一人親方の見積書の書き方|「一式」を材料費・労務費・必要経費に分ける手順
「見積、出しといて」と言われて、A4の紙に1行だけ書く。「内装工事一式 ◯◯円」。それで通ってきたし、細かく書くと値切られる材料を渡すだけだと思っている——独立して数年の職人から、いちばんよく聞く話です。
結論からお伝えすると、2025年12月12日に建設業法20条が変わり、材料費・労務費・必要経費を内訳明示した見積書を作ることが努力義務になりました。ただし、許可不要の範囲で仕事をしている一人親方は、この努力義務の直接の対象ではありません。それでも書き方を覚えておいたほうがいい理由があります。義務の話と、実務で得をする話を分けて説明します。

何が変わったのか|「材料費等記載見積書」という名前が付いた
現在の建設業法20条1項は、建設業者に対して、工事内容に応じて次のものを記載した見積書を作成するよう努めなければならないと定めています。
- 工事の種別ごとの材料費
- 工事の種別ごとの労務費
- 適正な施工を確保するために不可欠な経費として国土交通省令で定めるもの
- その他、施工のために必要な経費の内訳
- 工事の工程ごとの作業および、その準備に必要な日数
この見積書を条文は「材料費等記載見積書」と呼びます。3つめの「不可欠な経費」の中身は建設業法施行規則13条の12に3つ書かれていて、①法定福利費(健康保険料等の事業主負担額)②安全衛生経費 ③建設業退職金共済契約に係る掛金です。
さらに20条2項は、記載する材料費等の額が「通常必要と認められる額を著しく下回るものであってはならない」と定め、6項は注文者の側に対して、著しく下回ることになるような変更を求めてはならないと定めています。安く書き直せという依頼そのものが、条文で禁じられている場面があるということです。(出典:建設業法・建設業法施行規則/e-Gov法令検索・2026年8月25日時点。20条1項・2項・6項・7項の施行日は2025年12月12日)

許可を持っていない一人親方も、この義務の対象なのか?
ここは誤解が広がりやすいところです。国土交通省が令和7年12月に公表した「労務費に関する基準」の運用方針は、方針23で正面から答えています。
許可不要の範囲で建設業を営む者は、処遇改善の努力義務(建設業法25条の27第2項)、見積書作成の努力義務(20条1項)、著しく低い労務費等による見積りの禁止(20条2項)、注文者による見積り変更依頼の禁止(20条6項)といった今回の規制の「直接的な適用を受けるものではない」——そう書かれています。
ただし、同じ方針にはこう続きます。「こうした許可不要の小規模事業者こそ、本基準を活用して適正な施工に要する労務費を確保することが必要であり……許可業者と同様に適正契約・材工分離の見積りの実施に努めることが期待される」。
そして、注文者側からの総価での原価割れ契約の禁止(建設業法19条の3第1項)と、適正な施工の確保のために必要な指導・助言・勧告(41条1項)は、建設業を営むすべての者に適用されるとも明記されています。「許可がないから関係ない」は、半分しか当たっていません。
労務費に入るもの・入らないもの
運用方針の方針5は、労務費に含める「賃金相当分の額」の中身を、公共工事設計労務単価の考え方に準拠するとして4つ挙げています。
- 基本給相当額(基本給、出来高給)
- 各職種の通常の作業条件・作業内容の労働に対する手当(家族手当、通勤手当、地域手当、住宅手当、現場手当、技能手当、精勤手当等)
- 実物給与(通勤用定期、食事の支給)
- 臨時の給与(賞与、臨時の賃金、退職金)
そして、時間外・休日・深夜の各割増賃金、突貫手当、赴任手当は「含まれない」と書かれています。ここが実務で効きます。夜間や休日に入れと言われた工事で、労務費だけを積んで出すと、割増分を自腹で飲むことになります。別立てで見積もる根拠が、この一文です。
8時間で終わらない日は、どう書けばいいか
運用方針は、通常必要と認められる労務費を「適切な職種の公共工事設計労務単価 × 施工条件等に照らして適切な歩掛 × 必要な数量」の式で位置づけています。
公共工事設計労務単価は1日8時間の労働を前提とした単価です。そのため方針7は、8時間を上回る、または下回る時間数での作業が見込まれる場合は、労務単価と歩掛を「日(8時間)あたり」から「1時間あたり」の値に直したうえで、必要と見込まれる1日あたりの作業時間を踏まえて計算することが必要だとしています。8時間を超える前提なら、時間外手当を別途見積もることにも触れられています。
「半日入って、残りは別現場」という日が多い職種ほど、この割り戻しをしないまま日額で出すと合いません。
猛暑日が続いた月の見積りは、歩掛を触っていい
方針12は、見積り時点で工期中の作業日に猛暑日など、作業効率に影響を与えうる事象の発生が見込まれる場合、その影響を踏まえて計算した歩掛で見積書を作成し、見積条件とともに注文者に提示することなどが必要だとしています。基準値に使われている歩掛は平均的な作業条件を想定したものなので、必要に応じて補正したうえで見積もる、という考え方です。
「暑いから遅くなった」を後から言うのではなく、見積条件として先に紙に書く。これが条文と方針の求めている順番です。
お得意さんだから安くする、は許されるのか
方針17は、特定の発注者との関係づくりや閑散期の受注を目的として総価として通常より安価な契約をすること自体は否定していません。ただし請負代金の総価は、原則として建設業法19条の3の「通常必要と認められる原価」以上である必要があるとし、「このような値引きの原資は受注者の利潤相当額の範囲から充てられる必要があり、下請先に対しては、あくまで材料費、労務費等について適正に支払うことが必要」としています。
値引きは自分の利益から出す。応援に入ってもらう職人の手間から削るのは別の話。方針はそう整理しています。
見積りには何日もらえるのか|条文番号がずれている点に注意
注文者は、契約締結または入札までに、建設業者が見積りをするために必要な期間を設けなければなりません(建設業法20条3項)。その日数は建設業法施行令5条の9に決まっています。
- 予定価格が500万円未満……1日以上
- 予定価格が500万円以上5,000万円未満……10日以上
- 予定価格が5,000万円以上……15日以上
やむを得ない事情があるときは、2号と3号の期間だけ5日以内に限り短縮できます。
ひとつ注意点があります。運用方針(令和7年12月)は、この見積期間の根拠を「建設業法第20条第4項」「建設業法施行令第6条」と書いていますが、2026年8月25日時点のe-Gov法令検索で確認すると、現行では20条3項・施行令5条の9です。資料の内容が誤っているのではなく、条ずれが起きています。原典に当たるときに迷わないよう、両方の番号を控えておいてください。
都合の悪いことも書いておきます
歩掛まで開示しなければならない、という話ではありません。方針21は、労務単価と歩掛の階層まで内訳明示することが「望ましい」としつつ、材料費等記載見積書の作成はあくまで努力義務であり、一律に歩掛の開示を求める趣旨ではないと明記しています。歩掛が自分にとって秘匿性の高い情報で、適正な労務費の確保に支障がない場合などは、精度を調整することも許容されるとされています。
ただし同じ段落に、19条の3または20条2項違反の疑いが生じた場合は、労務費が「労務単価×歩掛」の計算において妥当であることを説明できる必要があると書かれています。出さなくてよいことと、計算していなくてよいことは別です。
なお、当初見積書と最終見積書を引渡しから10年間保存する義務(建設業法40条の3、施行規則26条5項・28条2項)は、契約当事者である建設業者にかかるものです。許可を受けていない一人親方に、この保存義務が直接かかるわけではありません。それでも、単価の根拠を聞かれるのは数年後です。控えは残しておいたほうが自分を守ります。
まとめ|今日から変えられるのは3行
- 「一式」の1行を、材料費/労務費/必要経費の3行に割る
- 労務費は単価×歩掛×数量で出す。8時間前提から外れる日は時間あたりに割り戻す
- 割増賃金・猛暑の歩掛補正・法定福利費は、労務費の中に埋めず別の行にする
見積りを出す前に決めておく条件(手間請けか材工か、めくり、下地処理、ゴミ処理)は一人親方が見積もりを出す前に決める4つに、安い仕事の断り方は「安いだけの仕事」を断るときの伝え方にまとめています。
受け取る側が見積書のどこを見ているかを知りたい人は、原状回復の見積書は「一式」の行から見るを読んでみてください。発注する側は「一式」を崩す質問を用意しています。先に割って出せば、その質問は来ません。
自分の職種でどこまで割って書いているか、実際のところを相談・雑談のフォーラムで聞いてみてください。


