一人親方が見積の数量を間違えたと気づいたとき|契約の前か後かで、打つ手がまるごと変わります
結論からお伝えすると、数量を拾い間違えたと気づいたときの打つ手は、契約の前か後かで完全に分かれます。前なら出し直すだけ。後は民法95条の錯誤という条文の世界に入り、こちらに重大な過失があると、原則として取り消せません。実務で早いのは、取消しを持ち出すより先に、建設業法19条2項の変更の書面を出すことです。
メジャーを当て直したら、天井が15平方メートル多かった
着工の前日、養生の段取りを見に行って寸法を当て直す。天井の面積が、出した見積より15平方メートル多い。図面の寸法を面積に直すところで、一段まるごと落としていた。
見積は先週出した。注文請書はもう返ってきている。手元の紙には、こちらが書いた数量が印字されたまま残っています。

契約の前に気づいたか、後に気づいたか
先に分かれ道を置きます。返事がまだ来ていないなら、差し替えた見積を出して、前のものは無効にしてほしいと伝えるだけです。相手はまだ何も動いていません。
やっかいなのは、返事が来た後です。しかも返事は、注文書が届くことだけとは限りません。黙っていると受けたことになる場面があります。そこは返事をしないと受けたことになる条文に書きました。いつ契約になったのかを先に決めないと、どちらの話をしているのか分からなくなります。
契約の後なら、取り消せるのか?
民法95条1項は、意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる、と定めています。掲げられているのは2つ。意思表示に対応する意思を欠く錯誤と、表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤です。
後者については2項があり、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り取消しができる、とされています。頭の中で思っていただけでは足りない、という意味です。
数量の拾い違いが「重要なもの」に当たるかどうかは、金額の大きさや工事全体に占める割合で変わります。ここは断定できません。1平方メートルの差と、15平方メートルの差では話が違います。
自分のミスでも通るのか
95条3項が、いちばん重い条文です。錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、1項の取消しをすることができない。除かれる2つは、こう書かれています。
- 相手方が表意者に錯誤があることを知り、または重大な過失によって知らなかったとき
- 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
現場の言葉に直すと、拾い落としが自分の不注意だと評価される場面では、相手も同じ図面で同じように間違えていたか、こちらの間違いに気づいていたか。そのどちらかでないと、取消しは通りにくいということです。
そして相手が同じ数量で積算していたなら、2に当たる可能性があります。相手の見積根拠を見せてもらう意味は、そこにあります。
実務で早いのは、取消しより変更の書面
取消しは「契約をなかったことにする」手段です。そこまで望んでいる人は、まずいません。工事はやる。金額だけ直したい。
それなら建設業法19条2項です。請負契約の当事者は、契約の内容で19条1項に掲げる事項に該当するものを変更するときは、その変更の内容を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付しなければならない、と定められています。
19条1項6号には、当事者の一方から設計変更または工事着手の延期などの申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更、またはそれらの額の算定方法に関する定めを、契約の書面に書くことが挙げられています。数量が動いたときにどう精算するかは、本来なら最初の契約書に書いてある項目です。まずそこを読み返してください。
伝えるときに、先に出すもの
言い方より、順番です。謝罪から入ると、相手は金額の話を後回しにします。
- いつ気づいたか。日付を先に言う。伏せた時間が長いほど印象が悪くなります
- どこが何平方メートルずれたか。図面の位置と数字をそのまま出す
- なぜずれたか。拾い落とし、図面の差し替え、現場と図面の差。原因で相手の受け止めが変わります
- どうしたいか。差額を乗せるのか、工事の内容を減らして金額を動かさないのか。案を持って行く
数量の拾い方そのものは拾う平方メートル数の基本に、見積と注文請書のどれがどの役目かは見積書・注文請書・納品書・請求書の使い分けにまとめました。

都合の悪いことも書いておきます
- 取消しが通っても、現場は残りません。契約がなかったことになるので、その工事は他所へ回ります。次の声もかかりにくくなります
- 相手がすでに動いていると、話が重くなります。材料を手配した、他の職方の日程を押さえた。そこに費用が出ていれば、その分の話が別に立ちます
- 同じ条文は、こちらにも向いてきます。多めに拾って高く出していたことに相手が気づけば、相手が95条を持ち出す番です
- 錯誤は最終的に裁判所が判断します。金額が大きいときは、自分で結論を出さずに弁護士や建設工事紛争審査会に相談してください
まとめ|測り直した日にやる3つ
- 契約になっているかを先に確かめる。返事の有無で、打つ手がまるごと変わります
- 日付・位置・数量・原因・案を1枚にする。電話の前に紙にしておく
- 変更の書面を求める。口頭の了解だけで進めると、精算のときに一から始まります
言い出した後にどう着地したかは相談・雑談の掲示板にも集まっています。
(出典:民法95条、建設業法19条。いずれもe-Gov法令検索の現行条文、2026年9月18日時点)


