未経験から多能工という入り方|日当は4万円、ただし触れない工事がある
結論からお伝えすると、複数の工種をこなせる多能工になると、応援で入るときの日当は1日25,000円程度から40,000円、またはそれ以上に変わります。ただし「多能工だから何でもやる」は通りません。電気と給排水には、資格や指定がなければ手を出せない線が法律で引かれています。増やしていい工種と、免状を取るまで触れない工種を、最初に分けておく必要があります。
クロスを貼り終えた部屋で、コンセントのプレートが1枚外れたままになっている。はめ直すだけなら10秒です。ここで手を出していいのかどうか、その場で判断できる見習いは多くありません。多能工という入り方は、この「どこまでが自分の仕事か」を、感覚ではなく条文で持っている人のことです。

人手不足だから、どの職種でも引く手あまたなのか
そうとは限りません。国土交通省が2026年7月27日に公表した「建設労働需給調査結果(令和8年6月調査)」では、8職種を合わせた過不足率は1.0%の不足でした。前月(5月)の1.2%の不足から0.2ポイント、前年同月の1.1%の不足から0.1ポイント、いずれも不足の幅が縮んでいます。
職種別に見ると、向きがそろっていません。
- 配管工 2.7%の不足
- 型わく工(建築) 2.1%の不足
- 左官 1.3%の不足
- 鉄筋工(土木) 0.9%の不足
- とび工 0.7%の不足
- 電工 0.5%の不足
- 型わく工(土木) 0.3%の不足
- 鉄筋工(建築) 1.9%の過剰
鉄筋工(建築)だけは不足ではなく過剰です。とび工も前年同月は3.6%の不足でしたが、今回は0.7%まで縮みました。地域別では関東が1.3%の不足、北陸は0.9%の過剰、沖縄はほぼ均衡です。「建設業は人手不足だから、どこに入っても食える」という言い方は、数字を見るかぎり職種と地域でかなり事情が違います。
ここで大事な注意がひとつあります。この調査の8職種に、内装・大工・塗装は入っていません。 調べているのは型わく工(土木・建築)、左官、とび工、鉄筋工(土木・建築)、電工、配管工の8つだけです。クロスや床、造作、塗装で食べている人は、そもそもこの数字に数えられていません。「1.0%の不足」を自分の職種の話として読まないでください。
なお、この調査は令和8年6月10日から20日までのうちの1日を対象日として調べたものです。報道で見かける「配管工7.8%」のような大きい数字は、いま働いている人の過不足ではなく新規募集の過不足率という別の指標です。同じ調査の中でも、どちらの数字かで印象がまるで変わります。
1職種に絞る選び方は、その職種の波をそのまま受けます。工種を2つ3つ持つというのは、この波に対して自分で逃げ場を作る入り方です。
多能工の日当はどれくらい変わるのか
他社の現場に応援で入るとき、ひととおり任せられる職人で1日25,000円程度が標準です。複数の工種をこなせる多能工なら1日40,000円、またはそれ以上になります。
発注する側から見ると、高く出す理由ははっきりしています。
- 1人で複数の工種をこなすので、何社も手配しなくて済む
- 職人と職人のあいだの段取り待ちが消えるので、工期が縮む
- 小さい現場ほど効く。1部屋の原状回復に3社を呼び分ける手間がなくなる
金額だけを見ると「腕が1.6倍になった」ように見えますが、そうではありません。買われているのは手配と待ち時間です。だから多能工は、規模の大きい新築より、1部屋単位で動く原状回復のほうが値が付きます。単価の考え方そのものは応援に入るときの単価の決め方で整理しています。
資格がないと触れない工事がある
多能工の入り口でいちばん危ないのがここです。しかも電気と給排水では、法律の効かせ方が違います。
電気は、無資格の作業そのものに罰則がある
電気工事士法は第3条第2項で、第一種または第二種電気工事士の免状の交付を受けている者でなければ、一般用電気工作物等に係る電気工事の作業に従事してはならないと定めています。違反したときの罰則は同法第14条で、3月以下の拘禁刑または3万円以下の罰金です。ネット上には「懲役」と書かれた解説が残っていますが、現行の条文は拘禁刑です。
一方で、資格がなくてもできる作業も条文で決まっています。電気工事士法施行令第1条が「軽微な工事」として挙げているのは、次のようなものです。
- 600ボルト以下で使う差込み接続器、ねじ込み接続器、ソケット、ローゼット、ナイフスイッチ、スナップスイッチなどにコードやキャブタイヤケーブルを接続する工事
- 600ボルト以下で使う電気機器や蓄電池の端子に、電線をねじ止めする工事
- 600ボルト以下で使う電力量計、電流制限器、ヒューズを取り付け、または取り外す工事
- 電鈴、インターホン、火災感知器、豆電球などに使う小型変圧器(二次電圧36ボルト以下)の二次側の配線工事
- 電線を支持する柱、腕木などを設置し、または変更する工事
- 地中電線用の暗渠や管を設置し、または変更する工事
冒頭のコンセントプレートは、カバーを戻すだけなのか、器具や配線に触れるのかで話がまったく変わります。迷ったら手を出さず、電気屋に回す。これは遠慮ではなく、条文で引かれた線です。
給排水は、罰則ではなく「給水を止められる」形で効く
給水装置の工事は仕組みが違います。水道法第16条の2は、水道事業者(市町村の水道局など)が給水区域内で指定給水装置工事事業者を指定できると定め、その指定を受けた者が施行した工事であることを給水の条件にできるとしています。条件を満たさないときは、給水契約の申込みを拒んだり、給水を停止したりできます。ただし、国土交通省令で定める給水装置の軽微な変更のときはこの限りではない、という例外も同じ条にあります。
指定を受けるには、事業所ごとに給水装置工事主任技術者を置くことなどが必要です(同法第25条の3)。つまり給排水は「無資格でやったら即罰金」ではなく、指定を取っていない人がやると、その物件の水が止まりうるという効き方をします。大家さんや管理会社にとっては、こちらのほうが怖い話です。
どこからが「軽微な変更」に当たるかは工事の中身で変わります。判断に迷うときは、作業前に発注元と所管の水道局へ確認してください。

どの順番で工種を増やすか
考え方はひとつです。資格が要らないものから広げ、資格が要るものは免状を取ってから入る。
- いまの職種を1年やり切る。 軸がないまま広げると、どれも半端で止まります
- となりの工程へ手を伸ばす。 クロスなら床(クッションフロア・フロアタイル)、床ならクロス。原状回復では同じ部屋で連続する工程です
- 資格の要らない周辺を拾う。 解体・撤去、養生、クリーニング、建具の調整、コーキング
- 資格の要る工種は、免状を取ってから入る。 受験資格や試験日程は年によって変わるので、試験を実施する団体の公式ページで確認します
どの職種を軸にするかで迷っている段階なら、先に未経験からどの職種を選ぶか|内装・電気・設備の違いと決め方を読んでから戻ってきてください。順番が逆になると、増やす先を選べません。
未経験からいきなり多能工を目指していいのか
おすすめしません。理由は単価の決まり方にあります。多能工の日当が高いのは「複数できるから」ではなく「複数を任せられるから」です。1工種でも任せられない段階で工種だけ増やすと、どの現場でも指示が要る人になり、単価は上がりません。
先に、人に聞かずに1日回せる工種を1つ作る。それから2つ目に手を伸ばす。遠回りに見えて、この順番のほうが早く4万円に届きます。
自分の地域で、どの工種を組み合わせている人が多いのかは、現場に立っている人に聞くのがいちばん早いです。職人になりたい人の掲示板でも、入り方の相談は続いています。
まとめ
- 8職種の過不足率は1.0%の不足。鉄筋工(建築)は1.9%の過剰で、職種ごとに向きが違う
- 応援の日当は標準で1日25,000円程度、多能工は40,000円以上。買われているのは手配と待ち時間
- 電気は無資格の作業そのものに罰則(3月以下の拘禁刑または3万円以下の罰金)
- 給排水は指定事業者でないと給水を止められるという形で効く
- 増やす順番は、軸を1つ作る→となりの工程→資格の要らない周辺→免状を取ってから資格の要る工種
※本記事は2026年8月16日時点の情報です。出典:国土交通省「建設労働需給調査結果(令和8年6月調査)」(令和8年7月27日公表)、e-Gov法令検索(電気工事士法、電気工事士法施行令、水道法)。資格や指定の要否は個別の工事内容で変わります。判断に迷うときは、発注元および所管の官公庁へご確認ください。


