一人親方が初回の問い合わせに返すとき|相手の家で契約すると、8日間はひっくり返されます
結論からお伝えすると、初回の問い合わせは速く返すほうが有利です。ただし、速さより先にやることが1つあります。相手が「賃貸経営をしている大家」なのか、「そこに住んでいる本人」なのかを分けることです。後者だった場合、相手の家で契約を交わすと、その契約は特定商取引法の訪問販売になります。書面を渡す義務が付き、8日間はひっくり返されます。しかも工事を終えていても代金は請求できず、剥がした壁を無償で元に戻す請求まで受けます。

速さの話は、後半でします。先に相手を2つに分けます
特定商取引法26条1項1号は、「営業のために若しくは営業として締結するもの」を適用除外にしています。賃貸経営をしている大家が、貸室の原状回復を頼む——これは営業としての契約なので、訪問販売の規制は原則かかりません。
問題は、そうでない側です。自分が住んでいる家の水漏れ、実家の室内建具、持ち家の外壁。この人たちは消費者です。同じ「30万円の工事」でも、法律の建て付けがまるごと違います。
しかも、この線引きは名義では決まりません。消費者庁の通達には「一見事業者名で契約を行っていても、購入商品や役務が、事業用というよりも主として個人用・家庭用に使用するためのものであった場合は、原則として第2章の規定が適用される」と書かれています。屋号入りの見積書を出したかどうかではなく、どこで使う工事かで決まります。(出典:消費者庁「特定商取引に関する法律等の施行について」53ページ)
相手の家で契約すると、それは訪問販売です
特定商取引法2条1項1号は、訪問販売を「営業所、代理店その他の主務省令で定める場所(営業所等)以外の場所において…役務提供契約の申込みを受け、若しくは役務提供契約を締結して行う役務の提供」と定めています。
売り込みに行ったかどうかは条文に入っていません。呼ばれて行っても、相手の家で申込みを受ければ訪問販売です。工事は「役務の提供」に当たります。
その場で渡さなければならない書面があります
2つに分かれます。
- 4条=家で申込みだけを受けたとき。直ちに、種類・金額・支払時期・工事の時期・クーリング・オフに関する事項などを書いた申込書面を渡す
- 5条=家で契約まで締結したとき。遅滞なく(申込みと同時に契約した場合は直ちに)、契約書面を渡す
「あとで郵送します」は条文の言葉と合いません。直ちに、です。そして期間の起算はこの書面から始まります。
なお、書面を渡していなくても契約そのものは成立しています。成立の話と、渡すべき書面の話は別です(契約書を交わさずに受けた工事はどうなるか|一人親方が民法632条で押さえる3点)。
8日間で、実際に何が起きるのか?
9条1項は、5条の書面(先に4条の書面を受け取っていればその書面)を受領した日から起算して8日を過ぎるまでは、書面または電磁的記録で申込みの撤回・契約の解除ができるとしています。理由は要りません。同じ条にこう続きます。
- 3項|損害賠償や違約金を請求できない
- 5項|すでに役務を提供していても、その対価その他の金銭の支払を請求できない
- 7項|役務の提供にともなって土地または建物その他の工作物の現状が変更されたときは、相手は原状回復に必要な措置を無償で講ずることを請求できる
- 8項|これらに反する特約で相手に不利なものは無効
読み替えると、クロスを剥がして張り替えた6日目に解除されると、代金はゼロ、そのうえ元の状態に戻す工事を無償で求められるということです。「着手金をもらっているから大丈夫」も効きません。8項が特約を潰します。
「呼ばれて行ったのだから、除外では?」
ここがいちばん誤解されています。26条6項1号は、「その住居において売買契約若しくは役務提供契約の申込みをし又は…契約を締結することを請求した者」への訪問販売には4条から10条までを適用しないと定めています。
読むべきは「請求した」の中身です。請求の対象は訪問ではなく契約の申込みまたは締結です。通達は、当てはまらない例を具体的に3つ挙げています。
- 単なる問合せに対して、こちらから訪問して説明したいと申し出て、相手が承諾した場合——「消費者から『請求』を行ったとはいえない」
- 見積りのみを目的として訪問を依頼した相手と、その場で修理等の契約を締結した場合——「適用除外に当たらない」
- 台所の水漏れ修理を頼まれて行き、その場で台所のリフォームを勧誘した場合——同じく当たらない
2つ目が、そのままわれわれの日常です。「見積りに来てください」で呼ばれて、その場で「じゃあお願いします」と決まった工事は、除外になりません。広告に安い金額だけ出していて、実際の請求額と開きがあったときも同様とされています。(出典:消費者庁「特定商取引に関する法律等の施行について」59ページ)

では、初回の問い合わせにどう返すのか
速さは正しい。ただし、速さで走り切る先を1つずらします。
- 1時間以内に、一次返信だけ返す。内容は「受け付けました・いつ見に行けるか・当日どれくらいかかるか」の3行でよい
- その返信で使う場所を聞く。「お住まいですか、貸されているお部屋ですか」の一言で、上の分岐が決まる
- 住まいだった場合、訪問の目的を見積りに固定する。その場で契約書に押させない
- 契約は後日、事務所か郵送・電子で。営業所等で締結すれば訪問販売から外れます
- それでも家で決めたいと言われたら、4条・5条の書面を直ちに渡し、8日を待ってから着手する
4番目が実務の要です。契約の場所を動かすだけで、8日間の宙ぶらりんが消えます。見積書の書き方そのものは別に整理しています(一人親方の見積書の書き方|「一式」を材料費・労務費・必要経費に分ける手順)。
都合の悪いことも書いておきます
8日を待つと、他社に取られます。これは本当です。ただし、待たずに着手して6日目に解除されたときの損失は、材料費と手間と原状回復工事の合計で、1件分の利益では埋まりません。取りこぼしと丸損は、別の勘定です。
もう1つ。「大家からの依頼なら全部除外」でもありません。その大家が自宅の工事を頼んできたら、名義が屋号でも消費者側の扱いになり得ます。相手ではなく工事の使い道で分けてください。
そして、ここに書いたのは条文と通達の位置です。個別の契約がどちらに当たるかは、消費者庁または各都道府県の消費生活センター、必要なら弁護士に確認してください。一般的な説明であって、個別の判断ではありません。
まとめ|返信の1通目に足す一行
「お住まいのお部屋でしょうか、貸されているお部屋でしょうか」。この一行を定型文に入れるだけで、その後の書類と着手日が決まります。速さは変わりません。分岐が早くなるだけです。
発注する側が同じ場面をどう見ているかは、こちらにまとまっています(入居申込書と身分証のコピーはいつまで持てるのか|大家も個人情報取扱事業者です)。


