一人親方の現場で元請けの担当者が代わったら|前の人と決めた話が消えるのは、書面にしていない分だけです
結論からお伝えすると、元請けの担当者が代わっても、契約そのものは消えません。契約を結んでいる相手は担当者個人ではなく会社だからです。消えるのは、前の担当者と口で決めて書面にしていない分だけ。だから代わった日にやることは3つで、どれも紙かメールで終わります。
「今日から自分が見ます」と言われた朝に
現場に着くと、知らない顔が立っている。名刺を出されて「今日から自分が見ます」。前の担当者は今月から別の現場だという。
頭に浮かぶのは先週の話です。廊下の入隅を追加で直す件を、前の担当者と現場で決めた。金額も口で言った。注文書はまだ来ていない。この分はどうなるのか。

担当が代わると、前の話は消えるのか?
民法99条1項は、代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる、と定めています。現場の担当者は会社の代理人です。担当者が決めたことは、権限の中であれば会社が決めたことになります。
だから人が代わっても、会社との契約はそのまま続きます。工期も金額も引き継がれます。問題になるのは、契約書や注文書に書いていない部分だけです。そこは新しい担当者の頭の中に存在しないので、伝わっていなければ無かったことになります。
監督員を置くなら、元請けには書面で知らせる義務がある
建設業法19条の2第2項に、こう書かれています。
注文者は、請負契約の履行に関し工事現場に監督員を置く場合においては、当該監督員の権限に関する事項及び当該監督員の行為についての請負人の注文者に対する意見の申出の方法を、書面により請負人に通知しなければならない。
中身は2つです。どこまで決められる人なのか(権限に関する事項)と、その人のやり方に意見があるときはどこへ言えばいいのか(意見の申出の方法)。後者は、担当者と話が合わないときに上へ上げる道筋のことです。
同条4項で、この通知は書面に代えて電子的な方法でもできると定められています。ただし請負人の承諾を得ること、政令で定めるところによること、国土交通省令で定める方法であることが条件です。メールで受け取っても構いませんが、こちらが承諾した形になっている必要があります。
前の担当の指示で動いた分は、誰が持つのか
ここで効くのが民法112条1項です。他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う、とされています。ただし書きで、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでないと続きます。
現場の言葉に直すと、こうなります。担当が外れたことを知らされていないうちに、前の担当者の指示で動いた分は、会社に効く余地がある。けれども「知らされていたのに気づいていなかった」ときは、こちらの落ち度になります。
だから、いつ誰から何を聞いたかを日付で残しておく意味があります。引き継ぎの連絡が来ていないなら、そのこと自体が記録になります。
新しい担当が、権限の外で足してきたとき
逆の場面もあります。新しい担当者が「ついでにここもお願いします」と口で足してくる。ところがその人には金額を動かす決裁がなかった。
民法110条は、代理人がその権限外の行為をした場合に、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて、109条1項本文を準用すると定めています。正当な理由があるときに限り、という条件つきです。そこを争うことになると、話は長くなります。
先に権限を聞いておく意味はここにあります。そして金額が動く話は、建設業法19条2項の出番です。請負契約の当事者は、契約の内容で同条1項に掲げる事項に該当するものを変更するときは、その変更の内容を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付しなければならない、と定められています。追加工事も工期の延長も、この書面で残ります。やりとりをどこに残すかはLINEで受ける仕事にまとめました。
自分の側にも、同じ義務がある
19条の2は第1項が請負人の側の義務です。請負人は、請負契約の履行に関し工事現場に現場代理人を置く場合においては、その権限に関する事項と、現場代理人の行為についての注文者の意見の申出の方法を、書面により注文者に通知しなければならない。
一人で入っているうちは関係ありませんが、人を増やして現場を任せるようになったら、こちらから出す番です。相手にだけ求める話ではありません。

都合の悪いことも書いておきます
- 19条の2は「監督員を置く場合」の通知義務です。担当者が代わるたびに出し直せ、とまでは条文に書かれていません。ただし権限の中身は人によって変わるので、書面を求める根拠にはなります。
- 民法112条は「知らなかった第三者」を守る条文です。引き継ぎの連絡が来ていたなら使えません。読んでいなかった、では通りません。
- 表見代理は最後の手段です。110条も112条も、最終的には裁判所が判断する話になります。日常の解決は、書面をもらうこと。こじれたら建設工事紛争審査会や弁護士に相談することです。
- 引き継ぎは相手の社内事情でもあります。責める言い方をすると、代わったばかりの人と最初から角が立ちます。「監督員の書面は、どなた宛にお出しすればよいですか」と、こちらの手続きの形で聞くほうが早く進みます。
まとめ|代わった日にやる3つ
- どこまで決められる人かを聞く。19条の2第2項の書面は、そのために置かれています
- 口で決めた分を、金額と工期つきで出す。変更の書面をもらえば、次に人が代わっても残ります
- いつ誰から聞いたかを日付で残す。知らされていなかった、という事実も記録です
元請けそのものを変えるときの整理は元請けを変えるときの引き継ぎに、初めて組む相手をどこまで確かめるかははじめての元請けと組む前に確認する5つに書きました。実際にどう切り出したかは相談・雑談の掲示板にも集まっています。
(出典:建設業法19条・19条の2、民法99条・110条・112条。いずれもe-Gov法令検索の現行条文、2026年9月18日時点)


