一人親方が一度勤めに戻るという選択肢|雇用保険がつながるのは離職から1年以内だけ

2026年8月31日、厚生労働省が令和7年の「雇用動向調査」を公表しました。建設業の数字はこうです。入職率10.4%、離職率8.7%、差し引き1.7ポイントの入職超過。全産業の計は入職率14.7%・離職率13.7%なので、建設業は出ていく人の割合が5ポイント低く、人数としては年間で4万人あまり増えています(入職者265.3千人、離職者222.5千人)。

結論からお伝えすると、建設業は「人が辞めていく業界」ではなく「入ってくる人が少ない業界」です。そのうえで、一度独立した人が勤めに戻るときにいちばん効いてくるのは、気持ちの問題ではありません。雇用保険の期間がつながるかどうかで、離職から1年という線が引かれています

一人親方が勤めに戻る前に見る4つを並べた図。雇用保険がつながる期限、失業給付を受けたか、建設国保を続けるか、廃業の届出

最新の統計に、戻った一人親方は1人も入っていない

同じ調査には、転職した人の賃金がどうなったかも載っています。前職と比べて「増加」40.8%、「減少」31.0%、「変わらない」25.5%。増加が減少を9.8ポイント上回りました。

ここで表の注を読んでください。

転職入職者のうち前職雇用者で調査時在籍者についてみたものである(自営業からの転職入職者を含まない)(厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」表6の注1)

この40.8%の中に、一人親方から勤めに戻った人は1人も入っていません。雇用動向調査は事業所を調べる調査なので、前職が雇われだった人しか賃金の比較ができないためです。「戻ったら給料はどうなるのか」を国の統計に聞いても、答えは返ってきません。だから条件のほうを自分で押さえておく必要があります。

雇用保険の期間は、離職から1年を超えるとつながらない

失業給付の日数を決めるのが「算定基礎期間」です。雇用保険法22条3項は、これを「基準日まで引き続いて同一の事業主の適用事業に被保険者として雇用された期間」とし、前に被保険者だったことがある人は、その期間を通算するとしています。ただし、ただし書きに外す条件が並んでいます。1号がこれです。

当該雇用された期間又は当該被保険者であつた期間に係る被保険者となつた日の直前の被保険者でなくなつた日が当該被保険者となつた日前一年の期間内にないときは、当該直前の被保険者でなくなつた日前の被保険者であつた期間(雇用保険法22条3項1号)

読み替えるとこうなります。会社を辞めた日から1年を超えて空いてから勤めに戻ると、それより前に積んだ被保険者期間は、日数の計算から丸ごと外れます。15年勤めてから独立し、2年後に戻ったなら、算定基礎期間はそこから数え直しです。

独立している間は雇用保険の被保険者ではありません。一人親方は労働者ではないからです。つまり独立した瞬間から、この1年の砂時計が落ち始めます。所定給付日数は算定基礎期間が10年未満で90日、10年以上20年未満で120日、20年以上で150日(同法22条1項)。20年ぶんが消えると、差は60日です。

そもそも受給資格が別に要る

通算とは別に、失業給付を受けるには離職の日以前2年間に被保険者期間が通算12か月以上必要です(同法13条1項)。戻った先を短期間で辞めると、期間がつながっていても資格のほうで足りません。

失業保険をもらっていたら、その前の期間は消えるのか?

消えます。雇用保険法22条3項2号は、基本手当または特例一時金の支給を受けたことがある人については、その受給資格に係る離職の日以前の被保険者であった期間を除くとしています。同じ趣旨の定めは、受給資格を判定する被保険者期間の側にもあります(同法14条2項1号)。

独立する前に失業給付を受け取ったなら、その時点で過去は精算されています。1年以内に戻ったかどうかを考えるまでもありません。逆にいえば、もらわずに独立した人だけが、1年の線を気にする意味があります

建設国保は、勤めに戻っても続けられるのか?

「就職したら建設国保は抜けるしかない」と言われがちですが、条文には抜け道があります。健康保険法3条1項は被保険者になれない人を並べていて、その8号がこれです。

厚生労働大臣、健康保険組合又は共済組合の承認を受けた者(健康保険の被保険者でないことにより国民健康保険の被保険者であるべき期間に限る。)(健康保険法3条1項8号)

承認を受ければ、適用事業所に使われるようになっても健康保険の被保険者にはならず、国民健康保険組合のほうを続けられます。ただし手続きに期限があり、就職してから思い出したのでは間に合わないことがあります。入社日が決まった段階で、加入している国保組合と、勤め先の事務担当の両方に確認してください。健康保険は個別の事情で扱いが変わるので、最終的な判断は年金事務所と組合の窓口になります。

事業をたたむときに出す書類

戻ると決めたら、開いたときと同じ数だけ閉じる書類があります。

  1. 廃業の届出……所得税法229条。事業を廃止した場合も届出の対象で、期限は「その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限まで」です
  2. 青色申告……同法151条2項により、業務の全部を廃止した場合、その年の翌年分以後は承認が効力を失います。やめる年の途中でも、その年は青色のまま申告します
  3. インボイスの登録……消費税法57条の2第10項2号。事業を廃止した旨の届出書を出した場合、事業を廃止した日の翌日に登録が失効します
  4. 労災の特別加入……団体を通じて脱退します。加入していた期間に起きたケガの給付を受ける権利は、脱退しても、また一人親方でなくなっても変わりません(労働者災害補償保険法35条5項)

4だけは、抜けても消えないほうの話です。治療中のものがあっても、脱退を止める理由にはなりません。

令和7年雇用動向調査による建設業と全産業計の比較。建設業は入職率10.4%・離職率8.7%・入職超過1.7ポイント、全産業計は14.7%・13.7%・1.0ポイント

戻ることは負けなのか

統計は答えを持っていませんが、材料はあります。建設業は入職超過で、人を採りたい側にいます。年間4万人あまりの純増は、そのまま「経験者の椅子が空いている」という意味です。

そのうえで、判断に効く事実は3つです。1年を超えると雇用保険の過去が消える。失業給付を受けていれば、すでに消えている。建設国保は承認があれば続けられる。ここを知らずに時期を決めると、あとから取り返せません。

独立した人が現場を離れるとどこへ行くのかは、職人を辞めた人はどこへ行くのかで統計から追っています。戻ったあとに使える制度については、職人が資格を取るとき国からお金は戻るのかも見てください。雇用保険の被保険者に戻ることで、また対象に入るものがあります。

雇用保険と税の扱いは個別の事情で変わります。実際の日数や手続きは、ハローワーク、税務署、加入している組合の窓口で確認してください。

発注する側から見た人手の話は、大家が工期を延ばされたときに聞くことにまとまっています。どの職種が足りていて、どこが余っているかが職種別に出ています。

戻るかどうかを考えている人は、相談・雑談の掲示板へどうぞ。時期の話は、先に通った人の答えがいちばん具体的です。

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