未経験で高所が苦手な人に向く職種|法律の「高所」は2メートルから

脚立の4段目に足をかけたところで、体が止まる。下から「まだ天井まで20センチ足りないよ」と声がかかる。高いところが苦手な人が現場で最初にぶつかるのは、屋根でも足場でもなく、この脚立の数段です。

結論からお伝えすると、高所がまったくない職種はありません。法律が「高所」として扱い始めるのは高さ2メートルで、脚立なら3段目から4段目で届いてしまう高さです。選べるのは「高所があるかないか」ではなく、毎日足場に上がるか、脚立で足りる作業が中心かという違いのほうです。この記事では、法律がどこに線を引いているか、職種ごとに高さがどう出るか、そして苦手なまま続けている人が現場で何をしているかを、条文と国の統計で確かめながら並べます。

労働安全衛生規則が高所として線を引く数字の一覧。2メートル以上で作業床、端と開口部は囲いか手すり、1.5メートル超は昇降設備、作業床が無ければ防網か墜落制止用器具、命じられた器具の使用は働く側の義務。

法律が「高所」と呼び始めるのは2メートルから

労働安全衛生規則には、高さの数字が3つ出てきます。いずれも現行条文(e-Gov 法令検索・2026年8月22日確認)の文言です。

  • 高さ2メートル以上で墜落のおそれがある作業では、足場を組み立てるなどの方法で作業床を設けるのが原則(第518条第1項)
  • 作業床を設けることが困難なときは、防網を張るか、要求性能墜落制止用器具を使わせるなどの措置(第518条第2項)
  • 高さ2メートル以上の作業床の端・開口部には、囲い・手すり・覆いを設ける(第519条第1項)
  • 器具の使用を命じられたら、使うのは働く側の義務(第520条)。取り付け設備を用意し、随時点検するのは事業者側(第521条)
  • 高さまたは深さが1.5メートルを超える箇所で作業するときは、安全に昇り降りするための設備等を設ける(第526条)

ここで押さえておきたいのは、2メートルという線が思っているより低いということです。天井の高さが2.4メートルの部屋で天井際を触れば、足元はすぐ1メートル台後半になります。脚立の話は脚立の作業は「高所」に入らないのか|一人親方が知っておく2mと1.5mの線で詳しく扱っています。

建設業のケガの3人に1人は墜落・転落

厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」(令和8年5月・労働基準局安全衛生部安全課)の別表から、建設業の数字だけを抜きます。

  • 建設業の死傷者は13,437人(前年比412人減・3.0%減)。このうち墜落・転落が4,343人で、全体の32.3%
  • 次に多いのは転倒1,579人、はさまれ・巻き込まれ1,496人、切れ・こすれ1,158人、飛来・落下1,127人
  • 建設業の死亡は214人(同18人減・7.8%減)。このうち墜落・転落が91人で、42.5%
  • 全産業の墜落・転落による死亡は186人。そのうち91人、およそ半分が建設業

ケガ全体では3人に1人、亡くなった方では10人に4人以上が墜落・転落です。「高いところが怖い」は感覚の問題ではなく、いちばん人が落ちている場所を正しく怖がっているだけとも読めます。怖さを消す必要はありません。消すべきなのは、怖いまま何も言わずに上がることです。

常時足場や屋根に上がる作業と、脚立で足りる作業の対比。前者は足場の組立て・解体、屋根と防水、外壁の塗装、鉄骨の建て方。後者はクロスと床の張り替え、室内の照明や換気扇、建具の取付け、エアコンの室内機。

職種ごとに、高さはどこで出るか

職種名で分けると実態からずれます。同じ内装でも、階段室の壁を貼る日は足元が階段になり、テナントの天井を触る日は脚立の上に長くいます。作業の中身で分けたほうが正確です。

常時、足場や屋根の上に乗る作業

  • 足場の組立て・解体、鉄骨の建て方、とび
  • 屋根、防水(屋上・バルコニー)
  • 外壁の塗装、外壁材の張り替え

脚立でおおむね足りる作業

  • クロス・床の張り替え(室内)
  • 室内の照明や換気扇の交換、エアコンの室内機
  • 建具の取付け・調整、住宅設備の入れ替え

ただし後者にも例外はあります。天井の高い店舗や吹き抜け、外部足場からしか届かない窓、引込線に近い場所などです。「この職種なら上がらない」ではなく「この現場では上がるかどうか」を毎回聞くほうが実務に合います。職種そのものの違いは未経験からどの職種を選ぶか|内装・電気・設備の違いと決め方にまとめてあります。

高所が苦手だと採用されないのか?

結論は「言い方によります」。伏せて入るのがいちばん危険です。第518条第2項や第521条の措置は事業者がやることとして書かれていますが、事業者はあなたが苦手だと知らないまま人を配置します。

面接で伝えるなら、「高所が怖いです」で止めず、次の形にすると話が具体的になります。

  1. どこから苦手なのかを高さで言う(脚立の3段目までは平気/足場の2層目から手が汗ばむ、など)
  2. できることを一緒に出す(材料運び・下地・墨出し・器具の点検・片付けは問題ない)
  3. 逃げではなく段取りとして聞く(「上に上がる日はどれくらいの頻度ですか」)

あわせて、高さがからむ仕事には教育や資格の線があります。これを知っていると、面接で「自分がどこまでできる人か」を数字で言えます。

  • 足場の組立て・解体・変更の作業(地上または堅固な床上での補助作業を除く)は特別教育が必要(安衛則第36条)
  • つり足場・張出し足場・高さ5メートル以上の構造の足場の組立て等の作業には、足場の組立て等作業主任者を選任(同第565条)
  • 作業床の高さ10メートル以上の高所作業車の運転は技能講習が必要(労働安全衛生法施行令第20条)。10メートル未満は特別教育(安衛則第36条)
  • 高さ2メートル以上で作業床を設けることが困難な場所でフルハーネス型を使う作業は特別教育(同第36条)
  • ロープにぶら下がって行うロープ高所作業(40度未満の斜面を除く)も特別教育(同第36条)

裏を返せば、この一覧に入らない作業だけで組んでいる会社もあるということです。特別教育や技能講習そのものの受け方と費用は見習い職人の特別教育の受け方と費用|玉掛け・高所作業車・足場で扱っています。

苦手なまま続けている人がやっている3つ

  1. 脚立を「登る道具」にしない。高さまたは深さが1.5メートルを超えるところでは昇降設備等を設けるのが原則です(第526条)。脚立を階段や台の上に置いて足していくと、この線をあっさり越えます
  2. 作業床がないと分かった時点で、上がる前に聞く。防網や器具の措置は第518条第2項に書かれています。命じられた器具を使うのは第520条で働く側の義務でもあります。器具を渡されないまま上がるのが、いちばん立場の弱い形です
  3. 上を向く時間を割る。天井作業は続けるほど足元の感覚が鈍ります。20〜30分で一度降りて、材料の段取りをはさむ人は少なくありません

まとめ

  • 法律が高所として扱い始めるのは高さ2メートル(安衛則第518条・第519条)。1.5メートル超には昇降設備の話がある(同第526条)
  • 建設業の死傷13,437人のうち墜落・転落は4,343人(32.3%)、死亡214人のうち91人(42.5%)(令和7年確定値)
  • 職種名ではなく作業の中身で分ける。足場・屋根・防水・外壁は常時上がり、室内の内装・設備は脚立が中心になりやすい
  • 苦手は高さの数字で伝える。伏せて配置されるほうが危ない

なお、どの作業にどの教育や資格が必要かは、現場の条件や工事の内容で変わります。一般的にはこの整理で足りますが、自分の現場に当てはまるかどうかは、所轄の労働基準監督署や会社の安全担当に確認してください。体力や器用さの不安については未経験で体力に自信がない人は職人になれるか未経験で手が不器用でも職人になれるかも同じ考え方で書いています。

「自分の苦手だと、どの職種が向いているか」を実際に働いている人に聞いてみたい方は、職人になりたい人のフォーラムで相談できます。掲示板の使い方もあわせてご覧ください。

出典:e-Gov 法令検索(労働安全衛生規則、労働安全衛生法施行令。2026年8月22日確認)/厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」(令和8年5月)

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