大工の単価が上がらない理由と、上げるための材料

結論からお伝えすると、大工の単価が上がらない理由は交渉が弱いからではありません。上げてもらう根拠になる記録が手元にないからです。相手は上げたくないのではなく、上げる理由を社内で説明できないだけという場面がかなりあります。用意するものは4つ、①数量の実績、②施工品質の記録、③工程を守った履歴、④他の現場での単価水準です。

値上げの話は、気持ちを伝える場ではなく、材料を渡す場です。ここを取り違えると、単価も現場も同時に失うことになります。

先に、言い方だけで動いた失敗

材料も燃料も上がっている、この単価ではやれない。そう正面から伝えて、翌月から声がかからなくなった。よく聞く流れです。何が起きていたかというと、こういうことです。

  • 担当者は上げる権限を持っておらず、上司に上げる材料もなかったので話が止まった
  • 「他はもっと出す」と言ったが、どの職種のどの作業か示せず、比較として扱われなかった
  • 忙しい時期に切り出したため、代わりの職人を探す理由にされてしまった
  • 手直しの再訪が年に4回あった事実を相手が把握していて、逆の材料になった

単価は感情では動きません。動くのは、相手が社内で使える数字が出てきたときです。

上がらない構造を先に押さえる

上がらない理由相手側の事情効く材料
元請けからの受注金額が動いていない下に回す原資がない数量・日数の実績(同じ日数で多く納める根拠)
担当者に決裁権がない上に説明する資料がない紙1枚にまとめた実績表
代わりがいると思われている手配のリスクを感じていない工程を守った履歴・手直しの少なさ
そもそも金額を把握されていない単価表を何年も見直していない他現場での単価水準(職種と作業を特定して)

4つのうち、自分で動かせるのは右の列だけです。左と中央は相手の事情なので、そこを責めても1円も動きません。

用意する4つの材料と、その取り方

材料何を記録するかなぜ効くか
数量の実績現場ごとの施工数量と要した日数。1日あたりに直した数字同じ金額で多く納めている事実が、単価を上げても総額が合う根拠になる
施工品質の記録手直しの件数と原因。是正までにかかった日数。完了写真手直しゼロは元請けの人件費を減らしている。金額に換算できる
工程を守った履歴着手日と完了日、遅延の有無。遅延があれば理由も残す入居日・引き渡し日を守れる相手は替えがきかない
他の現場での単価職種・作業名・地域・数量を特定した単価。含む範囲も併記市場の水準として扱える。会社名を出さなくても成立する

記録は毎日の日報で足ります。現場名、作業、数量、着手と完了の時刻、手直しの有無。5項目を1行で書くだけです。1日1分、年間240日で240行。この240行が、そのまま交渉の材料になります。

単価を上げるのに一番効くのは交渉の言い方ではなく、去年1年分の日報です。言い方を磨いても記録がなければ話は止まりますが、記録があれば言い方は下手でも通ります。

記録があると、話はどう変わるのか?

「単価を上げてほしい」ではなく、「この1年、12現場で手直しは1件、工程の遅れは0回でした。1日あたりの施工数量は前年より2割増えています。人工換算で1,000円上げていただけないでしょうか」になります。担当者はこの文章をそのまま上に持っていけます。

金額の作り方も具体にします。人工単価を1,000円上げれば、年間240日で24万円です。相手にとっては、職人を1人探し直す手間より安い金額かもしれません。数量単価なら、㎡あたり30円の改定が年間で何万円になるかを自分で計算して示します。相手に計算させないことが大事です。

切り出す時期も選びます。繁忙期の真っただ中ではなく、期の変わり目や単価表の改定時期に合わせると、社内の手続きに乗せやすくなります。

それでも上がらない相手はいる

ここは正直に書きます。材料を揃えても動かない相手はいます。元請けからの受注そのものが薄い会社、単価を下げることで受注を取っている会社です。この場合、材料を増やしても結果は変わりません。判断の目安は、話を出してから2か月で回答が出るかどうか。出ないなら、その会社の比率を年間で少しずつ下げていく以外にありません。

1社に8割を預けていると、この判断ができなくなります。取引先を分けておくこと自体が、単価を上げる材料の一つです。仕事の入り口を増やす考え方は急に人手が足りないとき、応援職人を最短で見つける方法でも触れています。

今日からできることは一つです。今夜、今日の現場を1行書く。それを1年続けた人だけが、来年の単価の話を有利に進められます。

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