県が公表している市町村別の一覧を見ると、医療分の均等割は和光市の24,000円から日高市の49,500円まで開いています(出典:埼玉県「市町村別国民健康保険税率・賦課方式」令和8年度の状況、2026年7月10日掲載)。2倍を超える差です。4人世帯なら、医療分の均等割だけで年10万円ちがいます。

賦課の方式もそろっていません。県内63の保険者のうち、資産割と平等割を今も課しているのは朝霞市・長瀞町・神川町の3つだけで、残りは所得割と均等割の2方式です。神川町は資産割15.00%・平等割8,000円と、方式そのものが他と違います。

これは近いうちに変わります。埼玉県は令和9年度に県内の保険税水準の準統一を目指しており、全市町村が同じ2方式と法定の賦課限度額に移る予定です(出典:埼玉県「保険税水準の統一について」)。杉戸町も令和8年度の改定通知で「県内のどこに住んでいても、同じ世帯構成、所得であれば同じ保険税となること」を目指すと書いています(2026年3月19日更新)。今日調べた金額は、来年度には別の数字になります。家族に説明するときは、必ず自分の住んでいる市町村のページで、その年度の額を確かめてください。

「配偶者の分は配偶者が払う」は、法律の側では通らない

配偶者の保険料は配偶者の財布から、という整理をする家庭があります。国民年金法はそう作られていません。

世帯主は、その世帯に属する被保険者の保険料を連帯して納付する義務を負う。
配偶者の一方は、被保険者たる他方の保険料を連帯して納付する義務を負う(国民年金法88条2項・3項)

連帯して納付する義務です。未納が続いたとき、国は世帯主にも配偶者にも請求できます。「自分の分は自分で」と決めていても、法律上は世帯でひとつの負債として扱われます。ここを黙って独立すると、督促状が届いた日にいちばん揉めます。

家族に手伝ってもらうなら、その給与は経費にできる

出ていく話ばかりではありません。請求書の作成や帳簿を配偶者に頼むなら、その給与を経費に入れられる条文があります。

青色申告の承認を受けている人は、青色事業専従者給与として、労務の対価として相当と認められる額を必要経費に算入できます(所得税法57条1項)。条件は3つあります。生計を一にする配偶者その他の親族であること、15歳以上であること、その事業に専ら従事していること。そして届出の期限があります。

その年三月十五日まで(その年一月十六日以後新たに同項の事業を開始した場合には、その事業を開始した日から二月以内)に(略)納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(所得税法57条2項)

青色申告をしていない場合は事業専従者控除で、配偶者は86万円、それ以外の親族は50万円が上限です。ただし「その年分の事業所得の金額を専従者の数に1を加えた数で除して計算した金額」と比べて低いほうが採られます(同条3項)。所得が少ない年は、86万円まで使えません。

青色申告そのものが何を変えるのかは、青色申告にすると何が変わるかに書かれています。届出の期限は独立の月で動くので、一人親方が独立する時期は何月がいいかもあわせて見てください。

会社員のときと独立したあとを並べた図。会社員は配偶者の年金が保険料ゼロ、子を扶養に入れても同額、保険料は会社と半分ずつ、厚生年金が上に乗る。独立後は配偶者も月17,920円、国保の均等割が人数ぶん、保険料は全額自己負担、将来の年金は下がる。

都合の悪いことも書いておきます

ここまでの数字は「増える分」だけを並べたものではありません。会社員のあいだも健康保険料と厚生年金保険料は給与から引かれていました。違うのは会社が半分持っていたことと、配偶者と子の分が上乗せされなかったことの2点です。独立すると、この2つの前提が同時に外れます。

そして厚生年金がなくなるので、将来受け取る年金も下がります。上乗せの手段は別にありますが、そのぶん今の支出が増えます(一人親方の年金と将来の備え)。保険料そのものを下げたいなら、加入先の選択肢を先に比べてください(国民健康保険と建設国保、どちらが得か)。

いつ、いくら出ていくのかは月で決まっています。1年目の資金繰りは一人親方が独立1年目に払うお金のカレンダーで並べました。

まとめ

  1. 配偶者は本人が第2号でなくなった日に第1号へ移る(国民年金法7条1項3号)。令和8年度は1人月17,920円
  2. 国保の均等割は頭数ぶん、平等割は世帯にひとつ(国民健康保険法施行令29条の7第2項3号)
  3. さいたま市の4人世帯なら、年金と均等割だけで年66万円ほど。所得割は別
  4. 医療分の均等割は県内で24,000円から49,500円まで開いており、令和9年度に準統一が予定されている
  5. 保険料は世帯主と配偶者の連帯債務(同法88条2項・3項)
  6. 家族に手伝ってもらうなら、届出の期限は3月15日か開業から2か月(所得税法57条2項)

保険料の額や届出の要否は、住んでいる市町村と個々の事情で変わります。金額の確定と手続きは、市町村の国保担当窓口・年金事務所・税務署でご確認ください。

家族と話す前に、同じ立場の人がどう説明したのかを聞いておくと楽になります。相談・雑談のフォーラムで聞いてみてください。使い方はこちらにまとめてあります。

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