未経験で体力に自信がない人は職人になれるか|法律が重さの上限を決めているのは18歳未満と女性だけ
朝8時の現場。エレベーターのない4階の空室で、材料が1階の共用廊下に積んである。運び上げるのは自分ひとり。ここで「自分の体力で務まるのか」と考えて足が止まる人は少なくありません。
結論からお伝えすると、職人の仕事で問われるのは筋力の量ではなく、荷物を減らす段取りと、落ちない・転ばない注意です。法律が「何キロまで」と重さの上限を定めているのは、実は18歳未満の人と女性だけで、満18歳以上の男性には条文上の上限がありません。代わりに国が示しているのは「体重のおおむね40%以下」という目安です。そして建設業の労災で最も多いのは、重い物による腰の故障ではありません。

法律は「何キロまで」と決めているのか?
重量物の上限は、労働基準法62条を受けた省令に表として載っています。年少者労働基準規則7条の内容は次のとおりです(単位はキログラム、左が断続作業・右が継続作業)。
- 満16歳未満 女=12/8、男=15/10
- 満16歳以上満18歳未満 女=25/15、男=30/20
女性については女性労働基準規則2条・3条により、満18歳以上でも断続作業30/継続作業20が上限です。
ここで気づいてほしいのは、満18歳以上の男性の欄がどこにもないことです。条文が数字で縛っているのは18歳未満と女性だけで、成人男性の上限は法律に書かれていません。「何キロまでと決まっているはずだ」と探しても出てこないのは、そもそも無いからです。
成人男性の目安は「体重の40%」
条文の代わりに目安を置いているのが、厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日付け基発0618第1号)です。人力による重量物の取扱いについて、こう書かれています。
「満18歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う物の重量は、体重のおおむね40%以下となるように努めること。満18歳以上の女子労働者では、さらに男性が取り扱うことのできる重量の60%位までとすること」
体重60キロなら24キロ、70キロなら28キロが目安になります。指針はさらに、この重量を超える物を扱うときは身長差の少ない2人以上で、各々に重量が均一にかかるように行うよう求めています。ひとりで意地を張る前提の数字ではない、ということです。
なお指針が言う「重量物」は製品・材料・荷物のことで、人を抱え上げる作業は含みません。
職人が実際にケガをしているのはどこか
厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」(令和8年5月・労働基準局安全衛生部安全課)の別表4で、建設業の休業4日以上の死傷災害13,437人を事故の型別に見ると、こうなります。
- 墜落・転落 4,343人(32.3%)
- 転倒 1,579人
- はさまれ・巻き込まれ 1,496人
- 切れ・こすれ 1,158人
- 飛来・落下 1,127人
- 動作の反動・無理な動作(腰の故障など) 915人(6.8%)
重い物を持って腰をやる型は、建設業では6.8%しかありません。同じ型を陸上貨物運送事業で見ると2,738人(15,632人中17.5%)で、件数で3倍、割合で2.6倍です。世間が「体力仕事=腰」と結びつけている像は、運送の現場のほうにずっと近い。
建設業でいちばん多いのは、高さから落ちることです。ここに効くのは筋力ではなく、脚立の立て方、足場の乗り移り方、開口部の養生といった手順の話になります。
年齢が上がると危ないのか?
同じ資料の別表7で、建設業の被災者を年齢で並べると、50〜54歳が1,474人で最多、次いで55〜59歳1,402人、45〜49歳1,249人。19歳以下は349人です。
ただしこれは件数であって、率ではありません。その年代に働いている人が何人いるかで割った数字ではないので、「50代が危ない」とは読めません。読み取れるのは「若ければ災害に遭わないわけではない」という程度です。20〜24歳だけで1,215人が休業4日以上のケガをしています。

体力より先に効くこと
腰痛予防対策指針が挙げている手は、どれも力とは関係のないものばかりです。
- 自動化・機械化を先に検討し、難しければ台車などの補助機器を使う
- 荷姿が大きい・重い場合は小分けにして軽くする
- 取り扱う物の重量をできるだけ明示する
- 持ち上げるときは身体を対象物に近づけ、前屈やひねりをしない
- 重量・頻度・運搬距離に応じて小休止をとり、他の軽作業と組み合わせて連続時間を減らす
「重量を明示する」が指針に入っているのは、実務では効きます。何キロか分からない物をとっさに持つのがいちばん危ない。
それでも向かない場合はある
正直なところを書きます。体力が要らないわけではありません。夏場の空室は窓を閉め切れば40度近くになりますし、脚立の上での作業は下半身が持たないと精度が落ちます。持病で重量物の取扱いや高所作業を制限されている方は、まず主治医に相談してください。就業上の措置については、事業場の産業医や労働基準監督署の相談窓口でも聞けます。
ただ、「懸垂が何回できるか」で決まる仕事ではない、というのがこの記事の結論です。段取りで荷を減らせる人と、落ちない工夫を先にする人は、長く続いています。
職種によって体の使い方はかなり違います。未経験が知っておく職人の1日は職種で違うで内装・電気・設備・大工の動きを比べてみてください。向き不向きの整理は職人に向いている人・続かない人の違い、体を長く保つ工夫は体を壊さずに続けるための工夫にまとめています。
同じ不安を持っていた人が先に書き込んでいます。職人になりたい人の掲示板で聞いてみてください。


