一人親方が入金を1件ずつ消し込む手順|請求額と振込額が合わない4つの理由

月末の夜、通帳のアプリを開くと「カ)〇〇ケンセツ」で1件だけ入金がある。金額は187,340円。手元の請求書は3枚あって、合計は198,000円。差は10,660円。どの現場のぶんが入ったのか、なぜ端数が出ているのか、その場では分かりません。

結論からお伝えすると、入金の管理でつまずくのは「催促のしかた」ではなく、その手前の消し込みです。請求書に番号を振り、入金1件ごとにどの請求に当たるかを潰していく。これができていないと、払われていないことにすら気づけません。そして金額が合わない理由は、たいてい次の4つのどれかです。

請求額と振込額が合わない四つの理由を示した図解。振込手数料の差引、消費税の端数処理、材料代や処分費の相殺、出来高による一部入金を挙げている

まず、消し込みの型をつくる

消し込みとは、出した請求と入ってきたお金を1対1で突き合わせて、残りをゼロにしていく作業のことです。会計ソフトを入れていなくても、次の5列があれば足ります。

  1. 請求番号(例:2026-041)。請求書の右上に必ず入れる
  2. 相手先現場名
  3. 請求日約束の入金予定日
  4. 請求額
  5. 入金日入金額、そして差額

肝は請求番号です。番号がないと、同じ元請けから月に3件出したときに、どれが入ったのか永久に確定しません。番号を振って請求書に書いておけば、電話で「2026-041のぶんです」と言えます。

もう一つ、通帳に出る振込名義は屋号と一致しません。元請けの正式な法人名で来ることもあれば、経理を委託している会社の名前で来ることもあります。最初の1回で「この名義はどこか」を控えておくと、翌月から迷いません。

請求額と振込額が合わない4つの理由

1. 振込手数料が引かれている

数百円の端数の正体はたいていこれです。民法第485条(e-Gov法令検索・2026年8月27日時点)は「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする」と定めています。払う側が負担するのが原則で、「別段の意思表示」があればそちらが優先される、という順番です。つまり手数料を引かれること自体が違法なのではなく、そういう取り決めになっているかどうかの話になります。取り決めがないまま引かれているなら、そこが確認するところです。

2. 端数の処理が違う

消費税の計算で1円ずれることがあります。1円は追わなくていい、ではありません。1円がずれる相手は、次に1万円もずれます。ずれた月に一度だけ「こちらの計算はこうです」と揃えておくと、以後の消し込みが速くなります。消費税の端数処理のしかたそのものは、税務署や税理士に確認してください。

3. 材料代や処分費が相殺されている

これが一番大きく効きます。元請けが立て替えた材料代、産廃の処分費、駐車場代などを、支払いから差し引く形です。民法第505条の相殺は、双方が互いに債務を負っていて、どちらも弁済期にあることが前提です。片方が勝手に金額を決めてよい、という制度ではありません。

そして建設業法(e-Gov法令検索・2026年8月27日時点)には、この場面を名指しした条文があります。第19条第1項第10号です。契約の締結に際して書面に記載すべき事項として、「注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め」が挙げられています。

あわせて同項の第5号は「請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法」、第12号は「工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法」を、書面に書く事項としています。材料を出すのか、いくらで引くのか、いつ払うのかは、法律が「書いておくもの」と決めている項目です。

4. 出来高で一部だけ入っている

長い現場では、完成前に出来形部分に対する支払いが入ります。これは不足ではなく分割です。台帳の「入金額」を上書きせず、行を足して累計で管理すると、残りがいくらか一目で分かります。

材料代を勝手に引かれたときは、どう聞けばいいか?

感情ではなく、書類の話にすると進みます。順番はこうです。

  1. まず自分の記録を確定させる。請求番号・請求額・入金額・差額を、1行で言える状態にする
  2. 「差額の10,660円は何のぶんでしょうか」と、金額を特定して聞く。「引かれてるんですけど」では相手も調べようがありません
  3. 控除の内訳をもらう。材料代なら品名と数量と単価
  4. 次の契約から、第19条第1項第10号の定めを書面に入れてもらう。今回の1件を取り返すより、これが効きます

なお、原価を割るような一方的な減額については、建設業法第19条の3が「注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない」と定めています。この条文は建設業の許可を持っていない一人親方の契約にも効きます。

差額を見つけたときに動く順番を示した図解。自分の記録を一行にまとめ、差額の金額を特定して聞き、控除の内訳をもらい、次の契約書面に定めを入れるという四段階

台帳はいつまで残すのか

民法第166条第1項第1号は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないと、債権は時効によって消滅すると定めています(同項第2号は、権利を行使することができる時から10年)。

5年は長いようですが、消し込みをしていないと「まだ入っていない」ことに気づかないまま年が変わります。台帳を毎月閉じることは、時効を寝かせないための作業でもあります。帳簿と証憑の保存年数そのものは税法側のルールなので、税務署か税理士に確認してください。

都合の悪いことも書いておきます

  • 消し込みは面倒です。月末に30分では終わりません。最初の3か月は、請求を出した日にその場で台帳を書く癖をつけるところからです
  • 会計ソフトを入れても、振込名義の一致問題は残ります。自動で当たるのは金額が一致した分だけで、手数料が引かれた入金は結局手で当てることになります
  • 差額を全部追うと、相手との関係が先に切れることがあります。追う・追わないを決めるためにも、まず「いくらずれているか」を数字で持っておくことです

まとめ|消し込みが終わってからが督促

  1. 請求書に請求番号を振る
  2. 入金1件ごとに差額を出す
  3. 差額の理由を手数料・端数・相殺・出来高の4つに分類する
  4. 相殺があるなら、次の契約書面に建設業法第19条第1項第10号の定めを入れてもらう

ここまでやって、それでも入らないときが督促の出番です。支払期日の考え方や、どこへ言えばいいのかは一人親方が支払いの遅い元請けに動く順番にまとめています。契約の入口で確認しておくことは一人親方がはじめての元請けと組む前に確認する5つです。「支払期日」と「実際にお金が動く日」がずれる話は、建物を持つ側でも同じ構図で起きています(家賃はいつ大家の口座に入るのか)。

入金の管理をどうやっているかは人それぞれです。相談・雑談の掲示板で、他の人のやり方も聞いてみてください。

出典:民法・建設業法(e-Gov法令検索・2026年8月27日時点)

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