職人の仕事はなくなるのか

結論からお伝えすると、職人という仕事がまとめてなくなることはありません。なくなるのは職種ではなく工程です。これまでも刻みや墨付けの一部は工場へ移り、階段や浴室は組み立てる形に変わりました。それでも現場から人はいなくなっていません。問題は「自分が今持っている工程は、移りやすい側か、残る側か」です。

ここを分けずに「なくなる・なくならない」を論じても答えは出ません。移った工程と残った工程を並べて見ていきます。

先に、「なくならない」で油断した例

職種がなくなったのではなく、担当していた工程が消えたという形で起きます。

  • 木材の加工が得意で通っていたが、取引先が全棟プレカットに切り替え、加工の手間が請求できなくなった
  • 階段の造作を売りにしていたが、規格品の組み立てに変わり、以前3日かかっていた工程が半日になった
  • 在来の浴室工事を主力にしていたが、ユニットバスへの入れ替えが進み、1件あたりの手間が大きく減った
  • 1つの工程だけを速くこなす形で通していたため、工程が消えたときに横へ移れなかった

共通するのは、腕が落ちたわけではないという点です。むしろ逆で、同じ作業を速く正確に繰り返せる人ほど、工場や機械に置き換えられやすい工程に張り付いていることがあります。これは業界の中ではあまり言われませんが、過去に何が置き換わったかを並べると否定しにくい事実です。

移った工程と、移らなかった工程

工程の性質すでに移った・移りやすい現場に残っている
形が決まっている木材の加工、階段・建具の製作、外壁パネルの製作
採寸どおりにいかない既存建物の納まり、傾いた床・壁への調整
1件が大量・同一量産部材の取り付け、工場での塗装
1件が小さく毎回違う原状回復、部分補修、改修工事
判断が要る解体して初めて分かる下地の処理、雨漏りの原因追い
他業者との調整工程が重なる現場でのすり合わせ

表の右側は、いずれも「事前に決めきれない」仕事です。図面と現物が合わない箇所を、その場で決めて手を動かす。ここは機械にも工場にも渡しにくい部分で、当面は人が残る領域です。

置き換えが進むかどうかは、技術の有無だけでは決まりません。費用が合うかどうかで決まります。工場で作れば安くなるのは、同じ物を大量に作るときだけです。築40年の戸建てで、床が5ミリ下がっていて、壁が通っていない。この1件のために型を作る意味はありません。1件ごとに条件が違う工事は、量産の論理が働かないので置き換えの動機が生まれにくいのです。

逆に言えば、同じ間取りが200戸並ぶ新築マンションのような現場は、部材を工場で作って現場では留めるだけ、という形に向かいます。過去に置き換わった工程を振り返ると、ほぼこの線引きで説明がつきます。

代わりに、こちらが減っている

仕事がなくなる心配より先に、担い手が減っている問題のほうが現場では大きく出ています。

  • 10人が入る現場で、20代が1人もいないことが珍しくない
  • 1棟の工期が短縮された結果、1人が同時に見る現場が2〜3か所になる日がある
  • 荷揚げを手伝う人がいないため、1人で1日30〜60枚のボードを上げる前提で段取りせざるを得ない

担い手が減ると、残った人に工程が集まります。これは仕事が増えることでもあり、体の負担が増えることでもあります。片方だけを見て「安心」とも「危ない」とも言えません。人が足りないから単価が上がる場面もありますが、同じ理由で1人分の工程を1人で追う日も増えます。どちらに転ぶかは、断れる関係を持っているかどうかで変わります。

では、何を持っていれば残れるのか?

特別な資格や新しい機械の話ではありません。

  • 工程を2つ以上持つ。片方が工場へ移っても、もう片方で続けられる
  • 既存建物を触れる。新築だけでなく改修に入れると、置き換えにくい側に軸が寄る
  • 段取りができる。人を集める、材料の手配を読む、他業者と工程を合わせる。ここは人がやるしかない
  • 記録を残す。施工前後の写真と、判断した内容のメモ。次の取引先に対する材料になる

段取りの部分は、人手が足りない日にどう動けるかで差が出ます。手配の考え方は急に人手が足りないとき、応援職人を最短で見つける方法にまとめてあります。

まとめ

職人の仕事はなくなりませんが、工程は入れ替わり続けます。危ないのは職種ではなく、決まった形を作る工程だけで食べている状態です。今の売上の何割が「毎回違う判断が要る仕事」かを一度数えてみると、次に手をつける場所が見えてきます。

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