職人が使う接着剤とシーラーは有機溶剤業務か|条文に「接着のための塗布」が入っている
厚生労働省が2026年8月21日、第3回「化学物質管理強調月間」のスローガン募集を始めました。募集期間は9月23日まで、応募資格は「特に設けない」。月間そのものは令和6年度に創設されたもので、毎年2月に実施、主唱は厚生労働省と中央労働災害防止協会、経済産業省と環境省が連携協力者に入っています(出典:厚生労働省「第3回化学物質管理強調月間スローガン募集要領」)。工場の話に見えますが、募集要領が挙げている取組の中身は「危険性・有害性情報の通知」「リスクアセスメントの実施」「日ごろの取組状況の総点検」。空室で接着剤とシーラーを開けている人の話でもあります。
結論からお伝えすると、内装職人が毎日やっている作業は、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の条文に名指しで入っています。「接着のためにする有機溶剤等の塗布の業務」「有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務」「有機溶剤等を用いて行う洗浄又は払しよくの業務」。工場の設備の話ではありません。ただし、すべての接着剤が対象になるわけではなく、重量の5%を超えて有機溶剤を含むかという線があります。
※この記事は2026年8月24日時点の条文(e-Gov 法令検索)に基づく一般的な整理です。個別の現場や製品が規則の対象になるかどうかの判断、健康への影響については、所轄の労働基準監督署または医師にご相談ください。

条文に何と書いてあるか
有機則第1条第1項第6号は「有機溶剤業務」を定義しています。イからヲまで並ぶうち、内装の現場に当たるものを抜き出します。
- ホ 有機溶剤等を用いて行うつや出し、防水その他物の面の加工の業務
- ヘ 接着のためにする有機溶剤等の塗布の業務
- ト 接着のために有機溶剤等を塗布された物の接着の業務
- チ 有機溶剤等を用いて行う洗浄又は払しよくの業務
- リ 有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務
- ヌ 有機溶剤等が付着している物の乾燥の業務
ボンドを刷毛やクシで塗る、塗ったものを貼り合わせる、シンナーで道具や下地を拭く、油性塗料を塗る。全部条文に書かれています。「有機溶剤の規則は工場の話」という受け止めは、条文を読むと成り立ちません。
「有機溶剤等」の線は5%
ここが実務でいちばん効きます。同条第1項第2号は「有機溶剤等」を、有機溶剤そのもの、または有機溶剤と有機溶剤以外の物との混合物で、有機溶剤を混合物の重量の5%を超えて含有するものと定義しています。
つまり、同じ「ボンド」でも、水性でほとんど溶剤を含まないものと、5%を超えて含むものでは扱いが変わります。手元の缶がどちらなのかは、缶を眺めているだけでは分かりません。SDS(安全データシート)を見ることになります。SDSは、譲渡・提供する側が通知する義務を負う書面です。労働安全衛生法第57条の2第1項が通知すべき事項を列挙しており、そこには「名称」「成分及びその含有量」「人体に及ぼす作用」「貯蔵又は取扱い上の注意」「流出その他の事故が発生した場合において講ずべき応急の措置」が入っています。缶や包装のラベルも同じで、同法第57条が「名称」「人体に及ぼす作用」「貯蔵又は取扱い上の注意」の表示を求めています。ラベルは飾りではなく、法律で書くことが決まっている欄です。
缶の色は決まっている
有機則第25条は、屋内作業場等で有機溶剤業務に労働者を従事させるとき、有機溶剤等の区分を色分けと色分け以外の方法で見やすい場所に表示させています。色は条文で固定です。
- 第1種有機溶剤等 赤
- 第2種有機溶剤等 黄
- 第3種有機溶剤等 青
現場で見る赤・黄・青の表示は、メーカーの意匠ではなく規則が決めた区分です。第1種がいちばん厳しい区分で、条文上は令別表第6の2の28号・38号に掲げる物が該当します。自分がいま何種を使っているかは、色を見れば当たりが付きます。

手袋は軍手でいいのか?
労働安全衛生規則第594条の2は、皮膚もしくは眼に障害を与えるおそれ、または皮膚から吸収され、もしくは皮膚に侵入して健康障害を生ずるおそれがあることが明らかな物として厚生労働大臣が定めるもの(条文の言葉で「皮膚等障害化学物質等」)を製造し、または取り扱う業務に労働者を従事させるときは、「不浸透性の保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等適切な保護具を使用させなければならない」と定めています。
キーワードは「不浸透性」です。布の手袋は液体を通します。溶剤を含んだものを布手袋で扱うと、染み込んだ液が手のひらに張り付いて、素手より長く皮膚に触れ続けることになります。条文が求めているのは、通さない材質のものです。
ただし、義務の範囲は「厚生労働大臣が定めるもの」に限られます。それ以外の化学物質については第594条の3が置かれていて、こちらは保護衣・保護手袋・履物・保護眼鏡等を使用させるよう「努めなければならない」という書き方です。義務と努力義務が条文で分かれています。自分が使っている製品がどちらに入るかは、製品のSDSと、厚生労働省が公表している対象物質のリストで確認してください。
一人親方は対象外なのか
まず正確なところを書きます。これらの規則の名宛人は「事業者」で、労働安全衛生法第2条第3号の定義では「事業を行う者で、労働者を使用するもの」です。人を雇っていない一人親方は、この条文で直接義務を課される側ではありません。
ただ、そこで終わりではありません。同じ条文の第2項に、こう書かれています。
「事業者は、前項の業務の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、同項の保護具を使用する必要がある旨を周知させなければならない」(安衛則第594条の2第2項)
同じ形の規定が有機則にもあります。第32条第2項は送気マスクについて、第33条第2項は送気マスク・有機ガス用防毒マスク・防毒機能を有する電動ファン付き呼吸用保護具について、それぞれ請負人に対し「使用する必要がある旨を周知させなければならない」としています。第18条では、請負人が有機溶剤業務に従事する間、局所排気装置や全体換気装置を稼働させることなどについて「配慮しなければならない」と定めています。
読み替えるとこうなります。一人親方に「これは防毒マスクが必要な作業だ」と伝えるのは、頼んだ側の義務です。何も言われないまま吹付けの部屋に入れられているなら、それは自分の不注意の話ではなく、発注した側の義務が果たされていない可能性がある状態です。逆に言えば、こちらから「この作業は保護具の周知の対象ですか」と聞けば、相手は答える立場にあります。聞きにくい話を、条文が代わりに聞いてくれます。
これらの請負人向けの規定は、令和4年5月31日厚生労働省令第91号によって加わったもので、施行は同令附則第1条のとおり令和5年4月1日と令和6年4月1日の2段に分かれています。5年前の知識のままだと、この部分は入っていません。
掲示されているはずのもの
有機則第24条は、屋内作業場等で有機溶剤業務に従事させるとき、次の事項を見やすい場所に掲示させています。
- 有機溶剤により生ずるおそれのある疾病の種類及びその症状
- 有機溶剤等の取扱い上の注意事項
- 有機溶剤による中毒が発生したときの応急処置
- 有効な呼吸用保護具を使用しなければならない旨及び使用すべき呼吸用保護具(定められた場所において)
3番目が実務です。倒れた人が出たときに何をするかは、倒れてから調べるものではありません。掲示が無い現場では、少なくとも自分の分だけでもSDSの応急処置の欄を読んでおく価値があります。
今日からできること
- 缶の色と区分を見る。 赤・黄・青は規則が決めた区分。第1種に当たるものを使う日は、換気と保護具の段取りを先に決める
- SDSを1回だけ読む。 見るのは「人体に及ぼす作用」「取扱い上の注意」「応急処置」「保護具」の4か所。製品が変わったときだけ読み直す
- 手袋の材質を確認する。 求められているのは不浸透性。布手袋の上に薄手のものを重ねると、かえって長時間触れることがある
- 窓を閉めた部屋で溶剤を開けない。 換気の設備を置けない現場では、送風機を持ち込むか、時間を分ける。条文が換気装置の稼働まで書いているのは、それが効くからです
- 頼まれた作業について、周知の有無を確認する。 吹付け、タンクや狭い場所の内部、密閉された空間。ここは条文が名指しで保護具を求めている領域です
- においや頭痛が残るときは受診する。 判断は医師に渡してください。慣れの問題として片付けないこと
スローガンの募集は9月23日まで、応募資格は特に設けないとされています。現場で毎日缶を開けている人の言葉のほうが、会議室で考えた標語より刺さります。過去の受賞作は「慣れた頃こそ再確認 化学物質の扱い方」(第2回金賞)、「正しく理解 正しく管理 化学物質と向き合おう」(第1回金賞)。応募作品の著作権は主唱者に帰属し、一部を修正して使用することがあるとも書かれているので、そこは承知のうえで出す話になります。
保護具そのものの選び方や粉じん対策は道具の話としても扱っています。体を壊さずに続けるための工夫は体を壊さずに続けるための工夫、元請けから求められる安全衛生の書類は一人親方が元請けから求められる書類一式、健康診断の費用を誰が持つのかは一人親方の健康診断は自腹なのかにまとめています。熱中症対策で「元請けが講じる措置の対象に入っている」という同じ構造の話は一人親方は熱中症対策の義務化の対象なのかを参照してください。
換気の取り方は現場の形でまったく変わります。職人の相談・雑談の掲示板で、狭い部屋でのやり方を聞いてみてください。

