職人が資格を取るとき国からお金は戻るのか|独立すると使えなくなる制度
結論からお伝えすると、資格を取るときに受講料の一部が戻ってくる教育訓練給付は雇用保険の制度です。会社に雇われて雇用保険に入っている間か、辞めてから1年以内までしか使えません。一人親方として独立すると雇用保険の被保険者ではなくなるため、原則として対象から外れます。順番を間違えると、10万円が戻る話が丸ごと消えます。
厚生労働省は2026年8月6日、この制度の対象となる令和8年10月1日付けの指定講座を公表しました。専門実践教育訓練は新規138講座(同日時点の対象は3,485講座)、特定一般教育訓練は新規151講座(同1,532講座)です。10月から受けられる講座が確定した、というのが今の状況です。
戻ってくるのは、いくらか
教育訓練は3種類あり、給付率が違います。金額は厚生労働省の案内(労働者向け)に示されているものです。
- 一般教育訓練 受講費用の20%(上限10万円)
- 特定一般教育訓練 最大で受講費用の50%(上限25万円)
- 専門実践教育訓練 最大で受講費用の80%(年間上限64万円)
「最大80%」という数字が独り歩きしていますが、職人がそこに届くことはまずありません。専門実践の対象講座として例に挙がっているのは、介護福祉士、看護師・准看護師、美容師、社会福祉士、保育士、歯科衛生士といった養成課程や、大学院・専門職大学の課程です。何年もかけて通う講座が中心で、建設や内装の資格はここに入っていません。
職人が現実に使えるのは、多くの場合一般教育訓練の20%・上限10万円です。同じ案内は、一般教育訓練の対象講座の例として「輸送・機械運転関係(大型自動車、建設機械運転等)」を挙げています。特定一般教育訓練の側にも大型自動車第一種・第二種免許が入っています。車両系や運転系の資格が、いちばん噛み合う入口です。
ただし対象は、厚生労働大臣が指定した講座に限られます(雇用保険法第60条の2第1項)。全体で約17,000講座あり、講座名は「教育訓練給付金 厚生労働大臣指定教育訓練講座 検索システム」で調べられます。1日から3日で終わる特別教育や技能講習が、そのまま対象になるわけではありません。 受けようとしている講座がそのまま指定されているかどうかを、申し込む前に講座名で確認してください。特別教育そのものの受け方は見習い職人の特別教育の受け方と費用で扱っています。

一人親方になると、なぜ使えなくなるのか
制度の財源が雇用保険だからです。雇用保険法第60条の2第1項は、給付の対象になる人を2つに分けています。
- 講座を開始した日に一般被保険者または高年齢被保険者である人(=雇われて働いている人)
- それ以外で、講座の開始日が、直前に一般被保険者でなくなった日から厚生労働省令で定める期間内にある人
この2番目の「厚生労働省令で定める期間」は、雇用保険法施行規則第101条の2の5で1年と定められています。妊娠、出産、育児、疾病、負傷など、引き続き30日以上受講を開始できない事情があってハローワークに申し出た場合には延長でき、最大20年までです。
一人親方は雇用保険の被保険者ではありません。1番にも2番にも当てはまらなくなった時点で、この制度からは外れます。会社を辞めてから1年が、事実上の期限です。
辞める前に決めておくこと
独立を考えているなら、資格の予定を退職の予定と一緒に組みます。
- 取りたい講座が指定講座に入っているかを、辞める前に検索システムで調べる
- 入っているなら、在職中か、離職から1年以内に受講を開始する
- 特定一般教育訓練・専門実践教育訓練を受けるなら、受講開始日の1か月前までにハローワークで受給資格確認を済ませる(一般教育訓練にこの手続きはありません)
退職前後にやることの全体は職人が会社を辞める前に済ませる5つにまとめています。この給付は、そこに1行足しておく価値があります。
雇用保険に3年入っていないと使えないのか
いいえ。ここは誤解が多いところです。条文の原則は支給要件期間3年以上ですが、初めて教育訓練給付金を受ける場合は、雇用保険の加入期間が1年以上あれば足ります(専門実践教育訓練を受ける場合は2年以上)。厚生労働省の案内も、この流れで判定するよう図で示しています。
2回目以降は条件が変わります。前回の受講開始日以降に加入期間が3年以上あり、かつ前回の支給日から今回の受講開始日までに3年以上経っていることが必要です。短い間隔で続けて受けることはできません。
パートやアルバイト、派遣で働いている人も、雇用保険に入っていれば対象です。見習いで入った1年目から数え始められる、ということでもあります。見習い職人が取る資格の順番と組み合わせると、費用の計画が立てやすくなります。

手続きの期限は2か所ある
この制度でいちばん多い取りこぼしは、条件ではなく期限です。ただし受講前の手続きが要るかどうかは、訓練の種類で変わります。
- 特定一般教育訓練・専門実践教育訓練を受ける場合だけ、受講開始日の1か月前までに、住んでいる地域を管轄するハローワークで受給資格確認をする(e-Govを使った電子申請も可能)
- 講座を受けて修了する
- 修了した日などの翌日から1か月以内に、ハローワークへ支給申請する
専門実践教育訓練と特定一般教育訓練では、1番の前に訓練前キャリアコンサルティングを受け、ジョブ・カードの確認を受ける必要があります。ハローワークやキャリア形成・リスキリング支援センターで受けられ、オンラインにも対応しています。
ここで押さえておきたいのは、職人が現実に使う一般教育訓練には、この受講前の手続きがないということです。講座を申し込むときに教育訓練施設へ給付制度を使う旨を伝え、修了後に支給申請をする流れになります。逆に、特定一般や専門実践で1番を飛ばして受講を始めてしまうと、条件を全部満たしていても給付は出ません。この2つは、申し込みより先にハローワークです。 自分が対象になるかどうかは、ハローワークの窓口で支給要件照会という手続きをすれば、事前に調べてもらえます。
すでに独立している人に、使える道はあるのか
教育訓練給付そのものは使えません。ただし離職から1年以内で、給付に必要な雇用保険の加入期間が足りない人については、求職者支援訓練という別の枠組みが案内されています。厚生労働省の案内にも、主に離職中の人を対象とした支援策として記載があります。該当しそうなら、ハローワークで相談してください。
独立後は、費用を全額自分で持つ前提で資格の計画を立てることになります。だからこそ、雇われているうちに取れるものは取っておくという判断に意味が出ます。
同じように、雇われている側と一人親方とで扱いが変わる制度は他にもあります。最低賃金の考え方は一人親方に最低賃金は関係あるのかで整理しました。制度ごとに「どちらの立場で読むか」を確かめる癖をつけておくと、取りこぼしが減ります。実際の使い勝手は人によって違うので、相談・雑談の掲示板で聞いてみるのも手です。
まとめ
- 教育訓練給付は雇用保険の制度。一人親方は原則対象外(雇用保険法60条の2)
- 使えるのは在職中か、離職から1年以内(施行規則101条の2の5)
- 初回は加入期間1年以上でよい(専門実践は2年以上)。3年待つ必要はない
- 職人に噛み合うのは一般教育訓練の20%・上限10万円。「最大80%」は看護・介護などの長期課程
- 期限は修了翌日から1か月以内の支給申請。特定一般・専門実践はさらに受講開始1か月前までの受給資格確認が要る(一般教育訓練は不要)
※本記事は2026年8月16日時点の情報です。出典:厚生労働省「専門実践教育訓練の指定講座を公表しました(令和8年10月1日付け指定)」「特定一般教育訓練の指定講座を公表しました(令和8年10月1日付け指定)」(いずれも令和8年8月6日公表)、同「教育訓練給付金のご案内」(労働者向け)、同「教育訓練給付金 手続きの流れ」、e-Gov法令検索(雇用保険法、雇用保険法施行規則)。給付の可否は個別の加入状況で変わります。必ずお住まいを管轄するハローワークでご確認ください。


