一人親方が支払いの遅い元請けに動く順番|監督署が動くのは雇われている人の賃金だけ
月末に入るはずの金が入らない。電話をすると「来月にまとめて」と言われる。翌月の末にかけ直すと、担当者が代わっていて、こちらの工事の話が伝わっていない。
結論からお伝えすると、最初に決めるのは相手ではなく自分の立場です。労働基準監督署が動くのは「雇われている人の賃金」で、請負で入っている一人親方の請負代金は労働基準法の外にあります。請負なら窓口は建設業法と許可行政庁です。2026年8月21日に厚生労働省が公表した数字を入口に、立場ごとにどの条文が効いてどこへ言うのかを並べます。
8月21日に出た数字は、何を数えているのか
厚生労働省が2026年(令和8年)8月21日に「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)」を公表しました。全国の労働基準監督署が令和7年中に取り扱った賃金不払事案です。
- 件数…22,605件(前年比251件増)
- 対象労働者数…173,016人(同12,181人減)
- 金額…128億5,782万円(同43億5,331万円減)
このうち、令和7年中に監督署の指導で支払われ、解決したものは次のとおりです。
- 件数…21,731件(96.1%)
- 対象労働者数…167,828人(97.0%)
- 金額…109億9,703万円(85.5%)
件数では96.1%が解決しているのに、金額では85.5%にとどまります。残った14.5%=18.6億円は、件数では3.9%(874件)にすぎません。片付かずに残るのは「金額の大きい少数」です。公表資料の注記には、翌年に繰り越したものと倒産や事業主の行方不明で支払われなかったものが含まれると書かれています。動くのが遅れるほど、この少数側に入っていきます。
業種別では建設業が2,290件(全体の10.1%)・11,877人(6.9%)・10.6億円(8.2%)でした。件数の割合が人数の割合より高い=1件あたりの人数が少なく、小さい事業場の案件が多いことになります。

この統計に、請負の一人親方は入っていない
ここが最初の分かれ目です。この数字は労働基準法が適用される「労働者」の賃金を数えたものです。労働基準法第24条は、賃金について「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」「毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定めています。
一方、請負で入っている一人親方が受け取るのは請負代金で、この条文の射程には入りません。「一人親方」という呼び名が法律用語ではないことは一人親方と個人事業主は何が違うのかで扱いました。ただし、契約書の題名が「請負」でも、実際の働き方が労働者と同じであれば労働者と判断されることがあります。拘束時間や指示の受け方で線が動く話なので、自分がどちら側かの判断は、所轄の労働基準監督署に事実を並べて聞くのが確実です。常用で入るときの拘束時間の考え方は一人親方が常用で入るときの拘束時間と残業にまとめてあります。
請負代金の期日は、法律で決まっている
請負なら、根拠になるのは建設業法です。現行条文(e-Gov 法令検索・2026年8月22日確認)で、期日に関わるところを3つ挙げます。
- 第24条の4…元請負人は、下請負人から工事が完成した旨の通知を受けたら、その日から20日以内で、できる限り短い期間内に完成を確認する検査を完了しなければならない。検査で完成を確認した後、下請負人が申し出たときは直ちに引渡しを受ける
- 第24条の3…元請負人は、注文者から出来形部分や工事完成後の支払を受けたときは、支払を受けた日から1か月以内で、できる限り短い期間内に、対応する下請代金を支払わなければならない。労務費に相当する部分は現金で支払うよう適切な配慮をしなければならない(同条第2項)
- 第24条の6…特定建設業者が注文者となった下請契約の支払期日は、引渡しの申出の日から50日を経過する日以前に定めなければならない。支払わなかったときは、50日を経過した日から支払日までの日数に応じ、遅延利息を支払わなければならない
その遅延利息の率は建設業法施行規則第14条で、年14.6%と定められています。「言いにくいから待つ」の1か月には、条文の上では利息が付いているということです。
そして3つはどれも日付を起点にしています。完成の通知をした日、検査が終わった日、引渡しを申し出た日。この日付が残っていないと、どの条文にも乗れません。追加工事の伝え方と請求は追加工事が出たときの伝え方と請求、契約前に確認することは一人親方がはじめての元請けと組む前に確認する5つで扱っています。

では、どこへ言えばいいのか?
請負で入っている場合
- 日付の残っている書類を集める。注文書・注文請書、見積書、完成の通知をした記録、検査の日、引渡しを申し出た記録、請求書、やりとりのメールやメッセージ
- 相手の許可行政庁を確かめる。建設業の許可は大臣許可と知事許可があり、どちらかで窓口が変わります。相手を名簿で確かめる方法は一人親方が管理会社・不動産会社と直接取引するにはで触れています
- 国土交通省の「駆け込みホットライン」に情報提供する。建設業法違反に関する情報の窓口で、匿名性に留意したうえで建設Gメン調査等の端緒情報、許可行政庁への情報提供として使われます。電話は0570-018-240(ナビダイヤル・通話料は発信者負担)、受付時間は10:00〜12:00と13:30〜17:00(土日・祝祭日・閉庁日を除く)。電話をすると最寄りの地方整備局等の「建設業法令遵守推進本部」につながります。スマートフォンから出せる情報収集フォームもあり、どこへ言えばいいか分からないときは、数問答えると窓口が分かる「建設業相談窓口ナビ」が用意されています
- それでも動かないなら民事の手続き。支払督促や少額訴訟という道があります
雇われて入っている場合
- 所轄の労働基準監督署へ相談する。上の統計のとおり、件数では96.1%が指導で解決しています
- 元請けが特定建設業者なら、建設業法第41条第2項という条文がある。これはあまり知られていません。特定建設業者が発注者から直接請け負った工事を施工している他の建設業を営む者が、その工事のために使用している労働者への賃金の支払を遅滞した場合、必要があると認めるときは、その特定建設業者を許可した国土交通大臣または都道府県知事が、特定建設業者に対して、遅滞した賃金のうち適正と認められる賃金相当額を立替払することなどを勧告できるという規定です。つまり「自分を雇っている会社」以外にも、話が向かう先があるということです
- 相手が倒産した場合は立替払の制度がある。厚生労働省は今回の公表文で、倒産により解決が困難な事案について「賃金の支払の確保等に関する法律」(昭和51年法律第34号)に基づく未払賃金立替払制度を迅速かつ適正に運用していくとしています。要件と上限があるので、詳細は労働基準監督署で確認してください
まったく払われていない場合の送検条文は、労働基準法ではない
今回の公表資料には送検事例も載っています。労働者7名に定期賃金の全額(合計約130万円)を所定支払日に支払っていなかった疑いの事例で、送検条文は最低賃金法第4条第1項でした。資料には「賃金を全く支払っていない場合には、労働基準法第24条違反(定期賃金不払)と最低賃金法第4条違反(最低賃金を下回る支払)の両方に該当しますが、特別法に当たる最低賃金法第4条違反により送検しています」と書かれています。1円も払われていない状態は、法律上は「最低賃金を下回っている」としても扱われるということです。埼玉県の最低賃金の動きは一人親方に最低賃金は関係あるのかで扱いました。
令和7年12月12日から、建設業法のルールが増えている
国土交通省の公表(令和7年12月15日)によると、令和7年12月12日に改正建設業法が全面施行されました。駆け込みホットラインが受け付ける対象にも、次のような新しいルールが加わっています。
- 中央建設業審議会が作成・勧告した「労務費に関する基準」を著しく下回る見積りや変更依頼の禁止
- 受注者による総価での原価割れ契約や工期ダンピングの禁止
安く受けさせる側だけでなく、安く出す側も対象になったという点が実務では効きます。労務費の基準値を交渉の材料にする方法は一人親方が「安いだけの仕事」を断るときの伝え方に書いてあります。
まとめ
- 令和7年の賃金不払事案は22,605件・173,016人・128億5,782万円。件数では96.1%が解決したが、金額では85.5%。残るのは金額の大きい少数
- 建設業は2,290件(10.1%)・11,877人(6.9%)・10.6億円(8.2%)
- 監督署が動くのは労働者の賃金。請負代金なら建設業法と許可行政庁、駆け込みホットライン(0570-018-240)
- 請負の期日は検査20日以内(第24条の4)・元請けの受領から1か月以内(第24条の3)・特定建設業者は50日以内(第24条の6)。遅延利息は年14.6%(施行規則第14条)
- 雇われている人なら、建設業法第41条第2項で特定建設業者への立替払の勧告という道もある
自分が労働者に当たるかどうかの判断、条文の当てはめ、時効の扱いは個々の事情で変わります。この記事は一般的な整理ですので、実際に動くときは所轄の労働基準監督署、相手方の許可行政庁、または弁護士に確認してください。
同じ経験をした人の話を聞いてみたい方は、相談・雑談のフォーラムをご覧ください。
出典:厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)を公表します」(令和8年8月21日公表・別紙「監督指導結果等」)/国土交通省「建設業法違反の情報提供窓口(駆け込みホットライン)」および報道発表「『駆け込みホットライン』(建設業法違反通報窓口)の機能を拡充しました!」(令和7年12月15日)/e-Gov 法令検索(建設業法、建設業法施行規則、労働基準法、最低賃金法。いずれも2026年8月22日確認)


