現場で傷をつけたときの対応|壊した相手が誰かで、説明する側が入れ替わります

結論からお伝えすると、現場で物を傷つけたときにまず分けるのは「壊したのが誰の物か」です。契約の相手の物なら民法415条、関係のない第三者の物なら709条。この2本は、責任がないことを言う側が入れ替わり、時効の年数も変わります。

ボードを運んでいて建具の枠をこすった。脚立の脚が床を突いた。よその車のミラーに材料が当たった。どれも同じ「やってしまった」ですが、条文の扱いは同じではありません。

契約の相手の物なら、自分の側が説明することになる

民法415条1項はこうです。「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

元請から請け負った工事の現場で、その工事の目的物や、元請が管理している場所の物を壊した場合がここに入ります。ただし書に注目してください。免責は「ただし」以下に置かれていて、これを持ち出すのは債務者、つまり壊した側です。「自分のせいではない」と言いたいなら、その事情を並べるのは自分の番になります。

第三者の物なら、相手が過失を示す番になる

民法709条は短いです。「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

隣家の外壁、通行人の自転車、入居中の他室の家財。契約関係のない相手が出てくる場面です。ここでは「故意又は過失」が請求する側の要件になっているので、示すのは相手です。415条とは向きが逆になります。

どちらでも共通するのが722条2項です。「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」養生の範囲を指定したのが相手側だった、通行を止めていなかった、という事情は、この条文の材料になります。だから現場の状況を残す意味があります。

相手で変わります。契約の相手の物なら民法415条で時効5年、関係のない人の物なら709条で時効3年になることを左右で比べた図

時効の年数が違う

ここは実務で効きます。

  • 契約の相手に対する415条の請求は、民法166条1項で「権利を行使することができることを知った時から5年」または「権利を行使することができる時から10年」
  • 第三者に対する709条の請求は、724条で「損害及び加害者を知った時から3年」または「不法行為の時から20年」
  • けがをさせた場合は724条の2で、3年が5年に読み替えられます

同じ日に同じ手で起こしたことでも、相手によって3年と5年に割れます。「もう何年も前の話だから終わっている」と言う前に、どちらの条文の話かを確かめてください。

直す前にやること。広がるのを止める、手をつける前に撮る、その日のうちに元請へ言う、自分で勝手に直さないの4つを並べた図

直す前に、記録を残す

その場でやることは4つです。

  1. 広がるのを止める。水や粉じん、通電しているものは、被害額が時間で増えます
  2. 手をつける前に撮る。傷そのものだけでなく、周囲・養生の状態・全景の3枚。416条は損害の範囲を「通常生ずべき損害」と定め、2項で「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは」請求できるとしています。どこまでが通常かを後で争うのは、原状が残っていないと不可能です
  3. その日のうちに元請へ報告する。報告が遅れると、原因が自分にあるのかどうかの確認ができなくなります
  4. 自分の判断で直さない。直したあとに「元はもっとひどかった」と言われても、示すものがありません

謝るかどうかで迷う人がいますが、条文の上で責任の有無を決めるのは415条ただし書や709条の要件であって、その場の言葉ではありません。迷惑をかけたことを詫びるのと、賠償の義務があると認めるのは別の行為です。ただし民法152条1項は「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める」と定めています。金額や責任を認める発言は、時効の進み方を動かします。事実の報告は早く、責任と金額の話は保険会社と元請を交えてから。この順番を崩さないことです。

工事の目的物そのものの不具合は、別の条文

ぶつけて壊したのではなく、施工した物に不具合があった場合は担保責任の話になります。民法637条1項は、注文者が不適合を知った時から1年以内に通知しないと、追完・減額・賠償・解除ができなくなると定めています(2項に、請負人が知っていた場合などの例外があります)。

「2年」という数字がよく出てくる理由と、それが法律ではないことは一人親方が工事の保証を聞かれたときの答え方|「2年」は法律ではなく約款の数字ですにまとめました。

払うお金は、労災からは出ない

最後にお金の話です。壊した物の賠償は、労災保険の特別加入からは1円も出ません。そこは一人親方の賠償の備え|労災保険の特別加入では、壊した物の賠償は1円も出ないで詳しく扱っています。賠償責任保険に入っているなら、事故を知ったらまず保険会社の受付番号を取ってください。先に自腹で直してしまうと、支払いの対象かどうかを確認できなくなることがあります。

元請の担当者が代わっていると、口頭で済ませた報告が消えます。書面にしておく意味は一人親方の現場で元請けの担当者が代わったら|前の人と決めた話が消えるのは、書面にしていない分だけですのとおりです。

傷は誰でも出します。差が出るのは、出したあとの15分です。止めて、撮って、その日のうちに言う。この順番を守った人が、次も呼ばれています。

実際にどう収まったかという話は相談・雑談の掲示板にも出ています。

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