一人親方が相見積もりで負けたときに聞くこと|「一番安いところに合わせて」は頼むほうが禁じられています

結論からお伝えすると、相見積もりで負けたときに聞くべきなのは「いくらだったか」ではありません。金額は教えてもらえないうえ、聞き出せたところで次に使えないからです。聞くのは①条件は全社に同じものが出ていたか ②何で選んだのか ③次はいつかの3つです。そして、負けたあとに「一番安いところに合わせてくれ」と言われたら、それを頼む側が建設業法20条6項に触れます。下げる前に、条文の位置を知っておいてください。

相見積もりで負けた後に聞く3つの図。読み違えた範囲はどこか、金額以外の決め手は何か、同じ工種が次に出るのはいつか

「一番安いところに合わせて」は、頼むほうが禁じられています

建設業法20条6項は、材料費等記載見積書を交付した建設業者に対し、注文者は「その材料費等の額について当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回ることとなるような変更を求めてはならない」と定めています。努力義務ではなく、「求めてはならない」です。

7項では、これに違反した発注者が、その変更後の見積書に基づいて契約を締結した場合、許可行政庁(国土交通大臣または都道府県知事)が当該発注者に対して必要な勧告をすることができるとされています。(出典:建設業法/e-Gov法令検索・2026年9月8日時点)

そして国土交通省の建設業法令遵守ガイドラインは、相見積もりの場面をそのまま名指しで、違反となるおそれがある行為として挙げています。

「元請負人が、複数の建設業者から提出された見積金額のうち最も低い額を一方的に請負代金の額とするため、当該最も低い額の見積金額の提出者以外の者に、通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るおそれのある見積りの変更を求めた場合」(出典:国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」2ページ)

負けた側に「他社はこの金額だった。合わせられるか」と持ちかける——いちばん普通に見えるこのやりとりが、ガイドラインの事例8番そのものです。合わせるかどうかは自分で決めることですが、「向こうが頼んでいる行為に名前が付いている」と知っているのと知らないのとでは、返事が変わります。

そもそも、条件は全社に同じものが出ていたのか

相見積もりは、条件が揃って初めて比較になります。建設業法20条3項は、注文者に対し、随意契約なら契約を締結するまでに、入札なら入札を行うまでに、19条1項各号(請負代金の額を除く)について、できる限り具体的な内容を提示しなければならないと定めています。

ガイドラインは、そのうち「工事内容」について、元請けが最低限明示すべき事項を8つ挙げています。

  1. 工事名称
  2. 施工場所
  3. 設計図書(数量等を含む)
  4. 下請工事の責任施工範囲
  5. 下請工事の工程および下請工事を含む工事の全体工程
  6. 見積条件および他工種との関係部位、特殊部分に関する事項
  7. 施工環境、施工制約に関する事項
  8. 材料費、労働災害防止対策、建設副産物の運搬および処理に係る元請下請間の費用負担区分

ガイドラインは、施工条件が確定していないなどの正当な理由がないのに具体的な内容を提示しない場合は20条3項に違反するとしています。確定していない事項については「その旨を明確に示さなければならない」とも書かれています。

8番が抜けていると、比較は成立しません。廃材の処分費を自分が見て、他社が見ていなければ、その差はそのまま金額差になります。腕でも段取りでも値付けでもなく、読んだ範囲が違うだけです。

聞いてよい根拠も、同じガイドラインにあります

違反となるおそれがある行為事例には、こういうものも並んでいます。

  • 「元請負人が不明確な工事内容の提示等、曖昧な見積条件により下請負人に見積りを行わせた場合」
  • 「元請負人が、『出来るだけ早く』等曖昧な見積期間を設定したり、見積期間を設定せずに、下請負人に見積りを行わせた場合」
  • 「元請負人が下請負人から工事内容等の見積条件に関する質問を受けた際、未回答あるいは曖昧な回答をした場合」

3つ目が効きます。質問に答えないことが、望ましくないどころか「違反となるおそれ」の側に置かれている。だから、負けたあとに条件を確かめるのは、遠慮するような行為ではありません。聞いても失礼にならない場所が、文書で示されているということです。

見積条件が揃った依頼と揃っていない依頼を比べた図。揃っているのは設計図書と数量・責任施工範囲・全体工程・処分費の負担区分、揃っていないのは図面が来ない・範囲が口頭だけ・期限が出来るだけ早く・質問に回答がない

金額そのものを確かめる場所は、1つだけあります

民間の相見積もりで他社の金額が出てくることは、まずありません。ただし公共工事だけは、法律が公表を義務づけています。

公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律5条(国)と8条(地方公共団体)は、「入札者の商号又は名称及び入札金額、落札者の商号又は名称及び落札金額」その他の事項を公表しなければならないと定めています。9条では、地方公共団体がこれ以外の情報の公表を条例で定めることも妨げないとされています。

自分が出していない工事でも構いません。同じ市の、同じ工種の、同じくらいの規模の案件で、何社が並び、いくらで割れているか。これが無料で読める唯一の一次資料です。自分の見積が全体のどのあたりにいるかを、感覚ではなく分布で確かめられます。(出典:公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律/e-Gov法令検索・2026年9月8日時点)

単価そのものを組み立て直す材料は、別に整理しています(一人親方が単価交渉に使う材料の集め方|「人手不足だから」が通らない理由)。

実際に何と聞くのか

負けた直後の1通で、3つだけ聞きます。角が立たない順に並べます。

  1. 「今回の見積条件で、こちらが読み違えていた範囲はありましたか」——責任施工範囲と処分費の負担区分が、ここで出てきます
  2. 「金額以外で、決め手になった点があれば教えてください」——工期・体制・書類のどれかが返ってくれば、次に直せます
  3. 「次に同じ工種が出るのはいつ頃でしょうか」——これが本命です。負けた見積りの価値は、次の1件に呼ばれることでしか回収できません

1つ目の言い方が肝心です。「条件が曖昧でした」と指摘の形にすると、相手は答えられません。「こちらが読み違えていた範囲は」と自分側に置くと、相手は事実を返せます。欲しいのは謝罪ではなく、抜けていた項目の名前です。

都合の悪いことも書いておきます

まず、負けた理由を教える義務は、注文者側にありません。20条3項が求めているのは契約前の条件提示であって、結果の説明ではない。返事が来ないことのほうが多いと思ってください。

次に、他社の職人に直接金額を聞くのはやめたほうがいい。同業者どうしで価格の情報をやりとりすることは、独占禁止法の観点から問題になり得る領域です。一般的には、公正取引委員会が示している考え方を確認したうえで判断すべきところで、この記事で線を引ける話ではありません。聞く相手は発注者に限ると決めておくのが安全です。

そして、20条6項の話は「だから下げなくていい」ではありません。合わせるかどうかは経営判断です。ただし、原価を割ってまで受ける契約は、19条の3第2項で建設業者の側にも禁止規定が置かれています。下げる余地があるのか、原価を割るのかは、下げる前に自分で計算しておくところです一人親方の見積書の書き方|「一式」を材料費・労務費・必要経費に分ける手順)。

なお、ここに書いたのは条文とガイドラインの位置です。個別の取引が違反に当たるかどうかは、各都道府県の建設業担当課や駆け込みホットラインに確認してください。一般的な説明であって、個別の判断ではありません。

まとめ|負けた1件から持ち帰るもの

金額ではなく、抜けていた条件の名前と、次の時期。この2つが取れれば、その見積りは無駄になっていません。そして「一番安いところに合わせて」と来たときは、その依頼自体に条文の名前が付いていることを思い出してください。

発注する側は、この揃え方を先に考えています(相見積もりは金額より先に条件を渡す|築古アパートのオーナーが3社に同じ紙を配る作り方)。同じ紙を配る側の手順を読んでおくと、条件が揃っていない依頼が来たときに気づけます。

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