一人親方が「安いだけの仕事」を断るときの伝え方|2026年に国が公表した労務費の基準値を材料にする

「今回だけ、この単価でお願いできない?」と電話で言われる。断りたいけれど、断る理由が「安いから」しかない。それだと相手も引けず、結局こちらが折れる——この形を何度か経験している人は多いと思います。

結論からお伝えすると、断るときに要るのは強気の口調ではなく、条件の違いを説明できる材料です。その材料が、2026年に国のサイトで誰でも見られる形になりました。話を「安い・高い」から「条件が違う」に移すために使えます。

労務費の基準値に書いてある内容。埼玉県の壁装クロスは張る手間の賃金だけで1平米870円、日当たり40平米、材料費や剥がしは含まないこと、官庁施設の新築想定であることを示した図

2026年に何が変わったのか

改正建設業法(令和6年法律第49号)にもとづき、中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を令和7年12月2日に決定し、実施を勧告しました。国土交通省は職種分野ごとに「基準値」を公表しており、令和7年12月時点で13職種分野99工種。運用方針は2026年6月29日に改正されています(2026年8月11日時点)。

基準値は「労務費に関する基準ポータルサイト」で、都道府県別・職種別に1枚ずつのPDFとして公開されています。自分の職種と自分の県を選べば見られます。

実際にどんな数字が載っているのか

例として、埼玉県の内装工事「壁装(クロス)=壁紙張り」のPDFを開くと、次のように書かれています。

  • 労務費の基準値:870円/㎡
  • 内訳:内装工の歩掛 0.025人日/㎡ × 設計労務単価 34,800円/人日
  • 日当たり作業量(参考値):40.00㎡/人日
  • 条件:施工部位は壁、壁紙はプラスチック程度、素地ごしらえ(パテ)は除く、場内小運搬は含む
  • 想定:官庁施設(事務庁舎など)の新築建築工事

この基準値には法定福利費の事業主負担分や安全管理費などが含まれていないため、PDFにはそれを48%として加算した参考値1,288円/㎡も併記されています(利益や本社経費は含まれません)。

870円は「クロス張替えの工事単価」ではない

870円は、職人に渡る賃金の原資だけの額です。張替え工事の見積金額とは比べる層が違います。入っていないものを並べます。

  • 材料費(クロス本体・糊)
  • 既存クロスの剥がしと廃材処分
  • パテ(素地ごしらえ)。PDFに「除く」と明記されています
  • 法定福利費・安全管理費など(48%を加えた参考値が1,288円/㎡)
  • 諸経費・運搬費・一般管理費・利益
  • 時間外・休日・深夜の割増賃金

870円は「下地ができた新築の壁に、クロスを張る手間の賃金」だけを切り出した数字です。近年上がっている張替え工事の金額と並べて高い・安いを論じても意味がありません。

もうひとつ、公共工事の新築には「剥がす作業」がありません。ここも基準値が低めに出る理由のひとつです。

むしろ効いてくるのは、金額ではなく歩掛のほう

基準値が前提にしているのは1人1日40㎡、新築の下地に直接張っていく速さです。原状回復はここにめくり・下地処理・シーラー——剥がして、整えて、くっつきやすくする——の3工程が丸ごと加わります。同じ40㎡では回りません。

そして運用方針では、歩掛が悪くなる工事は基準より高い労務費が適正とされています。原状回復は基準値を下回る側ではなく、上回る側にある工事だという読み方になります。

「小さい仕事は安くて当たり前」は、実は逆に書かれている

ここがいちばん知られていない点だと思います。国土交通省の運用方針には、こう書かれています。

小ロット工事など、基準が想定する施工条件よりも歩掛が悪くなる工事では、基準よりも高い労務費が適正となる。このため、受注者は、施工条件を踏まえ、労務費を基準より高く見積もる必要がある。

1部屋だけ、1面だけ、階段の上げ下ろしがある——こうした条件は歩掛が悪くなる側です。量が少ないから安く、ではなく、量が少ないから1㎡あたりは高くなるのが本来の形だと明記されています。

逆に、機械の導入などで実際に効率が上がっているなら、基準より低く見積もっても差し支えないとされています。ただし「実際にその歩掛で施工できる理由」を説明できることが必要で、根拠なく歩掛を割り引いた見積りは建設業法違反となるおそれがある、とも書かれています。

許可を持っていない一人親方には、関係のない話なのか

運用方針では、許可不要の範囲で建設業を営む者について、見積書作成の努力義務や著しく低い労務費による見積りの禁止といった今回新設された規制が直接には適用されないと説明されています。

ただし同じ箇所に、注文者側からの原価割れ契約の禁止(建設業法第19条の3第1項)や、必要な指導・助言・勧告に関する規定(同法第41条第1項)はすべての建設業を営む者に適用されるとも書かれています。そして、「こうした許可不要の小規模事業者こそ、本基準を活用して適正な施工に要する労務費を確保することが必要」とはっきり述べられています。

つまり、義務を負う側というより、使ってよい道具が増えた側という読み方になります。

小ロットの仕事の単価について、よくある思い込みと国の運用方針の書き方を左右で比べた図

断るときに、どう言い換えるか

  1. 金額の話をいったん外す。「安いので」ではなく「この条件だと1日で回る量が変わります」から入る
  2. 条件を1つだけ挙げる。物量・階数・搬入経路・素地の状態のうち、いちばん効いているものを1つ
  3. 数字は自分の現場のもので出す。基準値は考え方の裏づけであって、そのまま貼る数字ではありません
  4. 受けられる形も一緒に出す。「この金額なら、範囲をここまでにさせてください」まで言えると、断りではなく交渉になります

単価の伝え方は単価交渉の言い方、手間請けの決まり方は手間請けの単価はどう決まるか、原状回復の水準は原状回復工事の単価相場、材料費が動いたときは材料費の値上がり分を単価に乗せる伝え方を参照してください。

なお、個別の取引が建設業法に照らしてどうかの判断は、行政が行うものです。一般的な考え方は上のとおりですが、実際に困っている取引がある場合は、国土交通省の各地方整備局や都道府県の建設業担当課、中小企業庁の「下請かけこみ寺」など公的な窓口に相談してください。

同じ職種の人がどう伝えているかは、実例を聞くのがいちばん早いです。相談・雑談のフォーラムで聞いてみてください。

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