一人親方が片道2時間の現場を受けるとき|距離で効いてくるのは単価より、運送と運転の2つの条文です
「来月から3現場。場所は少し遠いけど、単価はいつもと同じで」。地図で見たら片道82キロ、下道で2時間20分。高速を使えば1時間半だが、料金は自腹になりそうな空気だった——遠方の話は、たいてい単価の話として始まります。
結論からお伝えすると、遠い現場で最初に効いてくるのは単価ではありません。1日に売れる時間が減ることと、距離が延びた先で当たる2つの法律です。順番を間違えると、値段の交渉に勝っても手取りが減ります。

距離が延びると、減るのは単価ではなく「売れる時間」
片道30分の現場と片道2時間の現場を、同じ8時から17時で組んだときの差を並べます。
- 片道30分:家を出るのが7時30分、帰宅18時。拘束10時間30分で作業8時間。1時間あたりの拘束で見ると、作業の割合は約76%
- 片道2時間:家を出るのが6時、帰宅20時。拘束14時間で作業8時間。割合は約57%
日当が同じなら、拘束1時間あたりの実入りは約25%落ちます。さらに燃料と高速代が実費で出ていきます。単価を1割上げてもらっても、この目減りは埋まりません。先に決めるのは「何時に出て何時に帰るか」で、金額はそのあとです。
だから遠方の交渉では、単価ではなく次の3つを分けて出すほうが通ります。距離に応じた実費(燃料・高速)、現場までの往復にかかる時間、そして宿泊するかどうか。まとめて「遠いので高いです」と言うと、根拠のない値上げに聞こえます。
国の単価にも、現場までの往復旅費は入っていない
ここは交渉の材料になります。国土交通省が2026年2月17日に公表した「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」は、単価に含まれないものをはっきり書いています。
- 時間外、休日及び深夜の労働についての割増賃金
- 各職種の通常の作業条件又は作業内容を超えた労働に対する手当
- 現場管理費(法定福利費の事業主負担分、研修訓練等に要する費用等)及び一般管理費等の諸経費
同じ資料の冒頭には「公共工事設計労務単価には、事業主が負担すべき人件費(必要経費分)は含まれていません。よって、下請代金に必要経費分を計上しない、又は下請代金から値引くことは不当行為です」とあります。
単価そのものも動いています。令和8年3月から適用の単価は全国全職種単純平均で前年度比4.5%の引き上げ、加重平均値は25,834円となり、平成25年度の改定から14年連続の上昇で、初めて25,000円を超えました。移動にかかる分は、もともと単価の外側にあるものだ——この一文が言えるだけで、話の置き場所が変わります。(出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」令和8年2月17日)
見積書でどう分けるかは一人親方の見積書の書き方に手順を書きました。
「ついでに材料も積んできて。運搬費は出すから」に線がある
遠方でいちばん頼まれるのがこれです。自分が施工する工事の材料を自分の車で運ぶのは、誰の需要にも応じていないので問題ありません。線が動くのは、運搬そのものを別に請けて、その対価を受け取るときです。
貨物自動車運送事業法2条2項は、一般貨物自動車運送事業を「他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して貨物を運送する事業」と定義しています。同条4項は、三輪以上の軽自動車と二輪の自動車を使うものを貨物軽自動車運送事業としています。
- 普通車・バンで運ぶ側:3条で国土交通大臣の許可が必要。無許可で経営すると70条1号により3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科
- 軽トラ・軽バンで運ぶ側:36条1項で届出。許可ではありません
ポイントは「事業」といえるかどうかで、1回きりの手伝いが直ちに該当するわけではありません。それでも「運搬費」という名目で継続的に金額が立ち始めたら、それは工事の話ではなく運送の話になっています。請求書の項目を「材料運搬」と切り出す前に、工事一式の中に含めて出すほうが、実務上は素直です。
判断に迷うものは、地方運輸局か行政書士に確認してください。ここは業として行うかどうかの評価が入る領域です。

帰りの運転は、誰の責任になるのか?
往復5時間の現場を3日続けたあとの帰り道。道路交通法66条はこう書いています。「何人も、前条第1項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない」。
罰則は117条の2の2第1項7号で、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。酒気帯び運転と同じ条に並んでいます。
そしてもう1つ。応援を自分の車に乗せて行くなら、あなたはその車の「使用者」です。75条1項は、使用者等が運転者に対して同項各号の行為を命じたり容認したりしてはならないと定めていて、4号が66条違反の運転です。2項では、公安委員会が使用者に対し6か月を超えない範囲で自動車の使用制限を命じられるとしています。「疲れているだろうけど運転して帰って」は、下命または容認にあたり得ます。
元請けの指示で断りにくい場面ですが、免許が止まるのはあなたで、車が使えなくなるのもあなたです。遠方を受けるなら、帰りの運転手を替えるか、1泊を見積りに入れるか、どちらかを先に決めてください。車の区分そのものについては未経験が確かめる職人の車の免許にまとめています。
都合の悪いことも書いておきます
遠方の仕事は、単価が良くても割に合わないことがあります。とくに1日仕事の単発は、移動の比率が最悪になります。受けるなら、同じエリアで複数日まとめる、近くの別件と抱き合わせる、宿泊にして往復を1回に減らす。この3つのどれかが立たない遠方は、断る側に置いていいと考えています。
逆に、遠方だからこそ続くケースもあります。そのエリアに入れる職人が少ないときです。物件を遠くから見ている側の事情は遠方の物件をどう管理するかに書かれています。
まとめ|遠方を受ける前に決める4つ
- 出発時刻と帰宅時刻を先に決める。作業時間ではなく拘束時間で見る
- 燃料・高速代を実費で分けて出す。単価に溶かさない
- 運搬を別に請けない。頼まれたら工事に含めるか、事業として届出・許可の要否を確認する
- 帰りの運転をどうするかを、受ける前に決める
遠方の条件を出すときの言い方で迷っているなら、仕事を探している職人の掲示板で聞いてみてください。同じエリアを走っている人がいます。


